タコと触手と授業参観

 帝国三騎士最後の将、タコさんを倒しましょう。できるだけ急いで。


「ここにいるのはお前だけだ。兵士は助けたぞ。観念しな!」


「間抜けめ! この下がどうなっているか忘れたのか! とう!」


 テラスから飛び降り、下へと一直線に落下するタコ。

 下は大規模演習場。まだ兵士だっている。


「ああ! タコが兵士たちの中に入っていっちゃう!! どうするのマサキ様!」


「待て、あれは……」


「よく降りてきてくれたな」


 下で剣を構えているヴァリスが見えた。

 どうやら落ちてくる瞬間を狙っていたらしい。


「ギャンゾック流奥義、無限閃光!!」


 ムチのようにしなる光の刃が、タコめがけて無数に襲いかかる。


「なにいぃ!? うごっ!? おああ!!」


 タコの足が何本も細かく刻まれていく。

 凄まじい剣技だ。若手エースというのも納得できる。


「おぉ! よくやってくれたぞヴァリスよ! 連れてきて正解だった!」


「ここで確実に仕留める!!」


「ヴァリス! 足元だ!!」


「なにっ!?」


 触手がヴァリスに足元へ近づいているのを発見。

 それに気づいたのか、上空へと飛び、炎で包まれた剣を振り上げる。


「飛翔紅龍!!」


「ぬぎゃああぁぁ!!」


 縦にまっぷたつにされたタコは、バラバラの触手になり、燃えながら落ちていく。


「平和を脅かす悪は、オレが許さん!!」


「ヒッヒッヒ、甘いねえ坊や」


「これは!?」


 地上の触手が喋りだし、炎に焼かれなかった触手と合体して大きくなる。


「足元に行った時点で本体はこっちだったんだよ! やっちまえてめえら!!」


 地上にいた兵士が次々に攻撃魔法をヴァリスへと撃ち込む。


「ヴァリス!!」


「ぐっ、ああぁぁぁぁ!!」


 空中では避け続けることもできず、味方を攻撃するわけにもイカずに直撃してしまう。


「油断したか……オレでは……勝てないのか……」


 地面に叩きつけられ、鎧もボロボロだ。それでもまだ立ち上がろうとする。

 だが決して傷は浅くないだろう。


「いい線いってたぜ。だがワタシは無敵なんだよ! 実力の差がありすぎたなあ小僧!!」


「この命尽きるまで、自由と平和のために戦う!!」


「いいから死にやがれ!!」


「そうはいかないぜ!!」


 テラスから飛び降り、ヴァリスの前へと着地する。


「マサキ殿……」


「いい戦いだった。俺はお前を尊敬するぜヴァリス」


「ちっ、邪魔しやがって。お前と直接戦うのはごめんだ! 兵士はまだまだいる。こいつらを殺さずに倒せるかな!」


 兵士の中に紛れて逃げようとする。だが甘いのはお前さ。

 俺は既に技を繰り出している。


「しまった!? バラバラになって姿を消すつもりだ! 逃がすなマサキ殿!」


「ふん、同じ手ばかり使いやがって。お前には学習が必要だな」


 そして俺が教壇に立った時、授業開始を告げるチャイムが演習場に鳴り響く。


「なっ、この鐘の音は何だ!!」


「触手は兵士の腹の中だ。つまり兵士は触手の親とも言える。だからこそできる荒業さ」


 綺麗に整列した兵士は、口から触手をすべて吐き出す。

 そして触手であり生徒であるみんなは、用意された学習机に座っていく。


「必殺異世界チート! 触手授業参観!!」


「触手が授業受けてる!? なによこの光景!?」


「これは……これはどういう術だ! いったいマサキ殿は何を始める気なんだ!!」


「はーい、じゃあ授業始めるわよー! 今日の授業は……」


 そこで再びチャイムが鳴る。やれやれ、時間に厳しくあらねばな。


「あらいっけなーい。もう給食の時間じゃない!」


「その口調はどういうことなんだマサキ殿」


「今日の給食はたこ焼きでーす」


「タコの触手なのに!? 共食いだよそれじゃ!!」


「ご両親の皆様もどうぞ!」


 触手と兵士が一斉にたこ焼きを食べ始める。

 半分以上食べた所で手が止まり、触手だけが破裂していく。


「破裂しただと!? あの食べ物には仕掛けがあるのか!」


「触手にはちょいと熱すぎたかな」


「熱……まさかオレが敵を切りつけた時、熱で倒せたのを見て! なんという機転だ!」


「いや、多分マサキ様そこまで考えてないと思うよ」


 触手は爆裂しても、一心不乱に食い続ける兵士たち。

 触手が座っていた席に座り、机から出てくるたこ焼きを食べて笑みをこぼす。


「運動後で腹も減っていただろう。触手が入る隙間もないくらいに食べていいんだぞ。あっつあつのたこ焼きをな!!」


「しまった!? ワタシの入る兵士がいない!!」


「それだけじゃないぜ。今日はみんなに転校生を紹介しまーす!!」


 教室の扉が開かれ、順番に触手がお行儀よく入ってきた。

 当然タコ野郎を形成している触手も含まれている。


「うおおぉぉ!? ワタシの体が、触手が言うことを聞かない!? ワタシから離れるなあああぁぁぁ!!」


「さ、たい焼きをお食べ」


「たこ焼きじゃなくなった!?」


「仕方がない……ワタシだけでも逃げるぞ!!」


 最早数本の触手だけになった小さなタコが逃げていく。


「バカめ。学園ラブコメディから逃げられると思うなよ」


「ラブコメだったのこれ!?」


 必死で逃げるタコ。だがやつは気づいていない。

 曲がり角で食パンをくわえた転校生である俺とぶつかることに。


「こ……ここまで逃げれば追ってこられまい!」


「あーん遅刻遅刻ー!!」


「ゲゲッ!? 貴様どうして! ぶ、ぶつかる!!」


「必殺異世界チート!」


 三つ編みを振り回し、スカートのプリーツをなびかせた俺は、獰猛な闘牛よりも強いショルダータックルをお見舞いする。


「ドキドキ触手ハイスクール第一話は、夕方八時に放送開始ー!!」


「ゴールデンタイムに放送していいタイトルじゃなーい!?」


「こんな……こんなわけのわからんアホにいいいいぃぃぃぃ!!」


「爆殺!!」


 タックルで学校のミサイル貯蔵庫まで飛ばされたタコは、その身が消えるほどの爆発に巻き込まれて死んだ。


「これにて一件落着」


 周囲が学校から戻った時、食事を終えた兵士に意識が戻ってきた。


「あ、あれ……俺は今まで何を……」


「うぅ……頭が痛い……ついでに腹いっぱいだ……」


「どうなってるんだ……誰か説明を……」


 面倒なので上に戻る。こんなもん収集付けられるか。


「終わったぞ」


「おつかれさま~」


「今回もわけわからんかったのう」


「…………いつも彼はああなのかね?」


「そうですわ~」


 ほら王様が引いてるじゃないの。

 初見だとそうなるよね。なんでサファイア親子は笑ってんだろ。

 耐性ついたのかな。


「では王様、エメラルドさん。事後処理はおまかせします。俺はサファイアの護衛がありますので」


「うむ、そうじゃな! 護衛は大切じゃ! さあ早く安全な所に行くのじゃ!!」


 二人して猛ダッシュでその場を離れる。


「ああちょっと、もう~逃げたわね~」


「これは……いったいどう説明すれば。戻ってきてくれマサキ殿ー!!」


 聞こえないフリをしてサファイアの部屋まで逃げるんだ。


「どうじゃ?」


「ダメだこっちは兵士がいる」


「私に任せなさい」


「ヤリイカ校長!?」


 ヤリイカが人くらい大きくなったことで校長になったから、ヤリイカ校長。

 とてもシンプルで覚えやすい。


「校長!? もしかしてさっきの学校の!?」


「そのとおりだよ」


「生徒タコと触手と兵士だったのに……」


「ふふっ、生徒のピンチは見逃せないのね。昔から変わらないイカ」


「ヤリイカ子。職場には来るなって言っただろ」


 同じサイズで赤いリボンをしたイカ登場。

 どうやら奥さんらしい。


「また変なイカ出たー!?」


「そういう台詞はお弁当を忘れなくなってから言ってちょうだい」


 ヤリイカ子の差し出した弁当には、さきイカがぎっしり詰め込まれていた。


「共食いだ!? この学校共食いしすぎでしょ!!」


「ありがとう。それじゃあ二人とも、ここは我々に任せて、あっちの通路から行きなさい」


「ありがとう校長。ほら行くぞサファイア」


「あ、ありがとうございます……」


 そしてイカに指示された通路へと入っていく。

 背後から兵士の声が聞こえてきた。


「敵がいたぞ! みんな来てくれ!」


「くっ、今度はイカの化物か! くらええ!!」


「ぎゃああぁぁぁぁ!?」


「あんたああぁぁぁ!?」


「よし、あっちは心配ないな」


「どう考えても斬られてるよ!?」


 そんなイカ夫婦の命を張った協力もあって、無事サファイアの部屋まで到着した。


「あっぶねえ……なんとか逃げ切れたぜ」


「完全に倒されたよねイカ」


「そりゃ人間の城にイカはだめだろ」


「そこ普通なんだ」


 事態が収集つくまで、なんとなく部屋でダラダラと平和に過ごしたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る