謎の商人を追え
カセーマとの戦いから一夜明け、俺たちは城で待機していた。
「調査結果が出たぞ」
アリアが報告書を持ってくる。
騎士団と隠密部隊が有能らしい。一日で調査できるもんなのか。
「残党に売っていた武器屋に聞き込みをした。カセーマが首につけていたものだが、絵も見せたが該当者なし。そんなものは売っていないし、存在も知らないらしい」
「嘘という可能性は?」
「ほぼないだろう。我々が残党軍の拠点を壊滅させ、カセーマも手配書の回っているやつだ。庇うほどのメリットはない。軽く魔法も使った」
「では入手経路は……」
「まったく未知の相手でなければ、例の商人だろう」
そいつの正体が不明のままじゃ、こっちとしても手の出しようがないな。
「どうする? あんなもん増やされちゃきついぞ」
「とりあえず商人を抑えようと思う。残党は半分以上が殲滅完了している。騎士団で対処可能だから、商人を見つけるのだ」
「どういう罪で捕まえる?」
「精神に深く入り込んだり、人体を変質させて化け物にするような魔道具は違法だ」
なーるほど。そりゃあんな正体不明の化け物になるもんは規制されるわな。
「現行犯で抑えるのが一番か」
「うむ、目的が不明だからな。残党なのか、まったく別の目的で動いているのか調べたい」
帝国残党ってんならいい。シンプルに倒せばいいからな。
まったく別の組織や目的があると、それだけで対処が遅れてしまう。
「アストラエアに危険が迫っているなら、私たちでなんとかしないとね」
「同感だ。あんなものが世界に拡散すれば、アストラエアもギャンゾックも民が安心できん。オレはこの件に最後まで関わらせてもらう」
「お前がいりゃ心強いさ。で、どうやって捕まえる?」
「まだ商人が訪れていない店を張り込む予定だ」
「わかった。案内してくれ」
そしてやってきたのは喫茶店。少し広めの通路を挟み、向かいには武器屋がある。
「こういうのちょっと楽しいよな」
「わかるわ。探偵みたいよね」
四人とも私服である。一般人に変装しているのだ。
店内からガラス越しに武器屋を監視している。
「あの店が怪しいの?」
「まだ商人が訪れていない店は三件。そのうち一個は最大手だ。騎士団もよく出入りしている。手配書も噂も回っているから、まず立ち寄らない」
怪しい商人から安物を買う必要がないんだな。
国と騎士団相手に商売してた方が儲かる。店の損得的にも納得できるな。
「残り二件はそれなりの規模の店だ。国の内外両方と取引をしている。すでに隠密を配置してある。何かあれば連絡が来るはずだ」
「わかった。なら気長に待つか」
「今のうちに商人の変装を確認しておくぞ。メガネやマフラー、帽子など多彩だ」
作戦会議なんぞしつつ、ちまちま喫茶店メニューを食っている。
これ結構暇だな。楽しいのは最初だけか。
「名前は偽名の可能性もあるが、許可証からリクサー。二十代から三十代の男。肩書は武器商人」
「聞き覚えは?」
「ない。やつが来た店の店主も聞いたことがないようだ。アストラエア国内では動いていなかったのかもしれん」
「そうなると難しいな……」
「む……来たか」
一斉に入り口へと視線を向ける。それっぽいやつがいない。
武器を大量に持っていないとおかしいからな。
「わかるのか?」
「ああ、今出てきた者がこちらの使いだ」
武器屋からこちらに歩いてくる男が一人。
左側につけた剣を、親指でちらりと軽く刃を見せ、外を通り過ぎていった。
「合図だ。行こう」
素早く身支度を終え、武器屋に行く。中には数人客がいる。
カウンターに男が二人。店主と何やら話しているようだ。
帽子が報告にあったやつと一緒だが、複数犯なのか。
「ではこれにて失礼いたします」
「今後ともよろしくお願いします」
少し前に武器屋に入っていった二人組だな。
どう見ても二十本は剣がある。どうやって持ち込んだんだ。
帰るところらしいな。
「またどうぞ」
すれ違いざまに見えた顔は、金髪と赤い目の男。
もう一人はフードを深くかぶっていて見えない。体格からおそらく男。
「店主、少し武器について話を聞きたい」
さっと騎士団の証と捜査令状を見せるアリア。
少し驚きながらも、平静を装い対応する店主。
騒がれなくてよかった。
「これは今の商人から買った武器か?」
「ええ、格安で剣が三十本。槍が二十本」
おかしい。どこにどう入れてたんだよ。
「名前は?」
「リクサーと」
「もう一人は?」
「名乗りませんでした。武器はそっちがどこかから出して……」
店内はそれなりに広く、壁にもケースにも武器が飾ってある。
俺に良し悪しはわからん。
「新規客ということか?」
「はい、名前も聞いたことがございません」
「こういうアイテムを貰ったか?」
首輪の絵を見せている。だがこれも外れ。
どういうことだ。首輪の供給源がわからん。
「わかった。また来る」
隠密が店を出た二人を尾行しているはず。
ここで戦うわけにもいかんからな。
そっちの報告待ちか。
「今回の店主も知らないか……」
事情聴取を終えて外へ出ると、店の前にいた人がこちらを見て歩き出す。
二人組みだな。少し離れてついていこう。
「変装した騎士団だ。話しかけないよう、一定の距離を保て」
やがて案内されたのは、湖の見える広い公園だった。
通行人に化けた人が話しかけてくる。
「ボートで湖へ。理由は不明です」
「ご苦労。念の為、周辺に気を配れ」
「はっ」
行ってみるしかないだろう。ボート乗り場もある。
「なんでボートかね?」
「わからん。素直にアジトへ帰ってくれればいいのだが」
四人乗りのボートを借りようとしたその時、乗り場が光り大爆発を起こす。
「結界!!」
サファイアの結界で事なきを得るが、こいつは面倒なことになったな。
「危なかった……ナイスサファイア」
「すまない。助かった」
あらかじめ民は避難させていたので、そっちの死傷者はゼロだ。
「うろちょろと目障りなやつがいたものだ」
湖に浮いたボート。その上にフードの男が立っている。
「尾行などされると迷惑だ。邪魔はしないでもらおうか。サファイア姫、アリア殿」
「素性がバレているか」
「まさか王族自ら出向いてくるとは……まあいい。サファイアとエメラルド、両方いては平和すぎる。狩らせてもらうぞ」
男の腕から大量のクロスボウが現れ、一斉にこちらへ撃ち出される。
「必殺異世界チート! 口寄せピラニア大暴走!!」
水面より飛び出した、おびただしい量のピラニアが、飛んでくる矢を食い荒らす。
「ほう、妙な術を使う男だ。だが用があるのはサファイア姫のみ」
「私がサファイアだ」
サファイアと同じ衣装に身を包み、水色のヅラをつけた俺。
これで身代わりにくらいなれる。
「えええぇぇ!? どっから持ってきたのその服!?」
「ふざけているのか? サファイア姫を差し出せば、命だけは助けてやるぞ」
「俺がサファイアだっつってんだろうがあぁぁ!!」
「俺って言っちゃってるよ!?」
「サファイアだって俺って言うことくらいあるだろ!」
「ないよ! いいから元の服に戻って!」
仕方ないのでお姫様ドレスに戻る。
「やっぱりお姫様はこれじゃなくっちゃ」
「気持ち悪い!? お願いだからそのかっこやめて!!」
「安心しろサファイア。時間は稼げたぜ。ピラニアの小腹がすくくらいの時間はな」
男の背後から、数百のピラニアが覆いかぶさっていく。
「これぞサファイアの得意技、ピラニア無限地獄!」
「そんな技ないよ!?」
「バカが……」
男の体から無数の刃が飛び出し、ミキサーのように高速回転を始める。
「なんだと!?」
ピラニアはバラバラにされ、別の魚たちの餌になっていった。
「これが自然界の掟か。恐ろしいぜ」
「どこに驚いてるの!?」
「こんなもんで狩られるほど、こっちはヤワじゃないのさ。ちょいと間引きさせてもらおうかい」
ぞろぞろと知らん連中が武器を持って集まってくる。
かなりの数だな。ここまで敵が増えるとは思わなかった。
「武器屋で見たやつもいるな」
「さあ、本気で狩るぜ!」
首にカセーマのつけていた首輪がある。
左右に引っ張ると、紫色の宝石が光るのも同じだ。
「まずい! 民間人を避難させろ!!」
ザコどもがアジトで見た黒い戦闘員へと変わっていく。
「戦闘態勢をとれ!! マサキ殿、姫とあの男は任せた!」
「オレも民間人を守る。サファイア様を頼んだぞ!!」
「わかった!」
「二人とも、気をつけてね!」
あっという間に騎士団と敵の乱戦が始まる。
俺とサファイアであの男を倒すしかないな。
「マサキ……マサキ……そうか、その男が英雄マサキか」
赤い鎧だ。まるで刃を重ねて作られたような、不気味で暗い赤い鎧。
その中から、感心と納得の含まれていそうな声がする。
「知ってんのか?」
「ドグレサ帝国を壊滅に追い込んだ英雄が、まさかこんな若い男だったとは」
「そこまで知られているのね」
「もう少し自分の知名度ってもんを意識するべきだな。英雄譚は広まっているぞ」
正直ピンとこない。俺の顔を知っているやつが少ないからな。
街にいても話しかけられたりしないし。
「英雄相手に性能テストができるとは運がいい」
「テストで終わるかな?」
「おとなしく目的を話しなさい。アストラエアで何をしようとしているの!」
「知りたきゃおれを倒してみるんだなあ!」
とりあえず倒すしかないようだな。やってやるぜ。
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