決戦開始

 冥府大将軍を倒した数日後。

 俺たちはギャンゾックの軍とともに帝国領へと入った。

 大軍団が帝国首都目前で整列している。


「あれが本隊か?」


 城の壁にも、門の外にも大量の敵がいる。

 ここまでほぼ敵との交戦がなかったのは、戦力を集中するためなのだろうか。


「おそらく。他二国による牽制砲撃を続けたからな。首都に集中させることに成功した」


「来たかヴァリス」


 ヴァリスは俺たちと一緒らしい。

 最高戦力で一気にかたをつける計画だ。


「女神の力により、帝王は首都から出られません。確実に攻め落としましょう」


「よし、行くぜ!!」


「待って! 何かおかしいわ!」


 大地が揺れている。魔力ではない。震源地もわからん。


「あれです! 城が!!」


 首都の外壁から城がせり上がっている。

 地面ごとゆっくりと上空へと昇っているのだ。


「おいおいなんだありゃ」


「空中要塞……厄介なものを出してきましたね。それだけ帝王も邪神も必死なのでしょう」


 城そのものを移動要塞にしていたらしい。

 どういう技術力だよまったく。


「だがどうする? こちらも飛行魔法で行くか?」


 兵がざわつき始めている。無理もないが指揮に影響が出そうだ。


「いけない! 敵兵が!」


 空を埋め尽くさんばかりの竜騎兵だ。要塞からあれが敵かよ。


「人が乗っていない……いや、あれは竜の改造人間か」


『ユカリさん、こちらコノハ。ギャンゾック王と繋ぎます』


 コノハの姿を写す鏡が現れた。これ便利だな。


『こちらクリーガー。部隊の準備はできている。ただ空中の敵が多すぎる』


「こちらサファイア。魔法で迎撃する用意はあります。しかし……」


「こちらの兵も含めて~、どうにも対処が難しいわ~」


「やるしかないか。魔法で射撃を続けてください。俺が空中の連中を撹乱しながら要塞に突っ込みます」


 これが一番楽だろう。戦闘スタイルからして軍隊向きじゃない。

 徹底的に引っ掻き回すのみ。


『可能なのか? 仮にできたとして、それでは君の命が……』


「そこは信じてもらうしかありませんね」


「ならばオレも行こう。友を単身死地へ送るつもりはない」


「ヴァリス……」


 ヴァリスの目には確かな覚悟がある。

 こいつが来るなら心強いぜ。


「なら私も行く! 神器の力があれば、足手まといにはならないわ!」


「仕方がありませんね……腐れ縁というやつですか。女神がいた方が連絡も取れるでしょう」


 サファイアとユカリが立候補。突入組は決まったな。


『ユカリさん、本当にいいの? 危険ですよ? 敵がこう、がおーって来ますよ?』


「ええ、マサキ様がいればなんとかなりますよ。今までだってそうでしたから」


 ユカリとコノハによる相談が行われ、結局は俺を信じてもらうという結論で落ち着いた。


「お母様、ここはお任せします。私は……」


「いってらっしゃい。あなたはあなたが成すべきことをしなさい。わたしはそれを応援しているわ」


 別れを惜しむサファイアとエメラルドさん。なんとかこいつは守らないとな。


『行って来いヴァリス。この世界の未来を頼む』


「必ず勝利をお届けいたしします!!」


 クリーガー王とヴァリスの挨拶も終わったようだ。

 そして俺の呼びかけに応え、戦闘用ヘリが降りてきた。


「さ、乗りな」


「ファンタジーに似合わないものが来たー!?」


「なんですかこれ?」


「いいから乗れ。いくぞ!」


 全員乗り込んだことを確認し、いざ決戦の地へ。


「全力で飛ばしてくれ、キャプテン」


「あいよ」


 運転手へと指示を出し、ヘリは空へと舞い上がる。


「えっ、これ誰が運転しているんですか?」


「前方から敵が来るぜ……どうする?」


「機銃掃射だ!」


「アイアイサー」


 飛んでくる竜騎兵を機銃で撃ち落としながら飛ぶ。


「ふっ、近代兵器に勝てると思うなよ」


「さすがはマサキだ。我々には予想もつかない兵器を隠し持っているとは」


「終始こんなんですねえ……」


「何か来るわ!」


 青いドラゴンの上に上半身だけ出たでかいおっさんがいる。

 あれも改造人間かな。ドラゴンが3メートル。上半身だけの人間も2メートルくらいある。どうやって生活してんだろ。


「我輩は龍騎人間ドルブン。貴様らのようなひよっこどもに空を制することはできんぞ!!」


「言われてるぜピヨキチ」


「やれやれ、大口はドラゴンの特権ってやつピヨね」


「パイロットがひよこだー!?」


 ひよこのピヨキチは帽子をかぶり直し、気合を入れて操縦を再開する。


「砲座出せるか?」


「無論ピヨ」


 ヘリの横が開き、ガトリング砲座が出現。あとは撃ちまくるのみ。


「オラオラ死にさらせやあああぁぁ!!」


「ええい鬱陶しい!」


 機銃よりも威力は上だ。

 ドルブンに当たらずとも、周囲の敵を蹴散らすくらい容易い。


「しゃらくさい! ダブルマグマ弾をくらえい!!」


 ドラゴンとおっさんの口からマグマ弾が発射される。

 おっさんはなんで出せるのさ。ドラゴンはいいけど。


「ガードするわ!」


 神器の結界で弾いていく。ヘリを覆うようにバリアが完成した。


「いい仕事だサファイア!」


「どこまでも小癪なやつらよ! ものどもかかれ!」


「撃って撃って撃ちまくれ!」


 ザコを機銃とガトリングで掃射していく。

 これだけでもう百騎近く落としているはずだ。


「後ろからも来たわ!」


「ピヨキチ殿!」


「キャプテンと呼びな!」


「ならばキャプテン! 反対の扉は開くか!」


「誰に言ってやがるピヨ!」


 俺と反対の扉が開く。そこにも砲座はあるが、ヴァリスには必要ないようだ。

 腰に命綱をつけ、剣を構える。


「無限烈閃光!!」


 以前より激しく強く数の増えた閃光が敵を焼き尽くしていく。

 それはあまりにも一瞬の出来事だった。


「オレは二度と足手まといにはならない!!」


「最高だヴァリス!」


「ふっ、いっちょまえの戦士になりやがったピヨ」


「なぜひよこが偉そうなんですか……」


「無駄無駄あ!! その程度で我輩の体に傷をつけることなど叶わぬ!」


 存外丈夫にできてやがるな。だが俺たちに負ける要素は無い。


「ピヨキチ、モードチェンジだ!」


「ついに羽ばたく時が来たピヨ」


 ピヨキチの隣に座り。チェンジボタンを押す。

 同時にペダルを踏み込んだら変形機構の発動だ。


「中に戻るピヨ!!」


 扉が閉まり、三角形のステルス戦闘機へと形状変化完了。


「なんだと!? ええい見掛け倒しだ!!」


 内部の空間に宝玉のセットされた台座が現れる。

 こいつが今回の鍵だ。


「サファイア、ヴァリス、その宝玉にありったけ魔力を込めろ!」


「わかった!」


「任せろ!!」


 赤と青の閃光が機体に満たされ、大きな翼となって広がっていく。

 その巨大さは、ドラゴン数匹を軽々と飲み込み焼き払うほどだ。


「必殺合体異世界チート!」


 横に回転しながら光は激しさを増し、周囲の敵を巻き込みながらドルブンへと突っ込んでいく。


「絆バーニングラアアアァァァブ!!」


「名前かっこ悪い!?」


「龍騎兵最強の我輩があああぁぁぁ!!」


 ドルブンは灰すら残さず消えた。

 空中の敵もほぼ焼き切ったし、このまま要塞へ突っ込むか。


「しっかり掴まっとけ。要塞に突っ込むぞ!」


「ついに決戦だな」


「私たちの国は、世界は、守ってみせるわ!」


 空中要塞の最上部へと突撃し、激しい衝撃とともに内部へ深々と突き刺さった。


「うおおおぉぉ!!」


 素早くコクピットから飛び出し、近くにいた物々しいヒゲのおっさんに飛び蹴りをかます。


「お前が帝王かああああぁぁ!!」


「ぴぎゃふうううぅ!?」


 ごろごろと床を転がっていくおっさん。

 さすがは帝王。タフな野郎だ。


「違います、その男は暗黒博士です」


「まぎらわしいんじゃボケエエエエェェェ!!」


「ぐべぎゃああぁぁぁ!?」


 紛らわしいおっさんには右ストレートをぶちかます。


「騒がしい客だ」


 煙の先から声がする。声だけでわかる威圧感。


「あいつが帝王か。ピヨスケ、博士は任せたぜ」


「あいよ、そっちもヘマするんじゃねえピヨ」


 暗黒博士に立ち向かうピヨキチ。ここは任せよう。


「無理だよ! 助けてあげなよ!」


 ヘリから他の三人も出てきた。全員無事だな。


「安心しろ。あいつはもう一人前のひよこさ」


「だからだよ! ひよこだよあの子!!」


「おのれふざけた真似を……くらえ亡霊波!」


 亡霊の数々がピヨキチに迫る。

 だが落ち着いて目を閉じ、開くと同時にクチバシによる蹂躙が始まった。


「クチバシ乱舞!!」


「えええぇぇぇ!? ひよこ強い!?」


「ありえん! ワタシの亡霊を消しただと!?」


「本気で来いピヨ。オレのオスメスを鑑定した男のように、全力でオレを見ないと死ぬぜピヨ」


「なんかかっこいいこと言ったー!?」


 そして世界の命運を決める戦いが始まる。

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