紅の獅子とサラダチキンを倒せ
サファイアと赤い獅子の鎧が戦うので見守ろう。
武器は杖と細身の剣。剣術も習っていたなそういや。
「フリージングスラッシュ!!」
「ぬるいわ!!」
氷の斬撃を飛ばすも、右腕一本で払われた。
堂々とした立ち姿から、強敵だとはっきりと伝わってくる。
「サウザンド・ライトニングバレット!!」
サファイアの杖から、電撃の弾丸が嵐のように降り注ぐ。
手数で攻める作戦だろう。
「ぬおおおおああああ!!」
気合一発、炎の渦が電撃を消し飛ばし、赤獅子が動く。
「速い!!」
「ヌウン!!」
「うああぁ!?」
横薙ぎの一閃を剣で受けるが、衝撃を殺せずに吹っ飛ぶサファイア。
空中で姿勢を正した時には、背後に赤獅子が迫っている。
「落ちろ!!」
「シャドウリバース!」
サファイアの影が体を覆い、赤獅子のさらに背後へと本体が現れる。
「ホウ……」
「これでどう!!」
影と同時に前後から攻撃を繰り出す。
あいつ結構多彩なんだな。
こんなに戦えるとは思わなかった。
「少しはやるようだな」
だが両手でそれぞれの剣を掴まれてしまう。
生半可な力じゃないんだろう。剣を抜き取ることができないみたいだ。
「う……ぐぐ……」
「くらえ! 赤色獅子咆哮!!」
口の部分が開き、赤い光線がサファイアを襲う。
「うわっととと!?」
大急ぎで剣を放し、空中で回転して軌道を変える。
そのまま腰の杖を手に取り、魔力で自身よりも長い杖とした。
先端に宝石のついた、いかにも豪華で強そうな杖だ。
「本気でいくわ。来て、コキュートス!!」
闘技場が絶対零度を超えた氷の牢獄となる。
杖のアシストもあるだろうが、こいつかなり強い。
「このまま冷えきっちゃいなさい!」
「やりおる!!」
「何やってるのよライオンちゃん! さっさと小娘倒しなさい!」
サラダチキンからの、応援なのか罵倒なのかわからん声が飛ぶ。
こっちも応援とかしてみよう。
「そのままいけサファイア!!」
「死ぬこともできない永遠の氷結地獄。いくら強くても無傷ってことはないでしょう。倒れなさい!」
「がんばれがんばれライオンちゃん! L・O・V・E・ラブリーライオン!」
時間すらも凍ってしまうような寒さの中で、チアリーダー服を着たサラダチキンがポンポンを振り回す。
俺も負ける訳にはいかない。学ランとハチマキをつけ、サファイアの応援を開始する。
「フレー! フレー! サ・ファ・イ・ア!!」
「何よ応援団? そんな前時代的な汗臭さで、ワタシのかわいさに勝てると思ってるわけ!」
「勝てるさ。魂の限り叫べばな!」
応援団のみんなが太鼓を鳴らし、旗を振る。
そして大声で叫ぶのだ。
「負けるな負けるなサファイア! ファイトだ今こそ見せてやれ!!」
「ワタシたちもいくわよ! チアガールの意地を見せてやりましょう! 全員集合! プレーン!」
「ガーリック!」
「ハーブ!」
「イカの塩辛!」
「我らチキンチアガールズ!!」
チキンで構成された四人組か。なんて統率の取れたチアダンスだ。
だが負けるものか。なんとしてもサファイアを応援するのだ。
「サファイアー! フォイトー!」
「L・I・O・N! ラ・イ・オ・ン!!」
「やかましいわ鶏肉!!」
「マサキ様うるさい!!」
怒られてしまい俺もサラダチキンも肩を落とし、応援が止まってしまう。
「氷結収束!」
冷めきった空気の中で、サファイアの杖に収束していく冷気。
「終わりよ。極光冷砕波!!」
「全力でいくぞ! 赤色獅子咆哮!!」
赤と青のビームがぶつかり合い、激しく火花を散らす。
力は完全に拮抗しているのか、押しつ押されつの時間が続く。
「でえええぇりゃあ!!」
ビームを避け、突如として肉薄する赤獅子。
まずい。バランスを崩したサファイアでは避けられない。
「出番だな」
赤獅子の拳が当たる前に、サファイアを掴んで小脇に抱え、その場を離れる。
「マサキ様!」
「まだやれるか?」
「ありがとう。まだいけるわ!!」
適当に離れて着地。さてどうするかね。まだ隠し玉くらいありそうなもんだが。
「逃したか」
「仕方ないわねえもう、合体よライオンちゃん」
合体? こいつらそんな能力があったのか。
ガーリック味のサラダチキンが赤獅子に近寄る。
「覚えておきなさい小娘。ガーリック味の力を!!」
言うが早いか赤獅子はサラダチキンを上から丸かじりし、半分を食った。
「食われたー!?」
「ヌオオオオォォォォ!!」
獣の咆哮がコロシアムに響鳴し、一回り鎧が大きくなった気がした。
「どういうこと?」
「ガーリックパワーで元気になったのよ」
「なるほど。サファイア、やつの口臭に気をつけて戦え」
「注意するとこそこ!?」
スピードもパワーも増した赤獅子の攻撃に、サファイアは防戦一方だ。
いつ怪我してもおかしくない所を紙一重でしのいでいる。
「バーニングバスター!」
サファイアが周囲に張り巡らせた火球から、怒涛のレーザー攻撃が始まる。
「ぐううぅぅ! やりおるわ!!」
どうやら熱を払い、防御しているようだ。効いているのか。
「やっぱり。炎も出せるってだけで、無効化できるわけじゃないのね」
「うまい。敵は図体がでかくなっての力押し。連打を浴びせていけばジリ貧に持ち込めるかもしれん」
「本当に手のかかる子。さあワタシをお食べ!」
そしてハーブサラダチキンが食われる。
それは赤獅子が元よりシャープで細身になる合図であった。
「なるほど。ハーブのリラックス効果で冷静になって、しゅっとしたんだな」
「鎧ってそういうものじゃないでしょ!?」
スピードが格段に上がった赤獅子は、すれ違いざまにサファイアへと斬撃を加えていく。
「くううっ!」
「魔力で体にシールドを張っているわね。とっさの判断力もある。やるわね小娘」
「まだよ……私はまだやれる……アストラエアの運命がかかっているんだから!」
ここにきて目の光が増す。いいガッツだ。
だがかわせない攻撃が増えている。
このままじゃ負けるな。そろそろ俺も動くか。
「助太刀するぜサファイア!」
「マサキ様!」
「させないわよ!」
俺の前にイカの塩辛とプレーンが立ちはだかる。
渾身の力を込め、塩辛を天高く蹴り飛ばした。
「てめえはチキンじゃねえだろうがああああぁぁぁ!!」
「きゃああぁぁぁぁ!?」
「いまさらツッコんだー!?」
そして素早くプレーンをちぎり、今度は赤獅子へ。
闘技場の凍りついている部分を滑り、スケートシューズで接近する。
「お前はさっさと戻りやがれー!」
「ぬぐうう!?」
口に無理やりプレーンをねじ込んでやる。俺の予想が正しければ。
「あぁ! 赤獅子が元に戻った!!」
「やはりな」
予感的中。元に戻った。
「もう変身は使えないぜ」
「まだ負けたわけではない!」
「いいや負けさ。食わせたチキンに毒を塗っておいた」
「外道か!?」
がっくりと膝をつく赤獅子。今がチャンスだ。
「サファイア、ゴー」
「背に腹は代えられないってことね。極光冷砕波!」
「こんな負け方で……納得いくかあああぁぁぁ!!」
全身氷漬けになった赤獅子は、そのままバラバラに砕けて消えた。
「よし、とりあえず第一関門突破だな」
「次はもうちょっとちゃんとした敵がいいわ」
「加工食品はきついぜ」
愚痴をこぼしながら神殿に戻ると、ユカリが椅子で寝ていた。
「寝ちゃってるわね」
「起きろ。戦闘でサファイアが死んでたらどうするつもりだ」
「むう……むふふ……またマサキ様がしいたけに殴られてる……だからカッパに協力してもらえって言ったのに……むにゅ……」
「起きろや!!」
「ひゃわ!? なんですか大声出して!」
椅子から飛び起きてキョロキョロしてやがる。
「寝んなや。試練途中だったんだぞ」
「大怪我したら中止になりますし、即ここに送られて回復魔法かかります」
「それを見届けろ。寝るな。リラックスはほどほどにな」
「ここに戻って来たってことは?」
「はい。無事突破しました!」
「おめでとう。じゃあ次は明日にでも……」
「いいから次にいけ!!」
こいつここまで自堕落じゃなかっただろ。
別の意味で先行き不安だぞ。
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