ヘルアンドヘブンアンド悪ふざけ

 軌道衛星内部にて、ロボユリのコアと戦闘中。

 こいつはなかなかに強敵だな。


「雷撃地獄」


 部屋中に電撃が飛び交う。だがこの程度でやられる俺ではない。


「俺避雷針の術!」


 避雷針となってコアの上に設置された俺は、電撃を一身に浴びていく。


「じゃんじゃん流し込んでやるわい!!」


 コアには顔がないから、効いているのかいまいち判別できん。


「海原地獄」


 迫りくる大海原を一気に飲み干し、疲れていた体を癒やす。


「夏場は水分と塩分がかかせねえな」


「とりすぎですよ!!」


「針山地獄」


 地面が針山へと変わる。地獄には本当にこんな場所がありそうだ。


「発想の転換ってやつを見せてやるよ。必殺異世界チート! ヘルアンドヘブン!!」


 針山にベッドが作られ、寝転がった俺にゆっくりと鍼治療がなされていく。


「ふう……ここまでの疲れが取れるぜ。これぞ針山天国!」


 地獄のような不利な状況を、強制的に天国へと変え、俺を接待させる奥義である。


「爆裂地獄」


 頭上が青空へと変わり、飛行機から爆弾の雨が投下される。


「爆裂天国!」


 空中でぽんっと軽く破裂音をさせ、紙吹雪とマサキ様頑張っての垂れ幕が出る。


「くす玉になった!?」


「応援ありがとう。元気が出たぜ。そろそろ終わりにしてやる」


「圧殺地獄」


 上下から巨大な鉄板が俺を押し潰す。


「マサキ様!!」


「おかげで俺の型が取れたぜ」


 鉄板に俺の形でくぼみができた。ここに異世界チートパワーを流し込む。


「俺量産計画始動!!」


 鉄板が開閉を繰り返すと、続々と俺が飛び出してくる。


「ふっ……オレの力を借りたいのかい?」


「僕マサキ! よろしくね!」


「やれやれ、ここは私に任せて下がりなさい」


「なんでキャラ違うの!?」


「キャラ変えないと、見た目一緒だからわかんないだろ」


「身も蓋もない理由だ!?」


 そして一斉にモニターを破壊しだす。


「破壊祭りじゃーい!!」


「無礼講でござる! 無礼講でござる!」


「そうか! モニターを破壊すれば倒せるのかも!」


「暗闇地獄」


 お互いの姿も自分の手も見えないほどの暗闇が襲う。


「もう夜か。かえって寝る時間だぞ分身ども」


「なら一緒に帰ろうぜ本体」


「ごめんなさい。自分のクローンと帰って噂とかされると恥ずかしいし」


「そりゃ噂にもなりますよ」


「だからはよ死ねやオラアアァァ!」


 手榴弾くくりつけた分身どもを蹴り飛ばし、すべてのモニターを破壊する。


「ギャアアアアァァァ!?」


「いつの時代も、偽物が本物を超えることはできないのさ。図々しいんだよお前ら!」


「自分で作ったくせに」


 しかし暗闇はまだ俺たちを支配している。

 コアの場所もわからない。


「おそらくコアを見つけ出して倒さないといけませんよ」


「正解だ。コアさえ無事なら復元できる。人間とは作りが違うのだ」


「なるほど。それなら簡単さ。必殺異世界チート! マッチ売りの俺!!」


 赤ずきんみたいな格好になった俺は、籠からマッチを取り出し使っていく。


「女装!? いやいやきついですって!!」


「わあ、あったかあい。炎の向こうに景色が見えるわ……」


 炎の先には暖かい部屋と、美味しそうな料理。

 そして敵のコアがありました。


「そこかオラアアァァァ!!」


 渾身の右ストレートを叩きつけ、コアに大きなヒビを入れることに成功した。


「ええええぇぇぇぇ!?」


「これも健気にマッチを売っていたおかげだぜ」


「売ってませんでしたよ!!」


「損傷率71%。修復不可」


 室内に非常電源が灯り、最奥の巨大モニターだけがかろうじて生きていた。


「なぜ勝てない……神の作り上げたシステムが、たったひとりの人間すら滅ぼせない」


「人は神に比べればちっぽけな存在かもしれない。だが知恵を絞り、心と体を鍛え、仲間を思いやることができれば、そこには無限の可能性がある。人間の歴史は、神話に負けない力なのさ」


「それが……それがマサキという男の力の源なのか」


「それもある。だが俺には冒険で培い、育んだ思い出もある」


 最早動くことをやめ、点滅しているコア。

 一思いに壊してやろう。大切なことを伝えながら。


「俺の戦いをただの悪ふざけという者もいる。正直ユカリ以外に受け入れる人間がいるとも思わなかった」


「マサキ様……」


「だが女神との出会いと加護。そして過ごした日々は紛れもなく俺を充実させた。冒険の中で平和になっていく世界。雄大な景色。見たこともない食べ物や生き物。それらはユカリがいたから楽しかったのかもしれない。ユカリとの旅こそ根源なのかもな」


「理解不能。その異常な力と結びつかない」


「上っ面だけ計算しても無駄さ。そこには俺のすべてがある。俺のやってきたこと。俺の道。つまり俺の力と、俺のやってきたことは……」


 最大級の力を込めて、俺の右拳がコアを貫いた。


「悪ふざけじゃあああぁぁぁぁ!!」


「結局悪ふざけだー!?」


「損傷率100%。全機能停止」


 砕け散ったコアに共鳴するように、この施設全体が輝き始めた。


「いかん。お約束の自爆機能だ!」


「急いで離れましょう!!」


 ここに来る時に世話になったナスとキュウリに跨り、急いで外へ出る。

 背後から迫る光と爆炎を避け、なんとか脱出完了。


「さらばだ、機械の神よ」


「なんだかんだ倒せちゃいましたね」


「これもユカリのおかげかもな」


「いえいえ、その力を使いこなせるのはマサキ様だけですよ」


「ははっ、嬉しいんだかわからんな」


 光に飲まれ、大爆発している衛星を遠目に見ながら、俺達にようやく雑談する余裕が戻ってきた。


「これで完全に終わったんだな」


「はい。帝国と邪神による侵攻は食い止められました。データも私とコノハちゃんで持ち帰ります」


「続いて欲しいな、平和」


「はい。きっと続きますよ。マサキ様がこんなに頑張って作った平和ですから」


「そうだな……それじゃあ帰って飯にでもしよう。サファイアを待たせちまってる」


「はい!」


 ゆっくりと星に降下して、途中で焼けてしまったナスとキュウリを食す。


「ありがとう、ナスとキュウリ」


「せめておいしくいただきます」


 城が見えてきた。最上階にサファイアとアリアがいる。


「お、サファイア!」


「マサキ様! 無事だったのね……なんか食べてる!?」


「ナスだ」


「なんで!?」


 俺とユカリで完食。困惑と呆れの混じった表情のサファイア。


「それでマサキ殿。敵は倒せたのか?」


「ああ、完璧に撃破してやったぜ」


「やった! じゃあもう帝国の驚異はなくなったのね?」


「大きな障害は取り除きました。あとは事後処理をしっかりやっていけばいいはずです」


 そこは時間をかけるしかないだろう。

 もっともアストラエアもギャンゾックも被害は少ない。

 立て直しや壁の補強でもすりゃすぐだろう。


「これもマサキ殿の功績だな」


「俺だけじゃないって前に言っただろ。今回だってユカリとコノハが……コノハどこいった?」


「お呼びですか?」


 しれっとそこに立っていた。どこにも怪我していないようで安心だよ。


「ロボがいた施設跡へ行っていました。全部跡形もなく消えていたので、大地だけを戻していたんですよ」


「大変だなそりゃ」


「大変ですよ。女神でも一苦労です。ふいー……」


 よく見るとコノハも少し疲れているようだ。頑張ってくれていたんだな。


「ご苦労さまコノハちゃん」


「いえいえー。クロユリの時もあんまりお役に立てなかったので、これくらいはさせてくださいな」


 いい子だねえ。真面目だし、女神としての能力も高い。

 色々と助けられた。


「では何があったのか詳しく話してください」


「そうだな、どこから話せばいいものか……」


「とりあえず部屋に行きましょう。外にいると体を冷やすわ」


 せっかく勝ったのに風邪引くのも馬鹿らしい。サファイアの提案に乗ろう。


「それもそうか。よし、何か飲み食いしながらにしよう」


「いいですね。行きましょう」


 説明は任せたぞユカリ。自分のボケを自分で説明するのはきついのだ。

 そんな期待を寄せながら、城でゆったりすることにした。

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