屋敷探索RTA 多分これが一番速いと思います

 はい二個目の試練いってみよう。


「サファイア、疲れてないか?」


「まだやれるわ」


「つまり疲れているわけだ。説明の間だけでも座っておけ」


 半ば強制的にマッサージチェアへ。

 ハーブティーをいれて、エアコンで少し室温を下げてやる。


「どうしてマサキ様はメイドの恰好なの?」


「給仕だからさ」


 無論しっかりとした長いスカートのやつだ。

 まがい物のメイド喫茶にいるやつとは違う。


「俺は本格派だからな」


「意味がわかりません」


「次の試練ですが、この神殿内にあるクリスタルと、あと何か食べ物取ってきてください」


「よくわからん」


「夕飯のサラダチキンなくなっちゃったので」


「あれお前のかよ!」


 自分の食い物をアドリブで敵にしたらしい。

 戦闘は計画的にやろうな。


「今回はボスとの正面対決ではありません。いかに神殿の謎を解き、限られた場所や条件で的確な行動を起こせるかです」


「探索型か。知力の試験的な?」


「そんなものです。準備ができたらで構いませんよ」


 だもんでサファイアを一時間ほど休ませ、万全を期して挑むのだ。


「じゃあ行ってくるけど、ちゃんと監督しろよ」


「お任せください」


「行くわよマサキ様」


 とりあえず一階右の廊下へ出てみる。

 人間が三人横になって歩けば、多少狭く感じるくらいか。

 戦闘が制限されるな。


「クリスタルってどんなものかしら」


「さあな。でかくて派手に光ってりゃ見つけやすくていいが」


 ちょうど横の扉を素通りしようと思った時、中からガチャンと音がした。


「……なにかがガチっと当たる音だな」


「ガラスとかじゃないわね。どうするの?」


「行くしかないだろう」


 ドアのプレートには娯楽室と書かれている。


「開けるぞ」


 そーっと開けると、ビリヤード台やピアノなんかが置いてある広い部屋だった。


「神殿だよなここ?」


「暮らすのに不便だとかで改装したらしいですよ」


「アホか」


 音は柱時計からだった。フタには鍵がかかっている。

 ガラス越しに中を見ると、なにやら中で歯車が抜けている。

 これが誤作動を起こしているようだな。


「ここに鍵穴っぽいのがある。ガラス割ってもいいが……」


「それは最後の手段でしょう」


「ならまずこの部屋を探すぞ」


 ごそごそと探索に入る。ちょっとおもしろいと言うか、冒険心というか、不思議な高揚感があるのは認めよう。探偵気分かな。


「赤い鍵あったよ!」


「でかした……ここの鍵じゃないな」


 時計の穴には入らない。別の場所かな。今の所これだけか。


「別に場所に行きましょう」


 そしてまた通路を歩き、応接室へ。

 鍵穴が赤い金庫発見。


「これだな」


「間違いないね」


 開けてみる。中から黄色の鍵が出てきた。


「また鍵……しかもでかい」


「時計の鍵じゃないね……ここはもう終わりかな?」


 何かが動くようなこすれるような音がして、天井がジリジリ落ちてくる。


「マジかよ殺意高いな」


「マサキ様! 扉が開かない!!」


「蹴り飛ばすか」


「……いいのかな?」


「死ぬよかマシだろ」


 二人で強引に蹴り飛ばし、鍵をぶっ壊して脱出。

 この程度のトラップじゃ慌てないし、緊張感も出ないな。


「それなりに危険だってことは理解した」


「慎重に行きましょうか」


 まただ。廊下の向こうから音がする。今度は何かを引きずるような音だ。


「こっちに来てる?」


「らしいな。しかも複数だ」


「どうしよう?」


「曲がり角から離れて、敵なら迎撃すればいい」


 こういう場所での戦闘も経験している。

 伊達に別世界を救ったわけじゃない。


「なにあれ……人形?」


 木の人形や人体模型だろうか。

 ズルズルと足を引きずり、両腕がだらしなくたれている。


「ゾンビみたいだな」


「そういう意図なのかしら? フリーズブレイカー!」


 氷の塊がぶつかることで、人形は崩れていく。

 想像以上に脆いな。だが奥からぞろぞろ出てきやがる。


「人海戦術というやつか」


「逃げる?」


「無理に戦う必要はない。あっちの階段から二階に行くぞ」


「わかった!」


 やっぱりのろい。こっちが走れば追いつかれないな。

 そんなわけで二階を探索。

 殆どの部屋に鍵がかかっており、唯一黄色の鍵で開く部屋があった。


「ここは行けるみたいだぞ」


 なんか飽きてきたぞ。もうちょい変化付けてくれよ。

 噴水のある、よくわからない植物の栽培所だ。二階に作るなこんなもん。


「あそこ。植物が守ってる噴水のとこ」


 サファイアが指差す先には、確かに変な植物に守られて、小さな鍵と歯車がある。


「なあサファイア……」


「うん……私もそんな気がしてきた」


 沈黙。しばらくして同時に叫ぶ。


「これめっちゃ長くなるやつだ!!」


 もう飽き始めているというのに、この長さである。

 二時間くらい探索してこれだぞ。


「ここに来るまでにマップあったんだけどさ」


「やめろ言うな考えるな」


「ここ地下あるらしいよ」


 絶望である。かったるいにも程ってもんがあるぞ。


「はあ……どうしよ」


「いっそ俺がやるか?」


「お願いできる?」


「ぶっちゃけ早く終わりたい」


「だよね」


 そんなわけでいっとこうじゃないさ異世界チート。

 やっちゃいましょう面倒だから。


「必殺異世界チート! 超現実RTA! 多分これが一番速いと思います!!」


 両手を上に挙げ、猛スピードで壁に向かって体をこすり続ける。


「急に何やってるの!?」


「こうすると壁の当たり判定が消えます」


「すり抜けたああぁぁ!?」


 見事壁をすり抜け。隣の部屋の青い鍵をゲット。

 そして部屋に戻り、触手の裏側に回って歯車も拾う。


「よっしゃあ移動するぞ!」


 体育座りになり横にぐるぐると回転しながら移動開始。


「動きキモい!?」


「こうするとダッシュよりも少し速く移動できます!!」


「待ってよ! 私それできないんだから!」


「自分を信じろ! お前ならできる! 俺は信じてるぞ!!」


「そんなことで信じられても困るよ!」


「こうして! こうじゃあああ!!」


 流れるような動きで座らせ、一緒に横回転。


「うわわわわ!?」


 無事回転移動を習得した。やはり才能に恵まれてやがるぜ。


「よーしその感覚を忘れるなー!!」


「うぅ……私どんどん変な子に……」


 敵が前方からやってくる。またもや数が多い。


「どうするの?」


「問題ない。あいつらは下段への攻撃手段がないのだ!」


 そのまま高速で回りながら正面突破する。

 やつらの攻撃は虚しく空を切るばかり。


「凄い! これならすぐクリアできる!」


「よし、あの部屋にアイテムがある! いくぞ!」


 本来鍵がなければ通れないが、ドアと壁のちょうど中間に突撃かますとすり抜けられる。

 中には六角クランクが落ちていた。


「次はこれを取ればいいの?」


「違うな。こいつをクリスタルにする」


「どういうこと?」


 ここからさらに俺のチートは加速する。これはもうチートというかバグだ。


「簡単だ。まずクランクに背中を向けて二歩歩く。そしたらクランクに向き直って、アイテム欄の三行目を開ける」


「あいてむらんってなに?」


「ここで持っている鍵を三本とも使い続ける!」


 ひたすら鍵を選択し、なにもない空間へと使用開始。


「一回や二回失敗しても気にしない! この後全部ノーミスならおつりがくるので続行だ! 絶対に再走はしないぜ!!」


「なにやってるの!? これなにやってるのねえ!?」


「こことクリスタルのある部屋のドアは座標が同じなのさ。本来専用の鍵がいるが、一階も二階のドアもここ。さらに緑の鍵で開く。だから座標を合わせてひたすら使う!」


 なにもない空間からガチャリと音がした。

 どうやら解錠に成功したらしい。


「これで鍵が空いた。その前に存在するすべてのイベントフラグが立ったことになり、クリスタルが出現する。そしたらクランクまで歩いていって」


 ここだ。こおに俺の技術と運のすべてを賭ける。


「見せてやるよ、異世界チート裏奥義! サブフレームリセットオオオォォォ!!」


 この状況をセーブし、セーブ中のバーが76%までいったら中断する。


「できた!」


 俺の目の前には、巨大な蒼く光るクリスタルがあった。


「本当に出たー!?」


「これを手に取ると選択肢が出るから『はい』を選ぶ。すると」


 俺たちは一瞬でワープし、くつろいでいるユカリの元へ帰還した。


「ユカリがいる場所へ行ける。多分これが一番速いと思います」


「こんな方法見たことない! やっぱりマサキ様は凄い!」


「あれ? もう帰ってきたんですか?」


「ああ、チャートをちゃーんと守ったからな」


 チャートを守っているのではない。チャートに守られているのだ。


「ではクリスタルは預かります。食べ物は?」


「鍵でも食ってろ。鍵ばっかりで面白味がないんだよ」


「ダメでしたか。では諦めて次の試練『美味しい晩ごはん』に参りましょう!」


「全然諦めてねえだろうが!」


 こいつちょっと自由すぎないか。

 もうちょい責任感とかあるタイプだったような。

 まさか俺と旅をしたから……いやよそう。

 今の俺は着実に試練をこなすのだ。そう自分に言い聞かせた。

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