異世界チートで三分クッキング

 王族のフードファイトに巻き込まれた、かわいそうな俺。

 なんかでっかいキッチンがある。嫌な予感しかしない。


『次の料理は麺料理! 作るのはパートナーです!!』


「…………俺が!?」


 はいめんどい。料理はできるが、そこまでしなきゃならん理由は何だよ。


『お互いのキッチンにアホほど材料が入っています! 麺料理を作って食べさせましょう!』


「ふっ、紳士的な料理をお見せしよう」


『お互いの料理や食材、保存庫への妨害は禁止です! 食材を冒涜するのはもう最悪です! そんな方法で勝つとかみっともなくないのか!』


「姑息な足の引っ張り合いは王族っぽくないからな」


『食べた量で決まりますが、ある程度美味しく作ってください。麺だけを茹でて食べさせるのは料理じゃないからノーカンです!』


 これはめんどい。もう帰っていいですかね。俺への負担すごいやん。


『あと分身は禁止です! 愛情込めて作ってください!』


「欠片もねえわボケエ!!」


『ファイ!!』


「カルロス、いつもどおりね」


「かしこまりました」


 あっちはもうメニューとか決まってんだろうな。

 仕方がない。この世界の巨大冷蔵庫っぽいやつを調べる。

 隣には野菜が大量に積まれてもいる。


「麺の種類までめっちゃあるな」


 なぜにこんな豊富かね。調理器具もかなり多い。


「マサキく~ん、簡単なものでいいわよ~」


「はいはい……やるっきゃねえかなもう」


 手早くやれて、量が作れるものにしよう。

 早速持ち帰って鉄板に火を入れる。


『おおとマサキ選手は鉄板を使うようです!』


 油はくどくなるから超少なめ。水を多めにして、野菜を焼いたら麺を投入。

 ソースは城の生活で色々と知った。

 後は塩コショウ入れて混ぜて焼くだけだ。


「これならスピードも稼げる!」


「マサキ様が作っているのは、焼きそば?」


『おおっと焼きそばだ! 屋台で出るあれでしょう。王族に食べさせるものとしてどうかと思いますが、理にかなってはいるのか?』


「いいわよ~高級じゃなくても、おいしければいいのよ~」


『エメラルド選手おおらかです!』


 そりゃ俺は庶民だし、料理は家庭料理の域を出ない。

 冒険でレパートリーは増えたが、宮廷料理なんて作れないからな。


「これがベストよ! 俺式野菜焼きそば特盛だ!」


『庶民料理もまた料理です! しっかり焼いて野菜も豊富! 完成です! どうですかサファイア様』


『野菜でカロリーを抑えめにしているのがいいですね。味付けも素材の旨味を残すよう、実は慎重に行われています』


 お前はなんで解説席にいるんだ。


「いただきま~す」


 大皿に山ほど乗っけた焼きそばが、急激にその量を減らす。

 本当にどんなスピードで食ってんだ。


「カルロス、おかわりを!」


「かしこまりました」


『おおおおおお! ルビー選手、激盛りパスタを完食! 凄まじい速度だ!』


 カルロスは見た目からして有能だからなあ……俺より料理の手際もいい。

 こりゃどうにか差を縮めないといけないな。


「ふっふっふっふ、次は特製うどんをご賞味あれ!!」


 丁寧に、それでいて豪快にうどんを打ち始めた。

 うどんとかあるんですねこの世界。


『さあ未知の料理ウドンとはどういうものなのか!!』


『麺類であることは確かでしょう』


「あるのかないのかはっきりしろ!!」


「ふらっと現れた女神に作ってくれと言われ、先の大戦で修練を積んだうどんの味を思い知れ!!」


「何やってんだ女神!?」


 ユカリじゃないことを切に願う。

 いや他の女神でもダメだけどさ。自由すぎるから自重してくれ。


『こうしている間にも、マサキ選手遅れっぱなし! さっきとは違う調味料と魚介類で焼きそばを作っています!』


『焼きそば得意なのかなマサキ様』


 そして新鮮な魚介類をふんだんに使った焼きそば完成。


「おかわりよカルロス」


「マサキくん、おかわりお願いね~」


 やはりルビーの方が速い。俺の供給が追いついていないんだ。


「やるしかないか……」


『マサキ選手の動きが止まった!』


『いいえ、あれはいつものやつよ!』


「やってやるさ。必殺異世界チート! 異世界三分クッキング!!」


 光り輝き終わった俺は、エプロンを付け替えてコック帽をかぶる。


『なんでしょう? 服装以外に変わった所はないようですが』


「では三分クッキング始めていきましょう。今回使う食材はこちら」


 とりあえず使う食材を大量に並べる。料理番組のお約束だ。


「そしたら野菜とお肉を切っていきましょう。切ったものがこちらです」


 横の無から切り終えた食材登場。テーブルに置くと切る前の食材は消える。


『おおおおおおっと!? いつの間にか切り終えているうううぅぅ!?』


「なんと!? 紳士よりも早く食材を切れる者がいるとは!」


 あんたの中で紳士ってどういうカテゴリーなのさ。


「続いて食材をフライパンに入れ、五分炒めます」


『三分クッキングじゃないの!?』


「炒めたものがこちらです」


『また調理が完成している! いったいどういう魔法なのか!!』


 これなら最速で作れる。

 なにせ全行程を三分で終わらせなければ、三分クッキングではなくなるからだ。


「次は麺を茹でましょう。茹でたら野菜を乗せて、特製冷やし中華を作ります」


『これはもしや……茹でたものが出てくるのでは?』


『マサキ様ならやりかねない。けれど麺なんて長時間茹でるものかしら?』


「茹でた完成品を食べているエメラルドさんがこちらです」


「ごちそうさまでした」


 甘いぜサファイア。既に完成品はエメラルドさんの胃の中だ。


『完成する前に食い終わったああああぁぁぁ!?』


「いいや違うな。完成は今からする。こんな風に飾り付けて、すっぱいスープをかけたら完成です」


『どういうことでしょう? なぜ食べきった料理が今完成しているのですかね?』


「この世界の連中は知らんのだろう。三分クッキングの流れとお約束を。だから俺の調理は続くのだ!」


 そして完成品もエメラルドさんが完食していく。

 これで完全に速度で上回った。


『もう全然わかりません! わかりませんが皿だけが積み重なっていく! だからまともに戦えって言ってんだろうが!!』


「わかりやすく、お皿に持った形がこちらです」


「ごちそうさまでした。おかわりお願い~」


 こんな感じで作り続ければいい。俺のほうがちょっとだけ速いか。


「カルロス、アレをやるのよ」


「かしこまりました。紳士奥義、練り込み紳士麺!!」


 なんと食材をうどんに練り込み始めている。


『なるほど。あれなら麺と同時に消化できる。硬い食材もないから噛み切るのも容易い。これは頭脳プレーですよ!!』


 やるね。このままじゃ負ける。

 ならば見せてやる。最大最後の必殺チートを。


「カモン流しそうめんセット!」


 竹でできた流しそうめんセット爆誕。こいつが決着をつけてくれるはずだ。


「エメラルドさん、合体です!!」


「ええ、よくってよ!!」


『が、合体? 何をする気でしょうか?』


『間違いなくアホみたいなことをしますね』


 竹の先端をエメラルドさんの口にセットする。

 そして俺たちの最終奥義は完成するのだ。


「合体究極奥義! 全自動そうめん食い機エメラルド!!」


 膨大なそうめんが流れていき、それより速いスピードで食われていく。


『合体ってそっちと!? っていうかお母様大丈夫なの!?』


「問題ないわ~」


『ああっと問題ないとのお返事をいただきました! それはそれで問題です!』


「こいつはれっきとした料理さ。ちゃんと薄めたそうめんのつゆも流し、チャーシューや卵焼き、野菜も流している」


 ちゃんと料理になっているのだ。麺だけを食べさせているわけではない。


『すさまじい勢いでそうめんが吸い込まれていく! 一国の王族として見せてはいけないシーンな気がします!』


『間違いなくダメですね』


「バカな……これが英雄マサキの力だというの……? カルロス!」


「最速でお届けいたします!!」


 カルロス・ルビーチームもスパートをかけるが、こちらは常時そうめんが流れているのだ。

 早々追いつけるものではない。


『ここで制限時間終了!! 二回戦を制したのは! エメラルド・マサキチームだああああああぁぁぁ!!』


「ふっ、久しぶりに熱くなれたわ~」


「おそまつさまでした!」


 そうめんセットも片付け、二人で勝利のポーズを決める。

 次で最終戦らしいが、このままぶっちぎってやるぜ。

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