俺、愛の告白を攻撃手段にします
冥府大将軍ルフランとの勝負も佳境だ。
シンプルに強いこいつを倒すには、もっと本気でやらなくっちゃあな。
「本気でいくぜ」
「楽しみですよ。地獄軍師すら倒したその実力、拝見いたしましょう」
「俺も光速を超えてやるのさ!」
ルフランまで一直線のレールを敷き、顔以外を重機関車へと変えた俺が爆走していく。
「もう人間じゃない!?」
「出発進行!!」
「ふん、レールがあるなら見切るのは簡単だ」
当然だが避けられる。そんなものは予想済みさ。
レールが無限に伸び続け、ルフランの背後へと続く。
「Uターンアターック!」
「ヌウアアアァァ!!」
なんと真正面から斬りかかってきた。
しかも大幅に後退しながらも吹っ飛ばない。
「このまま……散るがいい!!」
「分離!!」
攻撃を察知し、緊急離脱。
俺の体を頭部・胴体・くるぶしに分けてそれぞれジェット噴射で脱出した。
「こいつ……人造人間か!」
「どう見ても人間だろう」
「どう見てもロボですよ。っていうか分離箇所かたよってる!!」
「合体!」
そして合体し、余分な腕が地面に落ちた。
「腕が余ってるー!?」
「やっべ、一本多く作っちゃった」
「さっきまで二本だったでしょうが! なんで増やすんですか!」
「なんかでかいネジ余ってんだけど」
「ダメですよちゃんと合体しないと! 不具合出ちゃいますって!!」
だが無事に合体は完了している。このままドンドンいこう。
勢いで言い切っちゃえば案外いけるって。
「これが究極合体だああぁぁ!!」
「取り繕えてないですって! 空気もパーツもボロボロですよ!」
「合体できぬよう、砂より細かく解体してやろう」
「フィンガーミサイル!!」
指先がミサイルとなって飛んでいくが、これは切り落とされる。
そんなもん考慮しているに決まっているだろう。
そいつは煙幕弾だ。
「口からおびただしい量のビーム!!」
点でダメなら面で攻める。広範囲にビームを噛ましながら煙幕で逃げる。
「そこかっ!」
「分離!!」
敵の攻撃には分解離脱で対応。これが新時代の戦闘スタイルだ。
「くるぶしマシンガン!」
「どこから出してんですか!?」
これは囮だ。本命はばら撒いた地雷にある。
「これはっ!?」
無事踏んでくれて大爆発。流石にダメージ入っただろ
「いつまでもお遊びに付き合うほど、私は暇ではない!!」
「ぬう! できるな!!」
さらに攻撃速度が増してやがる。
あまり遊んでもいられんか。
「いいだろう。お前の弱点はわかった」
「後学のためにお教え願えるかな?」
「お前はシンプルな強さが長所だ。だが同時に真面目ゆえに予想外の攻撃への対処が遅れる。それをスピードでカバーしているだけだ」
実際に鎧の具足にヒビが入っている。
あの鎧も無敵ではない。ならば破壊など容易だ。
「見せてやる。恋する乙女の異世界チート!!」
ブレザーを着た俺と、セーラー服を着た俺が現れる。
「なんか今日のマサキ様ずっと気持ち悪い!?」
俺たちの間に、もしくは背景にルフランが入るように位置取りを調節したら準備はオーケイ。
「なんだか知らんが、両方倒せばいいだけだ!」
「せ、先輩! あたし、あたし先輩のことが……好きなんです言っちゃった!!」」
そんな告白を邪魔するかのように、電車が轟音を鳴り響かせて通っていく。
ちょうど進路にいたルフランを跳ね飛ばしながら。
「ぶごおおおお!?」
「はねられたー!?」
「えっ、なんだって? よく聞こえなかったよ」
お約束の流れである。このよくあるやり取りこそが最大の武器だ。
告白を聞いていないことにし、さらに続けさせよう。
「くっ……この程度のダメージなど……」
「先輩のことが大好きだっちゃ!」
迫るルフランを巻き込んで大竜巻が吹き荒れ、風の音がすべてをかき消していく。
「突然なんだあああぁぁ!?」
雷雲による永続的なダメージが、鎧に蓄積されているはずだ。
さらに先輩への想いを告白していこう。
「先輩が好きでごわす!!」
「どすこーい! どすこーい!!」
大量の力士が通過し、踏み潰された衝撃でルフランの鎧が砕けた。
「なんで力士!?」
「ぬがあ! やめろ踏むな! ぬおおおおぉぉ!」
「異世界部屋の朝稽古に巻き込まれたな。運のないやつ」
「ないです! そんな相撲部屋ないですから!!」
「しかも六割が外国人力士だ。そのパワーは鎧も砕く」
スポーツのグローバル化は続く。それは新たな風を呼び起こすことになるのさ。
まあ俺は異世界来てるからもう関係ないけど。
「鎧がなくなろうとも、まだ死んだわけではない!」
「先輩がめっさ好っきゃねん!」
上空より降り注ぐピンクの光がルフランを焼き尽くしていく。
「ぎゃあああああああああああ!!」
「えっ、ごめん衛星軌道上からのレーザー狙撃の音で聞こえなかったよ」
「異世界にそんなもんあるわけないでしょう!?」
「たとえ剣が折れ、鎧が砕けようとも。たかが人間ひとり……殺しきれぬはずがない!!」
ガッツのあるやつだな。ズタボロになりながらも闘志は消えていない。
「冥府大将軍の名にかけて、真の強者が支配する帝国のために! 貴様を殺す!!」
「ならば本当の冥府へと送ってやろう。二度と現世に戻れないようにな!!」
超大型トラックに乗った俺は、軽快な演歌を流しながら全速力でルフランを跳ね飛ばす。
「必殺異世界チート! トラック激突異世界送り!!」
「ぶべっはああぁぁぁ!!」
「もうただの事故だー!?」
「あばよルフラン。地獄の三騎士によろしくな」
そこにはもうルフランはいなかった。
やれやれ、今回は強敵だったな。
「ルフランはどこ行ったんですか?」
「この技は対象を指定した異世界へと送る。行き先が地獄であろうと冥府であろうとピンポイントでな。伊勢海奥郎さんが開発した、トラック殺人武術だ」
「無駄に凄い……もうどうツッコめばいいかわかりません」
「さて、サファイアが心配だ。さっさと戻ろうぜ」
「では転移します」
外壁の上へ戻ると、もう戦闘は終わっていた。
「無事かサファイア」
「マサキ様! 女神様!」
「どうやら無事のようですね」
「突然ドラゴンが消えたのよ~」
「冥府大将軍は倒してきた。おそらく本体が消えたからドラゴンも消えたのだろう」
それを聞いて湧き上がる兵士たち。
幸い死者もいないようだ。戦果としちゃ上々だろう。
「やっぱりマサキ様がいないとダメね」
「本当に何度も奇跡を起こしてくれるわね~」
「これで帝国はしばらく攻めてこないでしょう。数日のうちに近隣諸国と一緒に挙兵を」
「よーし、やりましょう!」
兵士が規則正しく戻っていくのを見届けた。
ようやく一息つけるな。
「ありがとうマサキ様」
「急にどうした」
「神器があっても、きっとマサキ様がいなかったら危なかった。ここまでみんなが生きているのも、マサキ様がいたからよ」
「本当に結果だけ見れば英雄ですからねえ」
「戦闘は見せられたもんじゃないけどな」
「では胸の奥に秘めておきましょう」
「それがいい」
とにかくこれで残るは帝王と暗黒博士だ。
光明ってやつが見えてきた。
どんなやつが来ても俺たちなら切り抜けられるはずさ。
『ユカリさん、聞こえますか?』
俺たち近くの空中に、鏡みたいなものが出た。そこから女の声がする。
「コノハちゃん?」
『よかった繋がった!』
緑色のふわふわロングヘアーで、ユカリよりずっとスタイルがいい。
優しそうで真面目そう。なんだか焦っているようだ。
「誰だ?」
「ギャンゾック担当女神です」
『こちらでも帝国軍を確認。ふわーっとやって、どーんと無事撃退しました。各国の女神からも同様の連絡が来ています』
「わかりました。準備ができ次第、総攻撃をかけましょう。戦力補充の時間を与えてはいけません」
『了解。そちらの健闘を祈ります! ばびっとやっちゃってください!』
そして鏡は陽炎のように消えた。
「決戦は近いな」
「きっと勝てるよ。マサキ様も、みんなもいるんだから」
ここまできて負ける気もない。
急いで支度をして、打倒帝国のために動き出そう。
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