お別れと王家の試練
俺たちの居場所を察知したエメラルドさんに見つかり、王様や騎士団長が揃っている食堂に連れて行かれた。
ちくしょう逃げ切れなかったか。
「マサキくんとサファイアを連れてきたわ~」
「おぉ無事だったか。急にいなくなるから心配したぞ」
アリアが露骨にほっとしている。姫がいなくなるのはまずかったか。
「すみませんサファイアを避難させるべきだと思ったので」
「うむ、マサキ様はよくやってくれたのじゃ」
そういう口裏合わせでございます。俺は護衛だからね。言い訳効くといいな。
「そうですか。何やらイカの化け物が出たと騒ぎにもなっておりましてな。心配しておりましたぞ」
完全にヤリイカ夫婦だ。うむ、聞かなかったことにしよう。
「疲れたでしょう~。ご飯でも食べながらお話しましょうね~」
メイドさんが料理を運んできてくれる。
サラダとよくわからない肉料理とパンだ。
「こちらサイドメニューのイカリングです」
「完全にあの夫婦だ!?」
「どうしたのサファイア」
「い、いえなんでも」
リングがでっけえ。これは確定だな。
小声でサファイアが聞いてくる。
「これ食べて大丈夫なの?」
「今までも俺のボケで出たものを食ったことがあるが、特に体調を崩したことはない」
おそらく今回も問題ないはず。単純にイカだし。
不思議生物ではないのでセーフだと思う。
「食べながら何が起こったのか説明しましょう~」
「どこまで話しました?」
「ヴァリスの戦いまでです」
「お恥ずかしい。あのような軟体生物にすら勝てませんでした」
ヴァリスがすげえ落ち込んでいる。
ずっとテーブルを見ながら目を伏せたり彷徨わせたり。
食も進んでいない。
「気にしないでください。俺が言うのもなんですが、あのアシストがあったからこそ作り出せた状況でした」
「マサキ殿……ありがとうございます!」
負けたからってそこまで落ち込んだりする必要もないだろう。
フォローしたら、周囲もヴァリスを励ましている。
根本的に自国から好かれているのだろう。
「話がそれましたが、確かその後はマサキ殿が触手の教師をし、女子学生の格好で突撃して倒したはずでしたな」
クリーガー王の言葉に場の空気が静まり返る。
勇気あるギャンゾックの騎士団長さんが、恐る恐る声を発した。
「我が君、お疲れでしたらもうお休みになられては……」
「疲れてなどおらぬ。いや本当だ! 本当に触手が授業参観をして、女学生の格好をしたマサキ殿が倒したのだ!」
「申し訳ございません。クリーガー様はお疲れのご様子。会議はまた後日……」
「違うんだ! マサキ殿! なぜ目をそらす!?」
ここで肯定すると、俺が女装野郎みたいじゃないか。
「そうですね、俺がそんな感じで倒しました」
だからといって王様を貶めるのもまずい。
ほら気まずい空気だよ。こうなるから人に見られてはいけないのだ。
どうしたもんかと水面下で探り合いが始まっっている。
「俺は秘密兵器で、戦闘を人に見せちゃいけないというのはそういう意味なんです」
「独特ですものね~」
「凄絶にして苛烈。あんな戦法はどんな教本にも載っていませんでした」
そら載らないよ。それ戦術書として売ったらクレーム来るって。
「失礼を承知でその……」
「信じられなくて当然です。そういうスタイルだとだけ認識すれば十分かと」
精一杯のフォロー入れとこう。
気まずくてイカリングの味もわかりゃしない。
結構油が少ないなーくらいだ。
「では今回の負傷を回復次第、帝国包囲網を敷きましょう」
ここから会議になるので黙って飯を食う。
軍師とかいるんだから、そっちに任せとけばいいんだよ。
「帝国の技術は確実に葬る必要があります。そうでなければ他国が……」
ようやくゆっくり飯が食える。やはりいい肉使ってんなあ。
こうして食っていられるだけでも、ここに留まる価値はあるよ。
「では帝国への牽制と、緊密な……」
ドグレサ帝国はアストラエアとギャンゾックの両国に面しているらしく、波状攻撃もかけられるらしい。
敵国は海を背にし、こちらは三国で囲む。
海の向こうの国が逃亡を許さないという計画らしい。
「では明日にでも帰国します。あちらでは開戦の準備が進められているはず」
「こちらも急ぎますわ~。一刻も早く帝国の圧政から民を救いましょう~」
そんなこんなで飯食って、一晩寝たらもう朝。
案外疲れていたのか、かなり熟睡できた。
そしてギャンゾックの人々とお別れの時が来た。
「マサキ殿、重ね重ね助けていただきありがとうございました。自分はまだまだ未熟であると痛感しました」
「いえいえ、俺も未熟。そこまで気にしなくていいですよ」
城門前で挨拶を交わす。こいつ終始イケメンだったな。
「次に会う日はもっともっと強くなっています。恥をかかないくらいの強さになったオレをお見せすると約束します」
「俺ももっと強くなっておく。お互い大怪我しないようにな。あと俺はマサキでいい。そんなに歳も離れちゃいないだろ。普通に話してくれ」
「ならオレのこともヴァリスと呼んでくれていい」
握手して笑顔で別れる。もう落ち込んでもいないようだ。
「うむ、若いうちは切磋琢磨するものよ。ヴァリスは強すぎて気後れする者が多い。同年代の目標ができてよかったな」
「はいっ!!」
「またなヴァリス!」
「ああ、必ずまた会おうマサキ!!」
この世界に来てから一番の綺麗なお別れだ。
よし、あいつらが死なないためにも、少し本気で頑張るとするか。
「やる気が出たようね~」
「ええ、なんとかやってみようと思います」
全員が体を休め、次の戦いに備えるために帰っていく。
また会う日まで、死ぬんじゃないぞ。
「ならこれから、サファイアに杖と王冠の継承を行おうかしら~」
「継承?」
「お母様!?」
「わたしは敵国に捕まった……それはなかったことになったけど~もうサファイアがトップでいいと思うのよ~」
よく話が飲み込めない。なんかパワーアップイベントでもあるのか。
「昔から、それこそ100年以上前から王家が管理する神殿があって~。そこに歴代王家全員が付けた王冠と杖があるのよ~」
「試練を突破して持ち帰れば、国の繁栄が約束されるの。随分前にお母様が神殿に戻したのよ」
なんでもエメラルドさんはもう継承資格がないとのこと。
サファイアに任せるしかないんだってさ。
「騎士団長でもついていけばクリアできないんですか?」
「ちょっと難しいわね~。心が通っていない人は弾かれちゃうの~。だから信頼している人じゃないとダメよ~」
「信頼ねえ……されてんのかわかりませんが」
好き勝手暴れているだけだしな。
気を許しちゃくれているんだろうが、正直異性の気持ちなんてわからん。
十代でそんなもんわかるやつは異常だと思う。
「大丈夫よ。すっごく楽しそうだもの~。英雄ならお姫様のお友達でもいいものね~」
「お母様……」
「いってらっしゃい。サファイア」
「……いってきます!」
何か決意したようで、装備を整えて行くことになった。
そして城壁にそって歩き、しばらくして豪華な白い神殿へ。
遺跡じゃないな。改装しているのか、外観が貴族の城兼豪邸みたいな。
「ここよ」
「随分と綺麗だな。もっと古い遺跡をイメージしてたんだが」
「神様が改装させてるんだって」
「なんだそりゃ」
本当に神ってやつの思考はわからんな。
ユカリもそうだし、神を名乗る敵は悪いやつだった。
どいつもこいつも自由でなあ……俺が言えたことでもないか。
「王家を守護する神よ、サファイア・アストラエアの名において、解錠を求めます」
『よくぞ来ました、アストラエアを継ぐものよ』
神殿の内部から声が聞こえた。女の声だ。どこかで聞いた気がするな。
『試練を受ける覚悟があるのなら、目の前の扉を開け、戦いへと身を投じなさい。あなたを信じ、心を通わせた者のみ、それもたったひとりだけ同行を許します』
「わかりました。行きましょうマサキ様!」
腰の剣に手をかけ、いつでも戦えるよう気を引き締めるサファイア。
なんとか協力して、王家の秘宝とやらを手に入れてやろう。
「わかった。気を抜くなよ」
『ではサファイア・アストラエアに……え、マサキ様?』
声のトーンが軽くなった。ちょっと待てこいつまさか。
『あのー……マサキ様ってまさか』
「お前ユカリか?」
『えええぇぇぇ!? なんでマサキ様がいるんですか!?』
やっぱりだ。こいつユカリかよ。
無数にある異世界ピンポイントで再開とかどんな確率だよ。
「偶然だよ。剣と魔法のファンタジーがいいなーって思ったらここに来た」
『しまった……移動の波長が似るのかも。いやこれは性質上の……?』
「マサキ様と女神様は知り合いなの?」
「前に一緒に冒険した」
知り合いサービスで試練も突破させてもらえんかねこれ。
『と、とりあえず入ってください。試練はちゃんとやりますからね!』
そううまいこといかないか。
まあいい。中で詳しい事情でも聞いてみよう。
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