絆と仲間と友情パワー
クイーンズフードファイトも最終戦らしい。はよ終われ。
『はい三回戦目で最後です! 理由はみんな飽き始めているからですね。三回戦の勝利者が人生の勝利者です。そんな感じでいきましょう』
もう実況さんも雑である。そして俺も観客も疲れてきた。
『最終種目はデザート! かき氷です!!』
「うーわきっつ」
お互いのテーブルの上に氷山が二つ設置された。
こんなもん早食いできないだろ。大食いに向かないぞ。
『パートナーは一緒にかき氷を作ってあげましょう。例外的に食べることも許されます』
『今回は二人とも作ることも食べることもできるんですね』
『そのとおりです。泣いても笑っても最終戦! スタートです!!』
とうとう俺も食うらしい。なら最初のオムライスとか食いたかったな。
「いくわよカルロス。用意はいいわね!」
「無論! 紳士吹雪!!」
ルビーさんがレイピアで手頃な大きさにカットし、カルロスが剣を回転させて吹雪のように細かく刻む。
そして器に盛られた山盛りの氷に、いちごシロップをかけたら完成だ。
『速い! それでいてなんと華麗!』
『手慣れていますね。タッグを組んで長いのでしょう』
「これそのまま氷食わせたらいいんじゃ……」
『言い忘れましたが、氷のブロックを食べさせるのは禁止です。かき氷を作ってください』
言われてしまった。横着はできんらしいな。
「いくわよ~」
なんちゃらエトワールとかいう宝剣で氷を切っている。
それそんな使い方していいんですかエメラルドさん。
「シロップお願いね~」
「了解!」
メロンシロップをかけて二人で食う。
俺の分は少なめ。そりゃいいんだけど、急いで食うと頭が痛む。
「うっ……こりゃきついぞ」
「ファイトよマサキくん~」
『ちなみに溶かして温めて飲むのも禁止です』
いかんこれきっついぞ。
相手は二人で作って二人で食っている。
俺には大食いのノウハウがない。
『ここからどんどん氷が大きくなります! さらにペースアップしていくことでしょう!』
これはまずいぞ。氷を削るも砕くも時間がかかる。
あっちも同条件とはいえ、このまま氷が大きくなっていけば不利だ。
「氷が大きく……そうか! エメラルドさん、今ある分を食べたら広い場所へ!」
「わかったわ~!」
『何か思いついたようですね。普通に解説できる範囲であると祈るのみです』
「いきますよ! 必殺異世界チート! 大王族襲来の巻!!」
俺から溢れ出る、何かよくわからないけど都合よくそういう効果のあるビームを浴び、エメラルドさんが巨大化していく。
『おおおおおっと! エメラルド選手巨大化したあああああ!!』
「いいわよ~マサキくん~」
『お母様はどうして受け入れているのかしら』
「あいつらと同じ土俵じゃダメなんだ。胃袋も作業工程にも差がある。こっちはエメラルドさんに賭ける! 全力でサポートだ!!」
俺もノリで巨大化し、全身を刃に変えて氷を削る。
両手もドリルに変えて、氷山を削り取っていく。
「カッターアンドドリル!!」
『マサキ選手かき氷機そのものになった! これは凄い! 氷山を切り崩して器に盛り続けている!!』
「なるほど。いいパートナーねエメラルド。けど大きくなっても食べるのはあなたのみ。いずれ限界が来るわ。カルロス!」
「紳士伸縮自在の術!」
寝そべったカルロスを伸ばし棒で伸ばしまくっているルビー。
「よし、今日もよく伸びるわ」
「どういうことだよ!?」
「まずいわね~。アレでは胃袋も伸びているわ~」
「俺以外がそういう事するのずるくね?」
ひらべったく広がったカルロスに、ひたすらかき氷をぶっこんでいる。
お前反則だろ。そういうのやっていいの俺だけだって。
「カルロスはもともと異様に体が柔らかい特異体質。つまり生まれついてのフードファイターなのよ! 恐れ入ったかしら!!」
「フードファイト以外に使った方がよくね?」
『広がった胃袋にどんどんかき氷が入っていきます!』
『この会場自体がもう気持ち悪いですね。私どうしてここにいるんだろ』
この光景は確実に頭おかしくなるな。
しかも伸び切ったカルロスは作業効率が落ちていない。
「ダメだ! かき氷を作るスピードで並んでも、エメラルドさんが食いきれない!」
「まだまだいけるわ~」
「無理してんのはわかってます。こうなりゃやるしかない。必殺異世界チート!」
『ここにきてまだ隠し技があるようです!』
『ただの思いつきだと思いますね。マサキ様はいつも唐突ですから』
俺の力よ、こうなりゃ全力で大食いをやってやる。
すべてが俺の力になる時が来た。
「仲間と絆のそういう感じ!!」
俺から発される光は、仲間をひたすら作って呼び寄せる。
「マサキさん!」
「水臭いじゃないですかマサキさん!」
手足の生えた氷が、自発的にかき氷機に入っていく。
「おれら仲間じゃないっすか! かき氷機に入るくらい楽勝っすよ!」
「手伝わせてくださいっす!」
『気持ち悪いこと言いながら、氷がかき氷機に入っていきます!』
『いやあ意味わかんないですね』
俺の絆パワーは、たとえ無機物だろうが魂込めて仲間にできる。
「よーしオレも入るぜ!!」
「くっそー! かき氷機が足りねえ!」
「我輩をお呼びかな?」
巨大なかき氷機くん登場。続々と入っていく氷たち。
『すべてのかき氷機が集結しています! ですがまだ足りない! このままでは追いつけません! むしろルビー・カルロス組が食べ過ぎです!』
「ならもっと持ってきたよー」
「次元の扉くん! 来てくれたんだね!」
巨大な次元の扉から、続々と追加がやってくる。
「あとは作るスピードさえなんとかなれば!」
そこで天から声がかかった。まだまだ俺の絆は奇跡を起こす。
「できる時間まで進めてあげるさ! 仲間だからね!!」
「時間の概念くんが来てくれたぞ!!」
概念だろうとなんだろうと、即席で仲間にできる。
友情こそが最大の武器だぜ。
『ぞろぞろ意味分かんない連中が集まってきたぞ!!』
「ちょっと! あれ反則じゃないの!! 仲間に手伝ってもらってるわよ!!」
『あー……確かにそうかも』
『超高速審議の結果、問題無しとします! あれはマサキ選手のパワーで動かしている。不思議な力で魂を与えて動かしているのでセーフ! あくまで選手の技術です!!』
「そんなバカな!?」
お墨付きをもらったからには本気でいくぜ。
「空間転移くん! ブラックホールくん! 来てくれ!」
「お呼びかな?」
「あの人の胃の中に入ればいいんだね?」
複数のブラックホールを呼び出し、空間転移くんに胃の中へと導いてもらう。
エメラルドさんが巨大化しているからこそ、安全にできる荒業だ。
「うぅ、追いつかない……カルロス!」
「全力でやっております!!」
ついにあっちを引き離した。ここで手を緩めずにいくぜ。
「どうやら、ここで決めねばならんなあ、マサキ殿よ」
「最後は俺らがいなくっちゃあねえ」
「勝ちフラグくん! 勝ち確BGMくん!!」
勝利のフラグをこの身に宿し、鳴ると勝つBGMくんが流れ出した。
「これが愛と絆と友情のおおおおぉぉぉぉ!!」
「絆・無限ループじゃあああぁぁぁいい!!」
俺もエメラルドさんを超えるスピードでかき氷を食い続けられる。
全身の細胞が自発的に手を貸してくれている。
運命も因果も未来も、今の俺の仲間だ。
『勝ったのは……エメラルド・マサキチームだああああぁぁぁぁ!!』
ついに時間いっぱい逃げ切り、俺たちの勝利が確定した。
『これを帝国との対決で出して欲しかったわ』
魂が天へと帰り、無機物も概念も物言わぬ状態へと戻る。
エメラルドさんも普通の大きさに戻り、俺も疲れて倒れ込む。
「いいぞー!」
「ナイスファイト!!」
「最高よー!!」
観客が沸きに沸いている。次々に拍手の波が広がり、俺たちを包む。
「負けたわ……完膚なきまでに……ふふふ……」
「紳士が負けるとは……お見事です」
「いい勝負だったわ~」
「はは……俺はもう二度とごめんだ……」
全員倒れ込み、ただ観客の歓声を浴び続けるのであった。
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