武器人間と口寄せと射的の的

 赤い鎧の男を倒そう。そういや名前知らんな。


「お前さん、名前は?」


「マーシャル。あの世でおれに倒されたことを自慢しろ」


 マーシャルの右腕が膨れ上がり、数え切れない矢とナイフがこちらを向く。


「ピラニアに守ってもらえるか、試してみな。英雄様あ!」


「そうはさせない! 氷結結界!!」


 サファイアの生み出す氷の壁が、マーシャルの飛び道具を阻んでくれる。


「いいぞサファイア! あいつの武器が減るまで壁を作るんだ!」


「無駄だ。おれは体から武器を出せる。そして武器そのものが体だ。どちらかじゃない。両方の要素が混ざっている」


「武器人間か」


「そう、おれから生み出された武器。元手ゼロで金になる。商人とつるむにゃあ、うってつけだ。いくらでも出せるぜ」


 際限なく出せるタイプか。こりゃ面倒だ。


「させない。フレイムブレイカー!」


 炎が一直線にマーシャルへ突っ込む。多少は削れるといいんだが。


「武器分解!!」


 全身が小さな武器となり、空中に散らばっている。

 そういう回避の仕方ができるか。


「武器大蛇!!」


 様々な武器が集まって、大蛇のようにうねる。

 そのままこちらへ迫ってきた。


「武器なら錆びちまえばいいだろ。サファイア!」


「ウォータートルネード!!」


「海のミネラル!!」


 水の渦を海水に変え、武器全体に浴びせてやる。


「無駄だ! そんなもんで錆びるかよ!」


「ええい、無駄に強い!!」


 後方へ大きく飛び、大蛇の口から避難する。

 しっかしどうしたもんかね。こいつは長引かせると面倒だ。


「大ボウガン!!」


 巨大な弓矢となって、武器の塊を高速射出する技か。


「しょうがねえなあ。俺が射的の的になってやるよ」


 射的で使われる、あの丸い中央が丸く塗られた丸いあれになってやる。

 吸い込まれるように全弾中央へと刺さっていく。


「やれやれ危なかったぜ」


「刺さってるよ!? 思いっきり刺さってる!!」


「そりゃお前、俺は的なわけじゃん? じゃあこれが仕事じゃん?」


 これが的魂だ。ここに超一流の仕事人が誕生した。


「英雄マサキが的になってくれるとは光栄だねえ」


「俺は的じゃねえ、マサキだ!」


「どっちなの!?」


「つまりあれだろ? これから死ぬってことだろうが!!」


 こいつはまだわかっていないようだな。論理的に解説してやろう。


「俺は的だからね。死ぬとかないから。無機物だから」


「つまり射的の的なんだろ?」


「俺はマサキじゃボケエエェェ!!」


 なぜか人型に戻ったマーシャルの腹に、渾身のボディブローを叩き込む。


「ぼべええぇあああぁぁ!?」


「ええぇぇぇ!? どんだけ自分勝手なの!?」


「人の道がわからんやつだぜ」


「やってくれんじゃねえか……もう手加減してやらねえぞ!!」


 武器全てが上空へと舞い上がり、一斉に降り注ぐ。


「結界!!」


 こんなもん全部防御なんてしてられっか。

 さっさと湖に近づき、せっせと釣り糸を垂らす。


「よし、これでいい」


「なにやってるの!?」


「釣り」


「戦闘中だよ!?」


「てめえから隙を見せるたあ間抜けが!」


 マーシャルの背中から、大量の大筒が生えてきた。


「一気にぶっ飛ばしてやる! くらえやあ!!」


「氷よ! マサキ様を守って!!」


 氷が爆発で砕け散り、周囲に小さい欠片となった氷が降り注ぐ。


「ナイスだサファイア。時間を稼いでくれたおかげで、獲物がかかったぜ!」


 勢いよく釣り上げたのは、マーシャルとまったく同じ姿の二人。


「ええぇぇぇ!? 人が釣れた!? っていうか敵が釣れたああぁぁ!?」


「あなたが落としたのは、俺の言うことを聞く、並行世界から来た善良なマーシャルですか? それとも、あなたの三倍強いマーシャルですか?」


「何をわけのわからねえことを! おれはおれだ!! おれだけが本物だ!!」


「正直者のあなたには、両方の攻撃を差し上げましょう。やっておしまい!」


「アイアイサー、キャプテン」


「キャプテン!?」


 本物よりも圧倒的に火力も密度も高い攻撃が、マーシャルに向けて発射され続ける。


「必殺異世界チート! 平行世界フィッシング!!」


「おれが……おれの武器が押されっぱなしだとおおぉぉ!!」


 平行世界から選んで好きなものを釣り上げられる。

 なければ好きに作り出して釣り上げられる。

 それが今回の異世界チートだ。


「観念して話せ。あの商人は何者だ」


「知らんな。一儲けしようって誘われただけさ。おれはただの傭兵よ」


「あの人の目的は何?」


「この首輪の実験にアストラエアを選んだ。それしか話さねえ。帝国残党がいて、テストに最適だと思ったらしい」


 単独犯なのか共犯者がいるのか、もしくは本来の目的を隠しているのか。

 なかなか実態がつかめなくて面倒だ。


「くだらねえお喋りは終わりだ。お前を倒す方法も見つかったしな」


 結構ボロボロになっているけれど、まだ勝つ気なのか。

 何か秘策でもあるのかね。


「お前を倒せば、そいつらはどうなるんだ? 英雄マサキ様よ!!」


 湖の下から大量の爆弾が撃ち出された。


「撃ち落とせ!」


 釣り上げたマーシャルに迎撃させるも、数が多すぎる。

 サファイアの氷の壁も、爆弾の火力が高いのか、すぐに粉々になってしまう。


「甘いんだよ! おれは武器があればいくらでも増殖できる。そして武器そのものがおれだ! 誰も消すことなんてできやしねえ!」


 周囲に落ちていたナイフが集まりだし、さらに意思を持って襲いかかる。


「じゃまくっさいわ! これならどうだ!!」


 湖から巨大な赤い手が現れ、マーシャルたちを掴んでいく。


「ぬおぉぉ!? なんだこりゃあ!!」


「どれだけ分裂できようが、操作している本体、つまり魂がいるはず。そいつを冥府へ引きずり込んでやるのさ」


「オオオォォォォ……」


 湖から聞こえる怨嗟の声。周囲に不快感と背筋が凍るような思いを植え付け、ついに水面からその姿を表す。


「必殺異世界チート! 赤い怨霊冥府便!!」


 それは巨大な赤い紅い血のような色に染まった、巨大な怨霊。

 マーシャルの攻撃をすり抜け、あの世へと誘うのだ。


「なんて大きな幽霊……すごく赤くて……なんていうかこう……」


「オオォオォォ……」


「これマーシャルだああぁぁぁ!?」


「マーシャルの霊を口寄せしてみました」


「死んでないよ!?」


「死んだやつを巨大な霊にしました」


 必死にもがくマーシャルだが、その攻撃はすべて空振りに終わる。

 やつの攻撃は物理攻撃のみ。霊体にダメージが入らない。


「お前のような悪党には、地獄がお似合いだぜ」


「はっ、離せ! こんなもんに……うっ……うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 湖は暗く黒い穴となり、悪しき魂を読んでいるようだ。

 結局抗えず、そのまま霊と一緒に地獄へ落ちていった。


「やれやれ、ちょっと助かったが、悪霊は野放しにできんな」


「どういうこと?」


「点火」


 手元のスイッチをオン。

 霊が落ちていった穴から、巨大な火柱と爆音が轟く。

 これで綺麗な湖に戻った。


「ええええぇぇぇぇ!?」


「お焚きあげ完了だ」


「違うよ! お焚きあげってそういうことじゃないよ!?」


「そちらも終わったか」


 ヴァリスとアリアも終わったようだ。

 騎士団も死人はいないっぽい。優秀だな。


「結局商人の正体はわからん。足取り追えるか?」


「すまない。どうやらいつの間にか消えていたようだ」


「厳しいねえ」


「とりあえず武器は止められたんだし、民が無事だしよかったわ」


 被害は最小限。そして敵の正体は謎のまま。

 手放しでは喜べないが、それほど落ち込むこともないか。


「周辺の聞き込みと調査は続ける。だが姫は城に戻っていてください。残党がいないとも限らない」


「わかったわ。気をつけてね」


「俺とヴァリスで護衛はしておくよ」


「こちらは任せてくれ」


 専門家じゃない俺がいても邪魔だろう。

 護衛の兵士さんたちもいるし、まずは城に戻る。

 ここからは商人を追う手段を見つける必要があるな。


「少し休もう。ボケすぎて疲れた」


「疲れ方斬新だね」


 本当に休ませてくれ。ゆっくり風呂にでも入りたい。

 疲れた体で城に戻るのだった。

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