セーブポイント作ったんで、第二部はきっとやります

 ギャグが思いつかなくなってしまった俺は、第一部完を目指す。

 完璧な計画だ。あとは目の前のボスを倒せば終われるはずだった。


「で、そんな完璧な計画をなぜ邪魔した?」


「穴だらけだよ! 欠陥しかないでしょ!?」


「まったく……どうしてマサキ様は適当に生きるんですか」


 突然やってきた女神ユカリに邪魔されなければ、順調に終われたのに。

 仕方がないので、旅館の休憩所みたいな場所で会議だ。

 四人それぞれがソファーに座り、ゆったりと寛いでいる。


「いやいや、そうでもないぞ女神よ」


「うるさいですよボスキャラ」


 謎だった商人ことバクオムスも俺と同意見だ。

 今は倒すべき敵だが、完結に向けての想いは同じさ。


「でもこいつは倒さないといけないだろ?」


「それはそうですけど……」


「ここじゃまずいようなら、セーブポイントでも作って、別の凄いラスボスっぽい空間で決着つけようぜ」


 幸い他の客の姿はない。今なら別空間へ行っても驚かれない。

 善は急げとも言うだろう。


「ないです。現実にセーブポイントとかないです」


「女神の力で作れるだろ? でなきゃ俺が作るぞ」


 頑張ればセーブポイントくらいどうにかできる。

 もうその行動がボケだからだ。

 とりあえず老人の格好をして、催促してみよう。


「女神さんや、セーブポイントはまだかのう。わしは毎日のセーブポイントだけが楽しみなんじゃあ」


「ボケないでください。二重にボケてるでしょそれ。毎日のセーブポイントとか意味わかんないんですよ」


 ユカリからは不評だ。だかここでラスボスからアシストが入る。


「おやおや、おじいさんや。セーブポイントなら昨日食べたでしょ」


「お前もボケるなああぁぁ!! なんで昨日食べたんですか!! どうやって食した! 過程を言ってみなさい!」


 俺と商人の老夫婦コンビの要求は、無残にも却下された。


「いやほら、食卓に並ぶタイプのやつだよ。白米に乗せるやつ」


「そんなタイプがあるかあぁぁ!!」


 ユカリは猛烈に反対してくる。

 何がそこまで気に入らないのか、むしろこっちが気になるわ。


「マサキ様、そもそもなんで急いでいるの?」


「そりゃお前、ギャグの溜めに一ヶ月はかかるからだよ。セーブポイントは今作っとかないと、余裕なくなっちゃうからね」


「スケジュールは余裕を持って。これは商人にも言えるな」


「うっさい死の商人!」


 あんまりうだうだやってもしょうがないし、怒るユカリをなだめる折衷案でも考えるとするか。


「じゃあ商人からセーブポイント買えばいいじゃん。セーブポイントと焼きそばパンとコーヒー牛乳買っときゃいいんだよ」


「学生のお昼ごはんじゃないんですよ!!」


「昼飯に買っておくタイプのセーブポイントだな」


 承認が自分の道具袋を漁り始めた。まあ持ってるよねそれくらい。


「なんで無理やり食卓に並べようとするんですか! セーブポイントうっさい!」


「まあ落ち着け。叫んでも喉が痛くなるだけだ。ほらお茶いれてやったぞ」


 心が落ち着くお茶を用意してやった。これでも飲んでリラックスしてくれ。


「セーブポイント茶だ」


「飲めるかああぁぁぁ!!」


 ちゃぶ台ごとひっくり返された。お前そんな古典的な……女神ってやっぱ結構な年取ってるのか。


「なんでちょっと光ってるの!? 青白く光ってるよこれ!?」


「セーブポイント茶は手でほうじないと、本来の香りが出ないんだぞ」


「それもうほうじ茶でしょうが! いやこんな色のほうじ茶があるか!!」


 ころころ意見が変わって忙しいやつだな。

 バクオムスが呆れ顔だぞ。


「落ち着くのだ女神よ。青白く光っているのは、セーブポイントの粉末を使ったからだ」


「粉末? 粉状にできるの?」


「これが俺のセーブポイントだ」


 青白いオーラを溢れさせながら、宙に浮いて輝くクリスタル。

 これぞ一般的なセーブポイントと言えよう。


「うわああ……すごくそれっぽくて、逆に嘘くさいです」


「ふむ、職人の技が見える。高く買い取ってもいいぞ」


「職人がいるんだ……」


「あれだよ、弟子入りして何年も見て覚える期間とかあるんだよ」


「天ぷら職人じゃないんですから」


 なんとなくリラックスして雑談できている気がする。

 これはちょっと、敵をして戦う時に遠慮しそうでいけないな。


「次からセーブポイントの話題禁止です!!」


「えー」


 女神から禁止令が出てしまった。気難しい年頃なのかね。何歳か知らんけど。


「えーじゃない、ゲームから離れろこのゲーム脳が!!」


「はいはい、文句言っても敵は倒さないといけません。アストラエアが戦乱の渦に巻き込まれても嫌だろ?」


「それは困るわ! 女神様、倒すことは前提でいいですか?」


「ええまあ、そこは異論はありませんが……」


 じゃあどう倒すかになってくる。

 舞台はどうするか。今問題なのは何か。


「首輪ってどこまで流通してる?」


「我がつけているもので全部だ。設計図も残していない。第二部に引きずるわけにはいかぬ」


「手下は?」


「マーシャルで全部だ」


「リクサーっていうのは?」


「偽名だ」


 なんだ完璧じゃないか。これは助かる。


「よし、じゃあお前を倒せば終わりだな」


「都合が良すぎるでしょう!?」


「宇宙っぽい空間へのワープゲートを作ったぞ」


 バクオムスが戦いの空間を作ってくれた。後はしっかり戦うだけだぜ。


「どうやって!? これどうしたの!?」


「あとは全力で最終回っぽくぶつかるだけだな」


 しっかりセーブもしたし、覚悟も決めた。

 やってやろうじゃないか。


「じゃあ行くぞお前ら」


「私たちも行くの!?」


「そりゃ見届人がいないとな」


「わかりましたよ……ちゃんと戦って、しっかりハッピーエンドで終わりますよ」


「当然だ」


 そして宇宙っぽい空間へ。

 広くて大きい、ダイヤのような素材でできた足場の上に立つ。


「始めようか。世界の命運を賭けて!」


「よかろう! かかってくるがいい英雄マサキ!!」


 バクオムスの首輪が輝き、黒く洗練された鎧へと変わっていく。

 特別製なのか、金色と赤の装飾が入っていた。


「豪華だな。ならばこちらも変身だ!!」


 相手に合わせ、俺も白を基調とし、金と青の装飾が入った鎧へと変身完了。


「これぞ勇者の鎧だ!」


「急にそれっぽい鎧だー!?」


「私も初めて見ますね」


「そして勇者の剣!!」


 同じ雰囲気のデザインで剣も出す。これで準備は整った。


「いざ参る!!」


「トオオァァァ!!」


 中央でぶつかる光と闇の剣。その衝撃と轟音で、世界が震える。


「やるじゃないか」


 強引に剣をぶつけ、敵が怯んだ隙に横薙ぎの一線を入れる。


「なんの!!」


 最小限の動きでかわされるが、そこには同時に放った光の斬撃が飛んでいる。


「邪竜獄炎剣!」


 黒い炎の龍が叫び、斬撃を消し去りながら俺へと突っ込んでくる。


「希望は、光は消えない! ホーリークロス斬!!」


 十字の斬撃が回転し、そのまま龍を引き裂き敵を討つ。


「ぬううううう!!」


 だが敵も弱者ではない。剣で受け、体を捻って明後日の方向へと斬撃をそらす。


「一筋縄ではいかないか」


「無論。だがここまでやれたことは褒めてやろう」


「なんか凄い真面目に戦ってるー!?」


「最後だからな」


 かっこよく終わらせて、綺麗に第一部完とするのだ。


「いや真面目に戦えないんじゃなかったっけ!?」


「安心しろサファイア。真面目に戦っているこの状況と、そこまでのやり取りが合わさって、これはもう『真面目に戦う』というボケなのさ!!」


「とんでもない屁理屈飛び出した!?」


「せええりゃあああ!!」


「チェストオオオォォ!!」


 剣戟の乱舞が再開される。

 火花が散り、血と汗で透明な舞台が彩られていく。

 それはまるで、俺たちという演者によって色を変えていく宝石のようで、見るものの心に焼きついていった。


「モノローグが気持ち悪い!? 似合ってないよ!?」


「終わりにしようぜ」


「よかろう。次の一撃をもって決着をつける!!」


 ここまで完全にかっこいい展開だ。礼を言うぜバクオムス。

 俺はありったけの希望の光を。

 バクオムスはこの世すべての闇を剣に集めていく。


「本当にシリアスにやってますねえ」


「邪竜超烈閃!!」


「必殺異世界チート! シャイニングドラゴン!!」


 光と闇の、白と黒のオーラでできた龍が激突する。


「うおおおおおぉぉぉ!!」


「まだだ! この程度ではやられんぞおおぉぉ!!」


「ちっ、確かにな。だが俺には、俺の帰りを待つみんながいる! みんなの声援が俺を強くする!! さあ、みんなで俺を応援しよう!!」


「応援上映だった!?」


「さあどんとこい!!」


 最後は仲間の応援で立ち上がり、勝利を掴む。

 よしよし、勇者っぽいし、これ以上ない非の打ち所のないラストだぜ。


「まさきさまがんばれー」


「そうだー」


 サファイアとユカリの声に元気がない。やる気ゼロだよこいつら。


「もっとやる気出せ!!」


「出ませんよ!!」


「何なのこの展開……」


 そこは乗って欲しかった。ほらちょっと押されてきたぞ。


「お前らにかかってるぞ!」


「ああもうしょうがないですね……マサキ様ー! 負けないでー!」


「世界を守ってマサキ様ー!!」


「よっしゃあああぁぁぁ!!」


 応援によりパワーは無限に上がっていく。これで決まりだ。


「ヌウウゥゥ! 見事……見事なりいいいいい!!」


 闇を打ち払い、俺の技はバクオムスを飲み込んで、跡形もなく消し飛ばした。


「ふう……終わったな」


 鎧を解除して、サファイアの待つ場所へ歩いていく。


「やった! マサキ様が勝った!!」


「さ、帰ろうぜ。飯食って、また夜に風呂入るんだから」


「しょうがない人ですねもう」


 ユカリもなんやかんやで許したみたいだ。

 これでいい。こうやって、この世界が平和になるまで、サファイアと一緒に守っていこう。


「よーし、晩飯まで卓球やるぞ」


 旅館へ戻り、三人で卓球の準備をする。

 今は平和を謳歌しよう。こんなにもいい仲間がいるのだから。

 この平和を大切に生きていこうと思う。


「俺たちの冒険はこれからだ!」


 第一部完。


「これでよかったのかなあ?」


「いいんじゃないですかもう」


 本当に完。きっとやる第二部をお楽しみに。

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