後始末と研究所とロボット

 帝国との戦いも終わり、丸一日の盛大な宴があった。

 さらに一晩ゆっくり寝て次の日。

 俺以外の各国とその要人は事後処理に追われていた。


「大変だな」


 用意された朝飯を食いながら、完全に他人事の感想を漏らす。


「マサキ様はもうすることないもんね」


「ある意味全部終わったからな」


 サファイアも一緒に飯を食う。まだ仕事的には護衛役なのだ。


「マサキ様のおかげで大変だなーで済んでるし」


「本当はもっと修復作業とか、兵士への補償とかあるんだろうな」


「被害が少なすぎるくらいだったから、そういうのほとんどいらないんだって」


「そりゃよかったな」


 平和へ向けて進んでいるのだろう。いいことだ。

 ヴァリスたちも祖国へと帰り、色々と手続きやら報告に忙殺されるとのこと。

 次に会える日は遠そうだ。


「お城のご飯は美味しいですね」


「お前はお前でなんでここにいるんだか」


 ユカリが来て飯食い始めた。こいつもう役目終わったんじゃないのか。


「神器がここにあるんですから、神殿にいる必要もありませんし。アストラエアちゃんはもうすぐ帰ってくるので」


「本格的にお役御免だな」


「ですね。また異世界漫遊でもします?」


「気が向いたらな」


 こいつとの旅は楽しくて便利だからな。

 俺の能力なら金にも困らないし、実質不老不死なんで、娯楽というものは必須だ。

 その点こいつは面白い。ある程度常識の共有ができる所もポイントが高い


「マサキ様とユカリ様は仲がいいのね」


「まあな。でも付き合っているわけじゃない」


「そうですね。私もそういう目で人間を見ることはありませんよ。尊敬はしても恋慕はしません」


 これが実に気楽でいい。お互いそんな感じで生きている。


「しばらくはだらだら休日を満喫しようか」


「ユカリさん。大変です」


 コノハだ。食堂に転移してきやがった。


「あらコノハちゃん。どうしたんです?」


「帝国の資料をぶわーっと漁っていたら、地下研究施設の存在が明らかになりまして。お仕事がどばーっと来ちゃいました!」


 女神は協力して帝国の技術が他国へ流出しないように頑張っている。

 資料を回収し、痕跡を消し、邪神が持ち込んだものを消すため尽力しているのだ。


「危険な施設なのか?」


「わかりません。どんな罠があるかもわかりませんので、マサキ様に応援をと」


「仕方がないか」


 乗りかかった船というやつだ。いっそ徹底的に潰しておいた方がいい。


「やってくれますか? なんとか報酬はお出しするつもりです。いっぱいいーっぱいどーんと出せるよう掛け合います」


「それは女神様や軍隊ではダメなのですか?」


「極端な話、未知の文明に対応できず、最悪どかーんと自爆する可能性まで考慮しています」


「マサキ様は不死身ですし、どうなっても帰還できますからね」


「そういうことだ」


 便利屋のように使われるのは気が進まないが、今回は特別だ。

 飯食ったら行ってみることにしよう。


「私も行きたい」


「ダメだ。何があるかわからん」


「でも黙って見ているなんて……」


「今は国中が勝利で湧いている。そこから姫が消えるわけにはいかん。お前はアリアとエメラルドさんと一緒に国を守っていてくれ」


 サファイアはこういう時、かなり真面目だ。

 国が好きで、姫として教育も受けている。本人の性格もある。

 だからこそ危険な目にあって欲しくない。


「私も戦えるのに……」


「戦力を全部投入するわけにはいかない。強いやつが城にいる必要もある。さっさと帰ってくるからさ」


「…………わかった。ちゃんと帰ってきてね」


「いい子だ。それじゃあユカリ、コノハ、転移頼む」


「はい。サファイアさん、マサキ様のことはお任せください。転移!!」


 そして俺と女神二人という異色のパーティーが転移した。


「なんだここ?」


「帝国の鉱山地帯の外れです。採掘して、ここに送っていたようです」


 ここと言われても、周囲には荒野と岩くらいしかない。

 離れた場所に山が見えるので、あれが鉱山かな。


「こっちの岩を動かして、パスワード……ぴっぴっぴーっと」


 コノハが岩にあるコンソールをいじっている。

 すると地下への階段が顔を出した。


「この技術も消さないとな」


「仕事が増えますねえ」


「気をつけてくださいね。ここからはユカリさんとわたしでも庇えるかどうか。緊張感ですよ緊張感ぴきーんと」


「問題ない。俺の後に付いてきてくれ」


 ライトを借りて降りていく。

 階段は広く作られていて、数人で入ることを前提としているっぽい。

 しばらく下ると、そこには超近代的な研究施設があった。


「なんだこりゃ……」


 俺のいた世界よりも科学が発達しているだろこれ。

 照明も器具も未来的で、用途のわからんカプセルやら実験装置がある。


「これはSF世界から奪ったものらしいです。宇宙戦艦乗れる世界ですね」


「なるほど。こりゃ消さなきゃまずいわな」


 軽く叩くが材質すらわからん。大理石とプラスチックの中間みたいな感じ。


「後でこの土地ごと消します。今は内部に危険な物がないかささささーっと……」


 何かがガチャンと音を立てた。とっさに戦闘態勢に入る。


「どこからだ?」


「下だと……思います」


 ここは吹き抜けの部分がかなりある。

 どれだけ下かもわからんが、確かめるしかないだろう。


「階段が二個あります。二手に分かれて……」


 さっきより近くで音がした。


「隠れろ」


 適当な大きさの机の下へと隠れる。

 階段を登ってきているのか、どうやら足音らしい。


「何が来る?」


「わかりません。帝国幹部は全員倒したはずです」


 そっと様子をうかがうと、そこには白い金属製で二足歩行の何かがいた。

 顔の部分に赤くて丸い目が一個だけついている、シンプルにロボっぽいやつだ。


「ロボット?」


「警備ロボでしょうか。ファンタジー世界になんてものを」


 ロボは目を光らせ、赤い光で周囲を照らし、異常がないと判断したのか去っていった。


「行くぞ」


 そーっと下への階段へ。慎重にロボがいないか確かめつつ降りていく。


「いいですか、ずばっと研究データや資料なんかがある部屋を探します。それが誰かの手に渡ることがないよう、がっさーっと回収して、確実に処分するのです」


「道中の敵は私とコノハちゃんでも倒せます。どうしても倒せない敵がいたらお願いしますね」


「わかったよ。気をつけてな」


 まだ最下層には遠いだろうが、大きな部屋を発見。

 ガラスで中が見える。どうやら監視カメラの制御室か。

 警備員詰め所みたいな雰囲気もある。


「システムが解除できれば楽になる。できるか?」


「鍵がかかってます」


「中に監視カメラはない。女神なんだからすり抜けられるだろ」


「しょうがないですね」


 ユカリにドアをすり抜け、鍵を開けてもらう。

 神って便利だねえ。最悪俺自身が鍵になって開けることも考えていた。

 これボケなくても女神が解決してくれるんじゃね。


「やっぱり端末にはパスワードかかってますね」


「仕方ない。資料から先に見るか」


 そのへんの書類を漁る。何か出てきてくれればいいが。


「この施設の入退場リストがありましたー!」


「ほぼダークライトとクロユリですね」


「暗黒博士はずっとここで研究をしているらしい。管理者があいつだ」


 そして幹部がたまーに来る。知らん名前もあるが、全部は把握できん。


「連れてこられた人間は別か」


「搬入物とか実験体でまとめているでしょうね」


「仕方がない。カメラに誰か映ったりは?」


「ロボットばかりですねー。がっしゃんがっしゃん動いてます」


 どうやら超重要な施設は映さないらしい。

 記録に残さないつもりかね。


「むむむー、パスワードどうしましょ? それっぽいものがないんですが」


「適当に入力してみます? マサキ様なにかありませんか?」


「そう言われてもな」


 指を外し、USB端子に変えて装置に差し込み、ハッキングしてみる。


「開いたか。セキュリティが低いのか高いのかわからんな」


「きっとこの世界で使えるものがいないと、油断していたのでしょう」


「ユカリさん? ユカリさーん? 今おかしかったですよ? おかしかったですよね?」


「どうだ何か見つかったか?」


「カメラの機能だけですね。一応二ヶ月分のデータが保存されているようなので、それだけコピーしておきます」


 女神がUSB使ってる光景はこう、なんとも形容し難いもんがあるね。


「カメラと赤外線センサーのたぐいは消しました」


「よくやった。後はロボに見つからないように行くぞ」


 ちょっとスパイみたいで楽しくなってきた。

 このまま下まで行ってみよう。

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