合同演習にて、誠にイカんながら殲滅します

 国同士の会議なんて俺の出番はない。

 最初に軽く挨拶を済ませたら、座って話を聞いているだけ。


「では、周辺諸国合同で帝国への警戒を強め、逆襲の機会を伺い、足並みを揃えていきましょう」


 ギャンゾックという悪の国みたいな名前の国なんで警戒していた。

 だが王様であるクリーガーさんは、おヒゲの素敵ないい人で、会議も滞りなく終わりそうだ。


「実に有意義な会議でした」


 俺はぼーっとしているだけ。王族の会話なんて入れないし、よくわからん。

 国政に無駄に関わってはいけない。

 そんな感じで会議は終わり、ようやく開放された。


「では合同訓練を見学でもいたしましょう」


 兵士の一部を連れてきて、合同で訓練したり、紅白戦のようなことをやるらしい。

 そのために騎士団長も何人か来ているとか。


「さ、行くのじゃ」



 俺に小声でついてこいと言うサファイア。

 どこまで行くのかと思えば、城の中にある大規模演習場だ。

 ここは複数の舞台が暴れ回っても平気な、普段は兵士のみなさんが訓練している場所。


「こんな情勢ですから、万単位で兵を使うわけにはいきませんでしたが、その分精鋭を千ほど。さらに有望な若手を参加させています」


「素晴らしいですわ。こちらも同数にてお相手いたします」


「兵の準備整いました!!」


 アリアと知らない男が二人来た。城で見たことはない。


「紹介しましょう。第五騎士団長ダニー・グレッグと、若手のエース、ヴァリスです」


「お久しぶりです。今回もお手柔らかにお願いします」


 老獪な……といっても三十代くらいに見えるが、白髪の筋肉質なおじさんだ。

 柔らかな笑みにも自信が見て取れる。


「ヴァリスです。よろしくお願いします。平和のため、国の繁栄のため、この命を賭して戦うつもりです」


 こっちは俺と歳が変わらないように見える。

 銀髪で真紅の瞳のイケメン。完全なる美形だ。アイドルでもやればいいのに。


「マサキです。よろしくお願いします」


 お互いに挨拶を交わす。とりあえず失礼のないように気をつけよう。


「ところで、ドグレサ帝国の三騎士を倒したという方はどちらに? ぜひ会ってみたいのですが」


 気をつけようとしたら王様から嫌な提案が。


「それでしたらもうお会いしておりますわ」


「……まさか」


 全員がこちらを見た。初対面の人は全員驚いている。

 そりゃ見た目は普通の男だからな……できればその認識のまま終わりたい。

 ここから変なやつだと思われるのは避けよう。


「はは……どうも……」


「これはなんとも予想外な……」


「事実です。我々はその戦いをこの目で見ています」


「驚いた……まだ若い。ヴァリスと変わらぬものがそんな……」


 この目立ち方は、ボケているときとは違う意味で嫌だな。

 品定めされつつ疑いの目を向けられると、妙に居心地の悪い気分になる。


「失礼。お若いのにとてもお強いのですな」


「私も見習いたい。今の自分は騎士としてあまりにも未熟。よろしければ一度お手合わせ願いたい」


「あー……それはちょっと難しいと言うか」


 どうするべきだこれ。ヴァリスのお願いは、誠実さと強くなりたいという思いから来ている。それくらい俺にもわかる。

 無下にはしたくないが、戦闘が特殊すぎてバカにしていると思われるのも嫌だ。


「マサキ様は秘密兵器です。戦闘方法も特殊すぎるため、情報がないことが最大の強み。どうかご容赦を」


「いえいえ、私の方こそ突然厚かましいお願いでした。非礼をお詫びいたします」


 どこまでも真面目だなヴァリス。これ戦ったらどうなるのか予想つかん。

 すげえ白い目で見られて冷笑されるか、強いんだから褒めてくれるのか。


「すみません。あまり他人に見せられる戦い方でもないんです」


「事情があるのなら踏み入りません。本当にお強いからこそ、サファイア様の護衛を任されているのでしょう」


 ヴァリスからイケメンな返しが。心身ともにイケメンかこの人。


「助かります」


「話はここまで。ダニー、ヴァリス。演習に励みなさい」


「はっ!!」


 こうして上には俺とサファイア。エメラルドさん。クリーガー王と両国の近衛兵数人が残った。


「はじめえええい!!}


「ウオオオォォ!!」


 訓練と聞いたが、その迫力は実践さながら。

 各団長の指示に従い、的確に陣形を変えつつの攻防が繰り広げられる。


「おー……こいつはド迫力だな」


「凄いじゃろ。国の未来も明るいのう」


「圧巻ですな」


 足並みが完璧に揃っている。そのうえで熾烈な戦闘。

 これはいっそ美しさすらあるな。


「精鋭さんだけあって~、とても見ごたえがあるわ~」


「今年は兵も一段と気合が入っている。帝国との戦いが近いと、戦士の勘がささやくのでしょう」


 その中でも隊長格とアリアは別格みたいだ。

 他の兵士が寄ったそばから倒されている。


「アリアって強いんだな」


「グラードがエースだっただけじゃ。本来騎士団でも勝てるのは数人じゃよ」


「そういえばグラード殿は……」


 クリーガー王が残念そうな、こちらを気遣うような表情で聞いてくる。


「帝国に寝返りましたわ~。恥ずかしい話です」


「でもマサキ様が倒してくれたので、ご安心を」


「グラードまでも……いやはや感服いたします」


「いえそんな……」


 これは一見嬉しいが、実はまずい。

 この後戦闘でも見られた日には、大抵がドン引きされる。

 とても強く勇敢な戦士をイメージされてしまうからだ。


「なんか様子が変じゃな」


「ん? ああいや別に俺はまだ何も……」


「おかしいのは兵士じゃ。なんだか統率が取れていないような……」


 言われてみると、なんだか両軍の兵士が撤退している気がする。


「妙ね~。撤退するなら片方は追うか待ち受けるはず。どっちも逃げている気がするわ~」


 中央にいる兵士から逃げている気がする。

 そこには両軍の兵士がいるが。


「仲間割れ?」


「どうなっている! 誰か説明を!!」


「ご安心を、我が君」


 ダニーさんだ。慌てた様子もない。

 ゆっくりとこちらに歩いてくる。


「おおダニー! いったいどうしたのだ?」


「少々不測の事態もありましたが、すべて予定通り。むしろ嬉しい誤算でございます」


「それはどういうことだ?」


「簡単でございます。そうそうマサキ殿。あなたを三騎士討伐の英雄と見込んで、お願いがございます」


「なんですか?」


 こちらへにこやかな笑顔で歩いてくるダニーさん。


「その英雄としての肉体、帝国のために使いな!!」


 ダニーさんの口や服の袖から、大量の赤い触手が俺へ伸びる。


「なっ!?」


「お前もワタシの下僕となれ!!」


 うーわヌメヌメする。男の触手プレイとか需要ないから。

 っていうか俺でやるなや。

 しれっと抜け出し、サファイアとエメラルドさんをかばう。

 王は槍を構えてダニー? を睨みつけている。


「貴様ダニーではないな!!」


「いいやこの体はダニーのもんさ」


「この者を捕らえろ!!」


 近くに控えていた兵が、なぜか俺たちに剣を向ける。

 口から触手出てますよ。嫌ですわね。


「まさか貴様帝国の……」


「ご明察。ワタシはドグレサ帝国三騎士最後の将、触手催眠のコタスデ!」


 案の定敵だよ。どうしてまともに終わらないんだ。

 普通に演習してスッキリ終わろうぜマジで。


「英雄よ、永遠に下僕として使ってやるぞ」


「お前に従うくらいなら、ここで叩き潰してやるよ」


「バカめ! ワタシの触手に絡め取られ、粘液を浴びたものは、なんであろうと支配下に入る!」


「あ……あぁ……俺の、俺の体が……」


 俺の体の色が変わっていく。じわじわと触手の粘液が染み込んでいる。


「マサキ様!!」


「じわじわと触手兵になる気持ちはどうだ?」


「俺の体が……ペットボトルに!!」


 等身大ペットボトルとなった俺は、せめてもの抵抗とばかりに空気を吸い込み発射した。


「ペットボトルロケット発射あああぁぁぁ!!」


「オボゲエエェェェェェ!?」


「よくわからない透明の筒になって突っ込んだああぁぁ!?」


 ダニーの腹に激突し、赤い触手が大量に吐き出された。

 どう見ても人間の体積超えている。ダニーが皮みたいになっちゃったよ。


「なるほどな。触手の集合体だったのか」


「クソ……わけのわからない野郎だ……」


 でっかい赤いタコみたいなやつだ。もう人型ですらないぞ。

 俺はちゃんと人型に戻ったからセーフだ。


「ダニーをどうした!」


「出発の前に変わってもらったよ。さあどうする? 自国の精鋭を殺せるか?」


 ゆらゆらと頼りない足取りでゾンビのように兵士が迫る。


「た……たすけ……て……」


「なんだって!? 俺たちに構わず攻撃してくれ!?」


「言ってないよ! ちゃんと助けてあげてよ!!」


「た……す……け……」


「た、お、せ? わかった! ひとおもいに倒してやるぜ!」


「耳腐ってんのかテメエ!!」


 兵士の思いを無駄にしてはいけない。倒すんだ。


「マサキ殿、できれば兵士を救って欲しい。無理にとは言わんが、どうかご一考願いたい。それとその……さっきのはいったい……」


「こういうのは本体を倒せば終わるって決まっているのさ」


 困惑している王様はスルー。説明しようがないからね。


「無駄無駄!! 兵士はお前らを襲い続ける。精鋭どもの攻撃にいつまで耐えられるかな?」


「確かに全員分のペットボトルはない!」


「そこにこだわらなくていいでしょ!」


 だが作戦はゼロじゃない。少々荒っぽくなるがな。


「人間ってのは脆くて愚かだねえ。タコのように柔軟な体と発想こそが新世代のトレンドよ!!」


「それもどうなの!?」


「ならば教えてやる。タコにも天敵がいるってことをな」


「兵士よ、まずはマサキを殺せ!!」


 これでいい。兵士がすべて俺に来てくれることが理想だ。

 射程距離に入ったことを確認し、口と袖からホタルイカの大群を撃ち出す。


「なんか出てきた!?」


「あれはちょっと気持ち悪いわね~」


 イカの大群は兵士の口の中へと入っていき、タコの触手を引きずり出した。


「ワタシの触手がイカに負けただと!?」


「イカはタコより足が多い。そしてホタルイカの光は幻想的なラビリンスへと誘う悠久の調べ」


「よくわかんないこと言い出した!?」


「褒めてやるぞマサキ。だが忘れるな。兵士はここにいる連中だけではない。ワタシの触手がタコを好み、タコとともに生きる道を模索する求道者へと至るファンタジックな導きを提供する夢のリラックス空間を形成します」


「こっちも変なこと言ってる!?」


 タコが床に落ちている触手を取り込んで体積を増していく。


「なるほど。全滅させないと復元できるのか」


「ワタシは無敵だ! 三騎士最強なんだよ!」


「所詮三人の中で最強というだけだ。俺の秘策を披露しよう」


 さっさと気味の悪い触手野郎を倒してしまおう。

 俺の精神衛生上よろしくないんでな。

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