友人に不条理ギャグかますと罪悪感凄いよね

 クイーンズフードファイトが終わり、ルビーさんとカルロスは帰ることになった。

 今日は城門前までエメラルドさんとサファイアとお見送り。


「本当に有意義極まりない時間だった。ぜひまた手合わせ願いたい。紳士的にね」


「救国の英雄は伊達じゃないのね。その名前は覚えておくわ、マサキ」


 よくわからんが気に入られた。めっちゃいい笑顔で健闘を讃えられております。


「楽しかったわ~ぜひまたやりましょうね~」


「もう俺を巻き込まんでください。次はサファイアあたり助手にどうですか?」


「私!? 無理無理! 何もできないわよ!」


 なすりつけ大作戦は失敗に終わった。

 いやまあ本当にやばそうなら俺が代わるけど……二度やりたくねえなあ。


「今度遊びに来るといい。フードファイト抜きで歓迎するよ」


「それはちょっと楽しそうですね」


「いつでもいらっしゃい」


 そして二人は豪華な馬車に乗り、護衛の人々を引き連れて去っていった。

 大所帯だなーあれ。でも王族ってそういうもんだよな。


「さて、じゃあさっさと帰って……」


「おや、ちょうどいい所で会えたな」


 ヴァリスだ。ギャンゾック騎士団若手ナンバーワンエース。

 白いマントで体を隠し、その中には豪華な鎧が見え隠れしている。


「今日はよく人に会う日だな」


「ヴァリスさん?」


「あらあら~。来るなら連絡してくれれば~おもてなしもしたのに~」


「いえ、今回は任務ではありませんので」


 こいつが来るという連絡はない。

 ギャンゾックのえらいさんだが、護衛もいないっぽいぞ。


「とりあえず立ち話も何だ。城に……入れていいよな?」


「もちろんよ。行きましょう」


「かたじけない」


 そして客室でお茶とお菓子を挟んで座る。

 俺の両脇にサファイアとエメラルドさんが座っていた。


「で、なんでまた護衛もつけずに来た?」


「端的に言えば武者修行だ」


「本当に端的に……国はいいのか?」


「マサキのおかげでな。今ギャンゾックは平和そのもの。余裕ができたのさ。だから国王に休暇を頂いた。帝国討伐の恩賞の一つさ」


 なんでも若いヴァリスの才能を腐らせることのないよう、しばらく休暇を与え、自分の目で国を見てくるといいと言われたとか。


「オレには足りないものが多い。まだまだ弱いままだ。だからマサキに頼みがある」


 どうやらそれが目的っぽいな。しかし随分と真剣な顔だ。休暇にする顔じゃないぞ。


「しばらく同行を許して欲しい。マサキといて、その強さに近づければと思っている」


「…………俺に近づいちゃダメだと思うぞ」


「うん、それは私もそう思う」


「そうね~」


 俺の強さはボケ倒す不条理ギャグだ。間違いなく間違っている。


「そんなことはない。オレは未熟な自分を恥じているんだ。頼む!」


「俺は自分の戦いを恥じっぱなしだよ」


 できればやりたくねえよ。仕方ねえだろ勝てねえんだから。

 普通にかっこよく戦えるこいつが心底羨ましいぞ。


「ギャンゾック内でもかなり強い方だよな?」


「いいや、圧倒的に経験が足りない。オレではどうにもならないはずだ」


「直接対決なら勝てる人は十人いないはずよ~」


 こいつハイパーエリートだな。足りない部分ゼロかよ。


「だが百回戦おうとも、オレではマサキには勝てない。帝国を壊滅させたマサキに、戦い方を教わりたい」


「無理だって。他人にできる戦闘スタイルじゃない」


「いいんじゃないかしら~」


「お母様?」


 エメラルドさんの真意が読めない。この力は真似できるもんじゃないぞ。


「ヴァリスくんは確かに強いわ。けど遊びがなさすぎるのよ~」


「遊び……ですか?」


「心の余裕と言い換えてもいいわ~。そういう意味でクリーガー王も休みを出したんじゃないかしら~」


「なるほど、心の余裕か……」


 常に張り詰めている真面目なやつってイメージだ。

 だからこそ余裕を持って行動できれば、大概のことは解決できるだろう。


「お城にいるのも、アストラエアを旅するのも許可するわ~。いろいろ見物してらっしゃいな~」


「ありがとうございます! このご恩はいずれ必ず」


「それで悩みが解決できそうならそれでいいさ」


 しばらく城に泊まるかもしれない。だがまあ悪いやつじゃないし、同世代の友人はこいつだけ。いてもいいと思うよ。


「ではマサキ、早速オレと戦ってくれ!」


「絶対にイヤ」


「そこは戦ってあげようよ!」


「悪影響しか与えない気がする……」


「頼む!」


 渋々了承して中庭へ。ううむ……これでいいんだろうか。


「じゃあ私が見てるから、二人とも頑張って」


 サファイアが見届人。エメラルドさんは仕事があると別行動。

 準備運動をしながら、少し離れたヴァリスを見る。


「全力を尽くす」


「あんまり期待はすんなよ?」


 あの赤く光る剣を使うようだ。

 あれ宝剣だろうに、持たせてくれるとか気前いいなクリーガー王。


「いくぞ! 無限烈閃光!!」


 数え切れないほどの閃光が、刃となって襲ってくる。


「やせがまん!」


 すべての攻撃をくらいながら、やせがまんで通す。

 我慢しているだけだ。だがやせ我慢だから平然としていることが重要。

 そのためにはノーダメージでいることが望ましい。


「つまりやせがまんはノーダメージ!!」


「意味わかんないよ!!」


「なんて奥深いんだ……久しぶりに見たが、マサキの力は別格だな」


「別格っていうかこじつけっていうか……」


 謎理論は考えるの大変なんだぞ。

 思いつかないと別のボケを考える必要があるし。

 基本的に下ネタは禁止しているので、さらに難易度は上がる。


「飛翔紅龍!!」


 炎が灯り、赤い剣がさらに紅く燃え上がる。


「お前が上るなら、俺は下ってやるぜ!」


 ヴァリスまでに巨大なウォータースライダーを作り、頂上からビート板を持った俺が滑っていく。


「レジャースイミングストライク!!」


「名前かっこ悪い!?」


「受けて立とう! うおおおおぉぉぉ!」


 激しく水と炎がぶつかり合い、炎の剣と水浸しのビート板が剣戟を彩っていく。


「やるな」


「マサキこそ!」


「なんでビート板で戦えるの!? 切れちゃうでしょ!」


「新品だからな!」


「新しくても変わんないよ!!」


 だが戦えている。水の勢いをより激しくしていこう。


「かかったな! 降り注げフレアランス!」


 ヴァリスの左手から炎のレーザーがほとばしる。

 上空へと到達し、無数に降り注ぐそれは、まさしく炎の雨。


「ビート板でガードはさせん!」


 ビート板でのガードが読まれている。

 正面の剣を防ぐだけで精一杯だ。


「ウォーターアップ!!」


 俺の胸あたりまで水位アップ。

 水中へと逃げ込み、さらにスライダーの出口と入口を繋いでしまおう。


「これは!?」


「無限スライダー地獄!」


 海パンの俺と違い、思い鎧を着ているヴァリスは身動きが取れまい。


「さらに接続!」


 ヴァリスに向けて複数の道を結合。一斉にビート板を流す。


「必殺ビートアタック!!」


「すべて切り裂くのみ!」


「地味な嫌がらせだね……」


 さすがはヴァリス。流れてくるビート板を全部叩き落としている。


「やはり殺傷力ゼロか」


「そりゃそうだよ。もっと違うもの流せばいいのに……」


「じゃあ手榴弾で」


 流してヴァリスの近くで爆発させる。


「ぬうぅ!?」


「急に危ないもの使った!?」


「なんという威力! しのぎきれん!!」


「もうプール関係ない!!」


 水の中だと威力が下がるのか、鎧が強いのか、ヴァリスは結構元気だ。


「ならば、オレもマサキのようにやってやる!!」


 鎧を脱ぎ捨て、トランクスだけになるヴァリス。


「いやいやいや、やめろって!!」


「ヴァリスさんがおかしくなったー!?」


「なるほど、身軽になれば叩き落とすことは容易だ!」


 ビート板も手榴弾も弾き飛ばし、爆発前にこちらへ進んでくる。


「マジか……」


「こういうことだったのだな。身軽な姿になったのは、これを想定し、水の中で泳ぎ回れる余裕を持つため。やるなマサキ!!」


「やめろ! ボケを説明するんじゃない! もっともらしい理由を勝手に見つけるな!」


「しかもビート板は足場にもなる! すべて完成されていたんだな!」


「ええい、ならもっと好き勝手にやってやるわ!!」


 スライダーから脱出。

 DJブースに入り、レコードを外して、手榴弾とビート板をそれぞれセット。


「いくぜYO! YO!!」


 スライダーを流れるビート板と手榴弾は一つとなり、よりなめらかにヴァリスへと流れていく。


「必殺異世界チート! ソウル・ビート・BAN!」


「どこまでも名前カッコ悪い!?」


「くっ、なんという物量だ!」


 触れれば爆発する。避けても時限式で爆発するビート板だ。

 これにはヴァリスも苦戦するだろう。


「そうか、わかったぞ!」


「ほう、打開策でも思いついたか」


「ビート板とリズムを刻むビートがかかっている!!」


「そこ!? ヴァリスさん何考えてるの!?」


「しかもBANは爆発音とかかっているのか! これは凄い! 天才だ!!」


「やめろおおぉぉ!! ボケを丁寧に説明するなああああぁぁぁ!!」


 なにしてくれてんだこの野郎。ものすごい恥ずかしいだろうが。

 そういう精神攻撃は卑怯だぞ。


「ぜひこの技とネーミングを思いついたきっかけを教えてもらいたい!」


「できるかボケエエエェェ!!」


 いかん。これはいかんよ。戦闘どころじゃない。


「とりあえずどこかに記録しておかなければ」


「やめろ! 今日はもうおしまい! サファイアの稽古の時間だから!!」


 スライダーも消し、服も普通に戻す。

 無理矢理にでも終了させよう。


「なっ、オレはまだやれるぞ!」


「俺の城での肩書はサファイアの護衛だ。仕事は仕事。きっちりやらんとな」


「私を口実にしたわね……」


「くうぅ……友人の仕事を邪魔するわけにはいかん。仕方があるまい!」


 超残念そうで良心が痛む。ボケの解説で別の痛み方もしている。

 さっさと稽古に行こう。紅茶とお菓子で和むのだ。

 次はこんなことがないように気をつけようと心に誓った。

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