クイーンズフードファイトってなんだよ

 ロボとの戦いから数日。俺は城でゆったりした生活を送っていた。

 部屋でぼーっとしている護衛係の誕生である。


「平和だなあ」


「平和ねえ……戦いが嘘のようだわ」


 今も事態の収束と歴史書をまとめる人とかいる。完全に終わったわけじゃない。

 女神も裏で色々と動き続けているが、ぶっちゃけ俺たちには関係がない。


「茶でもたしなもう」


「そうね、優雅にお茶をいれてみるわ」


 サファイアが優雅に気品溢れる感じで動く。

 そういうのできるんだな。改めて王族なんだと実感する。


「あらいいわね~。参加しちゃおうかしら」


 エメラルドさんも来た。

 最近は趣味だの副業だのに生きがいを見出すのだと言っている。

 

「はいどうぞ。お母様も」


「ありがとう~」


 サファイアの家事技術は確実に上がっている。

 そして紅茶は風味が多少強くても、高いやつなら後味がくどくならないと学習した。


「うまいな」


「失礼します。エメラルド様に面会を希望する方が……」


 城の兵士さんが、少し焦りながらも報告してくる。


「面会? 誰かしら~?」


「お久しぶりエメラルド。此度の戦、快勝お祝い申し上げるわ」


 金髪の豪華なドレスを着た赤い瞳の貴婦人と、シルクハットに白いヒゲの紳士だ。

 こってこての紳士登場。遠目からでもわかるほどジェントルマンだよ。


「お久しぶり、ルビー。カルロス。そしてありがとう」


 知りあいらしい。どう見ても金持ちっぽいからな。

 小声でサファイアに聞いてみる。


「誰だ?」


「ペズワッジ王国のトップよ。王族」


「なるほど。風格がある」


 下品さが抑えられていて、成金ではない雰囲気だ。

 しかし王族ねえ……そんなほいほい他国に来ていいもんなのかね。


「そちらの男性は?」


「彼はマサキ。活躍は聞いているかしら?」


「ほう、帝国に乗り込み単身制圧撃破したというあの?」


 変な噂が飛び交っていますね。いやあ不安ですよこれ。


「俺の力だけじゃないですよ。仲間がいたからです」


 それっぽい回答をしておこう。サファイアやヴァリスがいたのも事実だし。

 正直変に目をつけられても困る。


「模範解答だ。我輩のようによき紳士になるやもしれぬ。カルロスと呼んで結構」


「はあ……どうも」


 どう返すのが正解だったのか誰か教えてくれ。


「まあそれはそれ。用があるのはあなたよ。かつて『輝きすらも食す女王』の異名をとったフードファイター、エメラルド!」


「なんか変な二つ名ついとる!?」


「覚えていてくれて光栄よ『食料の暗黒空間』ことルビー」


「こっちもついてた!?」


 王族ってフードファイトしなきゃいけない決まりでもあんの?


「お母様とルビー様は四食王として有名よ」


「後二人そんなんいるのか」


「平和になったことだし、あの時の決着をつけましょう!」


「そうね。いい機会かもしれないわ~」


 さっきからエメラルドさんが真面目モードだ。

 あんまり知りたくないが因縁でもあるのだろうか。


「やりましょうか。クイーンズフードファイト!」


「よくわかんねえもんはじまったー」


 そして即座に整えられた会場。いやここどこよ。


「ここは城の中庭。それもフードバトラーのために作られた特設会場よ」


「すげえ予算無駄にしてんな」


 二人分のテーブルと椅子。

 そして学校のグラウンドより広いんじゃないかと思う会場。

 観客もいる。ほぼ兵士とかメイドさんとかだけど。


「さあパートナーを選びなさい」


「もちろんマサキくんよ~」


「俺が!? いやいや大食いなんてできませんよ!」


「何を言っているの~? 料理を取ってくる係よ~」


「もうルールがわかんねえ。全然わかんねえわ」


 最初に説明してくれって。いつの間にか巻き込むなよ。


「それもそうね。司会、ルールをみんなに説明してあげなさいな!」


『かしこまりました!』


 あの司会者のおねえさんはどこから湧いたんだろう。

 いいや気にするだけ無駄だ。


「というわけでよろしくお願いね~」


 まとめよう。

 ・パートナーが食材や料理を取ってくる。

 ・フードファイターが食べる。

 ・テーブルに置かれた料理やファイターに妨害行為は禁止。

 ・食べきったら食べ物をまた取ってくる。

 ・制限時間は1時間。


「パートナーの負担でかくね?」


「だからお願いしているのよ~。お礼はするわ~。お城にずっといてもいいし、賞金も出るわよ~」


「うーむ……」


 食い扶持を探すのも悪くはないのか。

 帝国倒しちゃったし、異世界漫遊には金がかかる。


「まあ……これも仕事か」


「がんばってマサキ様。私も応援してるから」


「やるだけやるさ」


「ありがとう~。それじゃあ最初は何かしら~?」


『第一回戦のメニューはこちら! オムライスです!』


 ステーキ乗ったオムライス登場。あれはうまそうだな。

 そういやもうすぐ昼飯時かも。


『トッピングで200グラムのステーキが乗っています。これが1000メートル先で作り続けられています!』


「またえらく遠いな」


『最初の関門は針山火炎トゲ鉄球地獄です!!』


 床にびっしりトゲがあり炎が巻き起こっている。そしてトゲ付き鉄球が吊るされて揺れていた。


「こんなんどうしろってんだボケエ!!」


『クイーンズフードファイト、レディゴー!!』


「ではお先に失礼」


 カルロスが突っ込んでいった。

 見事に針山の上を走り、鉄球を避けていく。


『さすが食の王。そして実際に王! カルロス選手猛ダッシュだ!!』


「ええいやるしかねえのか!」


 渋々液状化して降り注ぎ、消火しながら針山の隙間を流れていく俺。


『おおっとマサキ選手ええ……なんだこれ! ちょっとよくわかんないです! まず無事なんでしょうか?』


「面白い。まさか人外の存在だったとは」


「いえ普通に人間です」


「説得力ないよ!!」


 シェフの元へと辿り着く前には人間に戻る。

 カルロスとほぼ同着。あっちは複数の皿を一気に持っていく気だ。


「紳士瞬間分身!!」


 なんか五人に増えたよ。どういう原理なんだよそれ。


「お先に失礼アゲイン!」


「いいだろう。最高最速でお届けしてやるぜ! 必殺異世界チート! 俺リボルバー!!」


 巨大なリボルバーに六人の俺が詰め込まれる。

 その両手にはオムライスの皿。


「発射あぁ!!」


 六連射撃で鉄球を砕きながら、一気にエメラルドさんの所まで戻る。

 料理は優しく、こぼれないようにそっと置く気配りも忘れない。


『マサキ選手すごい速さだああぁ!! っていうか増えた!? あの装置何!?』


「なんとっ!? 我輩を超えるとは!!」


『さあ皿が置かれた! 後はフードファイターが頑張る番だが!』


「ごちそうさま。おかわりお願いできるかしら~?」


『もう食べ終わっているうううぅぅ!! 12皿がからっぽだああぁぁ!!』


 1皿しか食っていないと思っていた。なのに全部食い終わっている。

 本当にフードファイターだったんですねエメラルドさん。


「カルロス! こっちもおかわりお願い!」


「紳士的に了解!」


『ルビー選手も食べ終わった! だがこの時点で2皿リードされているぞ!』


「がんばってねマサキくん~」


「そうか往復すんのか……こりゃしんどいぞ……」


 カルロスはもう走り出している。

 針山をなんとかしてしまおう。


「必殺異世界チート! 即効性コンクリ流し!!」


 魔法っぽい不思議パワーで針山にコンクリを流し込む。


『おおっとなんか液体? どろっとした液体を流している! よくわかんないです! 説明が難しいな本当に!』


「どうやら踏まないほうが良さそうですな」


 直感からか、鉄球の繋がれていた棒を飛び移っていくカルロス。

 その勘のよさは厄介だな。


「だがコンクリは乾いているぜ。ニトロスケボーオン!!」


 ニトロを積んだスケボーで疾走する。これなら排気ガスも出ない。

 料理を汚さない俺の気配りが炸裂した。


『速い! なんかすごい速い板です! もう実況ができません! お願いだから普通に戦ってください!!』


「紳士ジェットブーツ!」


 カルロスの靴が火を吹いた。

 いやいやどういう機能よ。ここ異世界ファンタジーですよね。


「負けるわけにはいかないのでね」


「面白い。ちょっと本気でいくぜ!」


 そして制限時間が到来。集計に入った。


『第一回戦はエメラルド選手85皿。ルビー選手85皿でまったく同じ! 一戦目から白熱した戦いだあああぁぁぁ!!』


「腕と胃袋は落ちていないようね~」


「今回こそ決着をつけてあげるわ!」


 やがて二回戦の準備が整った。さて次は何が来るかな。

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