神器完成と冥府大将軍と増える俺
サンパーとの戦いから一夜明け、俺達の目の前に神器が現れた。
「こいつが……」
意外にも女性用の首飾りが出てきた。
中央に綺麗なクリスタルが収められている。
もっと大きかったはずだが、手の中に入るくらいに加工されているな。
「これが新しい神器です」
「とてつもない力を感じます。これなら……帝国にも負けない!」
サファイアが触れると、まるではじめからそこにあったかのように首飾りが装着され、手にクリスタルの杖が出現した。
王冠とマントまである。いかにも王族の装備だな。
「膨大な魔力を秘めたアイテムです。普通の敵ならまず負けません。国の結界もより強固になるでしょう」
「ありがとうございます!」
「これはあなたが掴んだ力です。どうかこの世界をより良くするために使ってください」
「はい!」
「よし、じゃあアストラエアに帰るぞ」
その時、来客を知らせるベルが鳴る。
外を見ると、どうやらアリアと兵士たちだ。
「どうした? 何があった?」
『帝国が各国に向けて挙兵を! 急いでお戻りください!!』
「先手を取られたか」
「全員を城の近くまで転送します。戦闘準備を!」
「今そっちに行くわ! 全員その場で待機!」
急いで身支度をし、神殿前のみんなと合流。
神器獲得を喜ぶのも程々に、城へ帰還することになる。
「今回は私も出向きます。帝国を倒しましょう!」
全員を囲む魔法陣が展開。淡い光に包まれて、一気に城下町外壁のさらに外へ。
もちろん転移先に結界を張っておいた。
まだ敵影はなし。軽く柵のようなものが構築されている。
「つきました。どうやらまだ帝国は来ていないようですね」
「各員戦闘準備! 私は城へ戻るわ! アリア!」
「はっ、このまま兵を束ねます。サファイア様はエメラルド様の元へ」
「その必要はないわ~」
エメラルドさん登場。既に戦闘服へと着替えていた。
「サファイア、よくがんばったわね」
「お母様!」
「さあ城壁へ。皆に帰還と鼓舞を」
「はい!」
兵も続々と壁の中へと入る。
遠距離から迎え撃ち、その後歩兵で潰すのだろう。
そして遥か遠くに土煙が見えた。
「来たぞ!」
「望遠魔法!!」
空中に映し出されたのは、全員が化物で構成されている部隊だった。
「間違いない。帝国の兵士だ」
「この女神より賜った神器と精鋭がいれば、帝国など物の数ではない! 非道なる帝国に鉄槌を! 国を、民を守り、救えるかは諸君の手にかかっている!」
動揺する兵士を鼓舞するため、サファイアとエメラルドさんによる演説が行われている。
その間にも敵は止まることなく突っ込んでくる。
陣など張る気もないのか、死ぬまで全力疾走でもする勢いだ。
「こちらには三騎士と軍師を破った英雄もいる! 負ける要素は無い! 訓練の成果を見せてやれ!!」
「敵最後尾まで確認。結界いけます!」
「お願いねサファイア」
「やってやります!」
いつも城壁に張られている結界よりさらに強固なものを、敵最後尾の後ろに作り出す。
これで退路はなくなった。
もちろん城の結界もそのままだ。
「砲撃用意!」
「準備完了!!」
「集中砲火! 撃て!」
砲撃ルートのみ空中に穴が空き、敵へと容赦ない砲撃が続く。
それでも敵は止まらない。痛みや恐怖はないのだろうか。
「こんな簡単に勝てるのか?」
「まさか。どう考えても本隊じゃないわ~。時間稼ぎか……じゃなきゃ各国が合流するのを避けたいのかも~」
「敵への砲撃を続けて! 魔法部隊は後列と入れ替え! 回復急いで!」
「何かが突破してきます!!」
砲撃を受けながらも、黒いドラゴンがこちらへ飛んでくる。
なんだあのでかさ。5メートルは超えているぞ。
「焦るな! 結界がある! 砲撃続行!」
黒い竜は魔法を吸収している気がする。
さっきまで着弾すれば爆発していた魔法も、するりと吸い込まれている気がした。
「物理攻撃に切り替えて!」
俺が指摘するより早くエメラルドさんの指示が飛ぶ。
戦闘慣れしているなこの人。
「ダメです! 弓も大砲も効いていません!」
水の中に石を入れた感じとでも言うべきか。
どうにも当たっている気がしない。
「撃ってきます!」
巨大な口から赤く輝くブレスが放たれる。
「結界を集中させる!!」
サファイアと神器により、ブレス攻撃はバリアで阻まれる。
「風で押し返す! 吹き飛ばして!!」
魔道士軍団による暴風がドラゴンを押す。
ブレスを中断させ、少し押し返すも無傷っぽい。
「こりゃ面倒だな」
「聞いたことがあるわ~。冥府大将軍ルフラン。どんな攻撃も効かない無敵のドラゴンがいるって」
ずっと空中に浮いていて、歩兵じゃ斬りかかれない。
魔法も弓も埋まるかすり抜けるか吸収するかだ
「マサキ様、おそらくですが本体が別にいます」
ユカリがそんなことを言い出した。
「本当か?」
「100%ではありませんが、あれは魔法を吸収してぶつけてきています。魔力の塊だから弓も砲撃も通りません」
「じゃあ最初に全兵士が特攻してきたのは……」
「おそらく遠距離から魔法を撃たせて、あそこまで巨大なドラゴンを作るための囮でしょう」
「なかなかの策士だな」
敵もそこそこ頭が回るようだな。
実際無敵の巨大ドラゴンだ。兵士に動揺が広がりつつある。
「女神様、ではどうすれば倒せるのですか?」
「本体を魔力で探知できました。私とマサキ様で飛びます」
「お願いね~」
「いいのか? ここの連中もサファイアも安全ってわけじゃ……」
「行って。私には神器がある。みんなもいる。つまり防戦一方で耐えればいいんでしょ?」
やる気だ。サファイアもエメラルドさんもアリアも、近くの兵士も目が死んでいない。
俺とユカリに託しているのだ。
「……わかった。ぱぱっと倒してくるから、死ぬんじゃないぞ!!」
「もちろん! マサキ様こそ気をつけるのよ!」
「いきます。転移!!」
ユカリの転移魔法で飛んだのは、城の位置からして近くの山だ。
「ほう……ここまでやってくる者がいるとは。軍師を破った男というのも眉唾ではないようだ」
そこは巨大な魔法陣とマジックアイテムで形成された陣であった。
「冥府大将軍ってのはあんたかい?」
金色に黒の装飾が入った鎧に、赤いマント。
金髪で髭を蓄えた三十代くらいの男だろうか。
兜がまるで化物の頭蓋骨のようだった。
「いかにも。我こそが冥府大将軍ルフラン。勇敢なる戦士よ、名を聞いておこう」
「マサキ」
「女神同伴とは豪勢だな、勇者マサキよ」
「どうして私が女神だと?」
「気づくさ。人間でも改造人間でもない。貴様が肩入れしていたか」
女神がいると聞いても余裕を崩さない。
今までのやつよりも風格があるな。
ちょいと強敵かも。
「すべてはマサキ様と、この世界を生きる人々の力です」
「そうか。ならばこの世界の力で葬ろう」
やつの手のひらから、真っ黒に染まった刃が飛び出す。
仕込み刀か。にしてもどこから出たんだ。
「ユカリの前に俺を倒してもらおうか」
ユカリの前に立ち、戦闘準備完了。こいつを倒してサファイアも助ける。
「女神を庇うか。そんなに大切かね?」
「こいつには恩があってな。死なれるのも気に入らん」
「マサキ様……」
「下がってろ」
ユカリを後方に退避させて構えを取る。
さてどう出るかな。
「その勇気に免じて、君の命から刈り取ろう。勇者マサキ」
そしてルフランが消えた。
「では、さようなら」
背後の気配に気づくと同時に、反射的に俺の分身を作って盾にしていた。
「必殺、俺ガード!!」
一太刀見えた瞬間には、分身はバラバラに切り裂かれ、ルフランはまた姿を消す。
「奇妙な技を使うね」
「俺が盾にならなければ俺は死んでいたぜ」
「意味わかりませんよ」
「なら正面から堂々と切り刻もう」
気がつくとルフランが目の前で剣を振り下ろしていた。
「ならば堂々と切り裂かれよう」
細切れになった俺は、そのまま無数の俺へと形を成す。
「秘技、増える俺!!」
「気持ち悪い!?」
無数の見えない斬撃により、サファイアの格好をした俺と、エメラルドさんの格好をした俺だけが残された。
「やるわね」
「またひとりぼっちになっちゃった」
「いやいや二人いますよ!? よりによって残ったのその二人!?」
「間引いてあげよう」
エメラルドさんに似た俺が消された。相変わらず斬撃が見えん。
「私のトップスピードは光速の十五倍だ。避けたければご自由に」
「こいつ、シンプルに強い!!」
「小細工だけに頼った雑兵とは違うのだよ。無数の斬撃、どうかわす?」
「ならばさらに手数を増やす! とう!」
天へと飛び上がり、宇宙から降り注ぐ無数の俺とともに突っ込んでいく。
「必殺! 俺流星群!!」
「絵面が最悪だ!?」
「この程度の数で無数とは……ぬ?」
斬ったそばから爆発を起こす。
ルフランに当たらなくても、近くに着弾した俺が大爆発を起こし続ける。
ごく普通にダメージがでかいのだ。
「なるほど。いい発想をしている」
「ほう、無傷とは。随分といい鎧だな」
「鍛錬の成果さ。鎧の効果も認めるがね」
ただただシンプルに強いな。
異能タイプならつけ入る隙は山ほどあるんだが、こういうタイプはちょいめんどいかも。
「斬っても増えるか。なら突き刺せばどうかな?」
鋭い刺突を食らう直前。俺を助けようと前に躍り出るピーマンと玉ねぎ。
「ぐはあ!?」
「うげええ!?」
「うおあ!?」
野菜を貫通し、俺たちは三人仲良く串刺しになった。
「やれやれ、これじゃまるでバーベキューだぜ」
「マサキ様まで刺されてる!?」
「君は物理攻撃が効かないのか?」
「お前がしたのは物理攻撃ではない。バーベキューの準備だ。よって無効に決まっている!!」
「完全に屁理屈だ!?」
そして刺されている状態から、とうもろこしを身代わりに抜け出した。
「肉なしバーベキューとは虚しいな、ルフラン」
「よかろう。ここからは本気でお相手する」
「面白い。ならば見せてやる。この俺の真の力を!!」
もっとより深く、勢いのある戦闘を見せてやるぜ。
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