人神融合マサリの真面目パワー

 ユカリと融合してマサリとなった俺は、おふざけを中止して闘うことを決意した。


「真面目に戦わせてもらうぜ」


「戯言を。死ね!!」


 魔力の波が押し寄せる。だが今の俺は真面目なのだよ。


「真面目ガード!」


 真面目に両腕でガードしたので無傷だ。


「どっ、どうして!?」


「真面目に防御すれば、お前の攻撃など効かん」


 真面目に接近し、真面目に蹴りを放つ。


「真面目キック!!」


「あうぅ!?」


 しっかりとヒット。真面目に攻撃しているのだ、当たらないはずがない。


「これが真剣勝負だ」


「ならば神の力というものを教えてやる! デッドスマッシャー!!」


 黒雷が俺へと迫る。だが同じことだ。


「真面目ガード!!」


 腕を組んで仁王立ちだ。しっかり真面目に耐えよう。


「ふっ、神といえどそんなものか」


「バカな! 無傷でいられるはずがない!」


「真面目にガードしただけさ! 真面目キック!」


 飛び蹴りを避けようとするクロユリ。

 しかし真面目に攻撃しているのだ。しっかり蹴り飛ばしてやる。


「なぜだ! 確かに避けたはず!!」


「真面目にやってるんだから避けられるはずがないだろう! Uターン真面目キイイイィィック!!」


 くるりと反転して背後から蹴りをかましてやる。


「ぐばあああああ!?」


「強い……本当に強いよマサリ様!」


「こうなれば世界などどうでもいい! ここで消え去れ!」


 黒い渦が俺を包み、内部の空間と重力が変わっていく。


「ふははははは!! そうなったら終わりだ! その渦に入ったものは抜け出せる可能性がゼロになる。死ぬまでそこから出られない運命の鎖に繋がれるのだ!」


「人が真面目に戦ってんのに……」


 普通に渦から出て、怒りの右ストレートをお見舞いする。


「意味わからん技出してんじゃねえええぇぇ!!」


「ばべらああぁぁ!?」


「普通に出て殴ったー!?」


「俺を見習ってシリアスになりな」


「ならばこれならどうだ……ダークライトよ、死してなおも盾となれ!」


 死んだはずのダークライトが空から落ちてきた。

 そして全動物が混ざったような醜い化け物となる。


「そいつはもう死んでいる。肉体への負担を考えずに暴走し、しかも殺せない。さあどうする?」


「形が決まっていないなど、不真面目極まりない」


 数え切れない動物の群れが黒く染まり、俺に向かって突っ込んでくる。


「マサリ様!!」


「安心しろサファイア。俺は死なん」


 動物たちの群れが、俺の身体をすり抜けていく。

 いくら爪や牙を立てようとしても、まるではじめからそこにいないかのように透過してしまう。


「なぜだ……なぜ攻撃できない!!」


「なんの動物かもわからないような不真面目なやつの攻撃など届かんよ。今の俺は真面目モードだからな!!」


 哀れなダークライトに、真面目に攻撃してやるか。


「真面目チョップ!!」


 真横に切り裂き、見にくく歪んだ姿を完全に浄化して天に帰してやった。


「もう二度と出てくることはない。これでもう一度出てきたら、完全に不真面目だからだ」


「呼び戻せん……本当に浄化されてしまったのか!」


「真面目と不真面目は俺が判定する。誰も判定からは逃げられない」


「そんな理不尽が通るものか!!」


「お前は平和を乱し、たくさんの命を踏みにじった」


 俺の手に現れる光り輝く剣。

 今の俺そのものであるかのように、非常にシンプルで真面目な剣だ。


「これは愛と正義と勇気の剣」


「すごい……ものすごく真面目な剣だ!」


「こいつに斬られて無事な悪などいない」


「こんな……こんなふざけたやつに……妾の野望が潰されてなるものか!!」


「真面目ダッシュ!」


 光速の二百倍で移動して、クロユリの頭上を取った。

 

「消えろ邪神よ。平和な世界にお前の居場所はない!!」


 光をたたえた剣は、そのまままっすぐ振り下ろされ、クロユリを両断した。


「究極奥義・真面目スラッシュ!!」


「う……うそだああああぁぁぁぁぁ!!」


 断末魔の叫びとともに大爆発を起こし、邪神の野望は露と消えた。


「悪党の末路なんてこんなもんさ」


「やったー! マサリ様すごい! 本当に邪神に勝っちゃった!!」


 そしてユカリとの融合が解除される。


「ふう……一時はどうなることかと思いましたが、みなさん無事で何よりです」


「やはり最後にはマサキか。自分が不甲斐ない」


「気にすんな。ヴァリスも無事で良かったよ」


 傷も癒えたようだ。せっかくできた友人だし、死んで欲しくない。

 助かってほっとしたよ。


「すごかったね。融合とかできたんだ」


「昔ノリでやったらできてな。ユカリが嫌がるから封印した」


「人間と融合なんて非常識ですからね。変な感じですよ」


 実際融合というのは不思議としか形容できない。

 次に何をしようとしているかがぼんやりわかるし、肉体はひとつ。


「なかなか貴重な体験だよ」


 突然室内に赤い光が灯り、警報が鳴り響く。


「どうした!」


「しまった! 自爆機能です!」


「お約束だなおい……ここ首都上空だぞ」


「なんとかできないの?」


『こちら制御室』


 ピヨキチの声だ。

 いつの間にかいなくなったと思ったら、抜け目のないやつだぜ


『なんとか要塞だけ宇宙に飛ばしてみるピヨ。みんなはさっさと逃げるピヨ』


「ピヨキチちゃんはどうなるんですか?」


『ひよこは飛べるピヨ。心配すんなピヨ』


「わかった」


「いいの?」


「信じてやれ」


 あいつの決意を無駄にはしない。

 全員で素早くヘリに乗り込み、空中要塞から脱出しよう。


「すまないキャプテン。恩に着る!!」


「ヘマするんじゃねえぞ!」


『こっちの台詞ピヨ。飛べない人間はさっさと帰るピヨ』


 よし、ヘリは動く。氷を溶かし、慎重に離脱する。

 しばらくして要塞が雲の上まで飛んでいくのが見えた。


「大丈夫かなピヨキチくん」


「ちゃんと脱出してくれればいいのですが」


「ここまできて犠牲者など出したくはないな」


「おっともうこんな時間か」


 大きな鳩時計となった俺から、時を告げるべくピヨキチが飛び出した。


「午後七時ピヨ。午後七時ピヨ」


「変なとこから出てきたー!?」


「これが俺の脱出マジックさ」


 そして空の上で爆発し、光となった要塞を見ながら拠点へと帰った。


「マサキ様ー!!」


「サファイア様!!」


「ヴァリス! よくやったぞ!!」


 それぞれの仲間が迎えてくれる。

 それに手を振って答え、ゆっくりと着陸した。


「勝ったのね~?」


「はい! ばっちりです!!」


「俺たちの勝利です」


 より一層の歓声が巻き起こった。


「ヴァリスよ、おぬしはギャンゾックの誇りだ」


「いいえ、結局はマサキによる勝利です。自分の力不足を痛感しました」


「そういうのは別に日にやりゃいいんだよ」


「そうそう。今日はみんなの勝利ですよ」


「ならば女神様のお言葉に従いましょう。全員で掴んだ勝利だ!」


 勝利に沸く中で、少し疑問が残っていたので聞いてみる。


「そういや地上の敵はどうしたんです?」


「改造人間はすべてが機能を停止してから爆発しました」


「クロユリのせいでしょう。たとえ負けても自爆で敵にダメージくらいは与えるだろうと」


「そいつが裏目に出たわけか」


 あいつは人間とか見下していそうだったからな。


「マーサーキ! マーサーキ!」


 兵がコールとかしている。妙に恥ずかしいな。

 ここまで称賛される経験がない。


「こういうの初めてだな」


「そうなの?」


「大抵は戦闘見られたら逃げてたし、仲間もいなかったよ」


「私とマサキ様の二人パーティーでしたねえ」


「慣れる機会がなかったな」


「笑顔で手でも振ってみたらどうだ」


「こうか?」


 ぎこちない笑顔て軽く手をふる。

 するとさらにコールは大きくなっていった。


「こういうのも悪くないな」


「こんな時くらい、英雄でいていいんですよ。マサキ様はそれだけのことを成し遂げているんですから」


「同感だな」


「そうそう! 胸を張って凱旋よ!!」


 色々と妙な縁と長い戦いだったが、この世界に来てよかった。

 今の俺は心からそう思っていた。

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