女神ユカリとアホみたいな試練
第二の試練も終了。楽勝だけどだるかったぜ。
また一階のホールでユカリに試練を出してもらおう。
「次の試練は何だ?」
「そこに洗濯物があります。それを出来るだけ急いで丁寧に物干し竿にかけてください」
「わかりました!」
サファイアがせっせと洗濯物を運んでいく。
仕方がないので俺も多少手伝う。
「下着とかは見ちゃダメですよ」
「だったらせめて分けて渡せよめんどくっせえ」
「はい、マサキ様はこっちをお願いね」
ちまちまとした作業が続く。服だの布団だのを干す作業だ。
ようやく終わったが、ためすぎだろこれ。
「これでいいのか?」
「今回は色々やってもらいますよ。次は美味しいご飯を作ってください。メニューはハンバーグとオムライスです!」
「やってみます!」
厨房で料理を始める。意外にもサファイアの手際は悪くない。
「お姫様だろお前」
「何でもできた方がいいってお母様が」
「そういうことか。ユカリの好みの味付けを教えてやる」
そんな感じで二人で料理。
サファイアが野菜を洗って、俺が切る。
「これくらい私でもできるわ」
ケチャップライスの準備をしながら、ハンバーグをこね回している。
その間に火を入れ、オムライスの準備だ。
「卵料理は難しいからな。俺がやるよ」
「マサキ様もお料理できるのね」
「冒険はできることが増える。危険も増えるがね」
手際よくすいっとオムライス完成。
よしふわふわだな。我ながら渾身の出来だぜ。
「わあ、マサキ様じょうず!」
「ユカリは卵ふわふわも好きだが、硬めも好き。だからどっちかに寄せろ。中間が一番うるさい」
「覚えておきますね」
サファイアの仕事も丁寧だ。
なんだか楽しそうだし、息抜きにはなったかね。
「よーし焼いていくぞ。オムライスが卵だから、目玉焼きのせてもなあ……最後にチーズ乗せるか」
「ちゃんと相手のこととか考えるのね」
「作る以上はちゃんとやる。よしひっくり返してみろ」
「はーい。よいしょ……っと」
「うまいうまい。よくできるな」
楽しく料理を終え、皿に盛り付け蓋をしたら台車で運ぶ。
ユカリは食堂で待っているはずだ。
「持ってきたぞー」
「待ってました。さあどんなものができたか見せてください」
蓋を取ると湯気が天に昇り、いい匂いが食堂に広がる。
「おおおおー!! これはおいしそうです!」
「自信作だ」
「自信作です」
まずはオムライスをひとくち。
そしてユカリの動きが止まる。
「すごい! すごくおいしいです!!」
「そうだろう。冷めないうちに食え」
「やったね」
「ハンバーグがしっかり焼けていますね。しかもジューシー! チーズが凄くいい感じです!!」
夢中でハンバーグ食っている姿は微笑ましい。
女神かどうかと問われると困るが。
「俺たちも食うか」
「はい!」
当然だが俺たちの分もある。腹減る時間だしな。
「おいしくできたね!」
「ああ、いい出来じゃないか」
二人で笑う。味見はしていたが、本格的に食っても美味い。
自然と笑い合うことになる。
「はー……ごちそうさまでした。いやあ満足満足。マサキ様は料理うまくなりましたねえ」
「ずっと旅してりゃある程度はな」
満腹だ。今日は充実した日になったな。
「試練はこれで終わりですか?」
「そうですねえ……じゃあお風呂沸かしてください。そのあとでまた考えます。食後のお茶おかわりもお願いします。冷たいやつで」
「はいはい、わかったよ」
その場に透明な浴槽を召喚。もちろん熱湯で満たされている。
しっかりマッサージチェアでくつろいでいるユカリを掴み、豪快に投げ込んだ。
「テメーが楽したいだけだろうがああぁぁぁ!」
「あっつあああああぁぁ!?」
「マサキ様!?」
氷水で満たされた浴槽に入って落ち着くユカリ。
昔のバラエティ番組みたいだなあ。
「これ普通に家事やっただけだろうが!!」
「女神になんちゅーことするんですか!」
「やかましい! お前試練にかこつけて家事やらせただけかよ!!」
「だって洗濯物たまっちゃってしんどかったんです!」
「知らねえよ!!」
自堕落な生活送りやがって。それに巻き込まれるこっちの身にもなれ。
「普通に試練をやれ」
「じゃあもう巨大ロボット戦でもすればいいんでしょう」
「異世界ファンタジーから逸脱する行為はやめろ」
「じゃあロボットのある異世界を作ってそこで」
「異世界がマトリョーシカみたいになるだろうが!!」
仮にも王家の試練だぞ。こんな雑でいいんかね。
今までの苦労なんだったのよ。
「最後の試練が、女神に認められて王家の宝具をゲットすることなんですよ。だからあげようにも難しくて」
「前はどうやって認められていたのですか?」
「二個の試練でまあだいたいはOKもらえるんですよ。あとは歴史語ったり、軽く質問したりなんですが、急遽穴埋めしてる身で、そのあたりがさっぱりなんですよね」
「なんで引き継ぎ雑なんだよ」
「女神は細かいことを気にしない子が多いんですよ」
もう適当にユカリの独断で決めりゃいいだろこれ。
別にサファイアの実力と人柄は理解できているだろうし。
「悪用しようとしてるわけじゃないんだし、もう渡しちまえ」
「それもいいんですが、まだ製造中なんですよ」
「製造?」
「クリスタル取ってきてもらったでしょう? あれを組み込んでさらに強力な武具にするんですよ」
「それまでの時間つぶしか」
「そういう感じです」
つまり暇なんだな。それが終わるまで帰るわけにもいかない。
こいつは困ったな。
「どうします? 私と戦ってみたりします?」
「お前妙に強いからなあ……」
「妙っていうか勝てるマサキ様がおかしいです。女神界でもそこそこ強いんですよ?」
「女神界ってなんですか?」
「様々な世界の最上位に君臨する、女神だけが住む唯一の世界です」
「そこから各異世界に女神が派遣される。大抵は現地世界の神を圧倒的に凌駕する」
そのくせこんなやつが混ざっている。
横着ものというか、俺との旅が終わって気が抜けたかな。
もうちょい責任感とかあるやつだった気がする。
「知りませんでした……」
「普通は知りませんよ。マサキ様が特別なのです」
「それはそれ。新しい武器ってのはいつできる?」
「明日ですね。今回はかなり神器っぽい秘宝ですよ」
「結局泊まるしかないか」
「お泊りグッズは用意してあります」
遠くの扉からメイドっぽい服を着た人形が数体やってくる。
お泊りグッズ運んでいるが、なんかどっかで見たぞこれ。
「さっきこれと似た敵がいたぞ」
「無駄に怖かったわ」
「廃棄処分する戦闘用ドールを再利用してみました。リサイクルです。命令に合わせて動くように魔法で改良しました」
こいつも女神だからな。そういう自由は効く。
効くくらいには万能である。
「あんな群れで怖くする必要ないだろ」
「アストラエアちゃんホラー映画好きなんですよ。女神界ではそんなんばっか見てレビュー動画作ってますよ」
「れびゅーどうが?」
「異世界ファンタジーにふさわしい発言を心がけろ」
「ここにもありますよ。どうせ明日まで暇なんですし、上映会でも……」
爆発音とともに地面が揺れる。
「なんだ?」
『警告。何者かにより神殿への攻撃を確認』
室内にアナウンスが入る。だからそういう改造はファンタジーっぽくねえんだよ。
「損傷は?」
『ありません』
「ユカリ様、かなり大きな音がしましたよ?」
「この神殿は惑星的なものがぶつかっても無傷でいられるよう、スーパーなバリアが張られています」
「敵を映像で出せるか?」
『可能です』
空中に大型の投影映像が映し出された。
黒い鎧着た連中とマントをなびかせたヒョウ顔の男がいる。
ヒョウに似ているとかじゃなくて、完全にヒョウだ。改造人間だな。
「帝国軍です!」
「三騎士は倒したはずだろ」
「あれは地獄軍師サンパーですね。三騎士を凌ぐほどの実力者だとか」
「神器さえ壊せば、自分たちが負けるはずがないとでも思っているのでしょう」
会話中も揺れは強くなる。ちょっと不安だなこれ。
「おいおい大丈夫なんだろうな」
「女神のテクノロジーは不滅です」
「でもあっちは邪神が協力しているのでしょう?」
「…………マサキ様、行ってきてください。転移魔法かけます」
このまま放置ってわけにもいかないし、しょうがないのかねえ。
「こちらから通信は送れますので、会話できます。私はサファイアちゃんをここで守っていますね」
「ああもう行くしかないのか……」
「お風呂沸かしておきますね」
「気をつけてねマサキ様」
「おう、労ってくれるのはお前だけだよ……そうだ転移できるんだよな?」
「はい」
「だったら作戦がある」
夜中にドッカンドッカンうるさくて面倒だ。
ちょっと敵に嫌がらせしてやろう。
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