俺を探さないでください サイも探さないでください

 いろいろあったけど、無事に歩いて大きな城下町までやってきた。

 関所はポケットに通行手形があった。

 こういう面倒事を省いてくれるわけだ。ナイス女神。


「いらっしゃい、何にします?」


「ううむ……」


 今は城下町のパン屋で食事を決めている。

 悩むなこれ。そもそもメニューから想像できん。


「おすすめあります?」


「もうすぐピザが焼けますよ。焼きたてです」


 チーズと肉の乗ったやつだ。赤いソースはなんだろう。


「それじゃあそれを……」


「まるごとでもピース別でもいけますよ」


「4ピースで。飲み物はこのクレウ茶? でお願いします」


「まいどあり。テーブルに運びますから、お茶飲んで待っててくださいな」


 クレウ茶はおすすめと書いてあったので頼んだ。

 カウンター席に座り、ガラス張りの室内から外の広場を眺める。

 今日は暖かくていい日だ。お茶も美味い。


「いけるな」


 渋さの少ない烏龍茶みたいな感じ。冷たくて気分がスッキリするいい香り。

 店内はほどほどに人がいるが、明るくて清潔感あって好感触。


「これだ……こういう日常だよ」


 俺の求めた異世界のんびり旅とはこういう感じだ。


「はいお待たせしました。ごゆっくり」


「どうも」


 あっつあつのピザ来たぜ。

 なんていい匂いだ。早速一口食ってみる。


「おおおぉ……」


 うまい。柔らかく大きめの肉。とろけているチーズ。

 赤いソースはしいて言えばデミグラスに近いか。

 トマトっぽい色なのにぜんぜん違う。なのに合う。

 ほんのりすっぱいけど、全体を引き締めている。


「お気に召しましたか?」


「ええ、この肉、こっちじゃメジャーな生き物なんですか?」


「そいつはですね……」


 毛の濃いでかい牛みたいなもんらしい。

 味が濃い目だが、ピザ生地のおかげでがっつけるバランスだ。


「気に入りましたか?」


「いい感じです」


 そんな素敵な昼食を嗜んでいると、何やら広場に鎧着た連中が現れた。


「トラブルでもあったかね? 店の近くじゃ困るなあ」


 店主も気になっているようだ。

 何か配っているようだが、ここからじゃよく見えんな。

 外の声がここまで聞こえてきた。


「静粛に! 我々はこの男を探している! 見つけ出した者には報奨金を出す!」


 どうやら男の似顔絵とか特徴を書いた紙らしい。


「男は罪人ではない! 手荒な真似はするな! 情報提供だけでもいい!!」


「仮の名だが、トウフというものを駆使していたことから、トウフの君と名付ける!! 我が国の恩人である!!」


 やっべえええええええぇぇぇ。

 どうすんだよこれ。見つかったら何されるんだよ俺。


「トウフねえ……聞いたこと無いなあ。お客さん知ってます?」


「い、いや全然。初めて聞きましたよ」


 どうする? どうするのが正解だ?

 落ち着け。似顔絵は俺に似ているかと問われれば微妙だ。

 しらばっくれることもできる。


「お茶のおかわりは1回だけ無料です」


「お願いします」


 喉を潤す。冷たさで少し落ち着いたぜ。

 とりあえず完食したらここを離れよう。

 代金は最初に払ってある。


「姫によればトウフというものを使う! それ以外は普通! 凄く普通だけど、トウフらしい! つまり特徴はトウフだけの普通の人だ!」


「なんでそこ繰り返すんだよ!?」


 いや普通ですよ。普通の人間ですとも。

 ていうか姫どんな伝え方したのこれ。


「いいか! 決して手荒な真似をするな! 危害を加えし者は厳罰に処す!! 姫の命を救った英雄である!!」


「英雄さんかー。偉いお人がいたもんですな」


「いやはやまったく。凄いですね」


 よし完食。あいつらがいなくなるのを見計らって外に出よう。


「あの、ここから別の大きな街ってどれくらいかかります?」


「そうですねえ……歩きだと丸一日歩き通しですね。馬車なら半日。列車なら数時間でしょう」


 列車あるのか。ならそっちでもいいなあ。

 前の異世界救った関係から金はある。

 これからどの世界に行こうとも、自動でその世界の金に交換される仕組みだ。


『緊急警報! A地区周辺住民はただちに避難してください!』


「なんだ?」


「いけません、A地区といえば、馬車などの移動手段が豊富に用意されている場所です」


「そんなピンポイントで!?」


 まずい。そこが破壊でもされたら城下町から抜け出せない。


『A地区外壁にて敵国の集団を確認。結界の外に出ないようお願いいします』


「まずいな。A地区ってどっちかわかります?」


「ああ、それなら地図がありますよ」


 仕方がない。A地区の敵を壊滅させて、馬車で遠くに行こう。

 店を出て、そーっと向かってみる。


「フハハハハ!! グラードを始末した野郎はどこだ!! 出てこい!」


 よくわからんモヒカンのサイみたいな獣人? っぽいのが叫んでいる。

 この世界の種族がわからん。


「馬車の破壊完了しました!!」


「よし! 逃さねえためにも次は列車だ!」


「アイサー!!」


 モヒカンの部下によって馬車が壊され、騎士団っぽいのがサイに倒されていく。

 俺の移動手段が……許せん。どうして素直に異世界漫遊記をスタートさせてくれんのだ。


「これ以上……」


「ん? 何だお前は?」


 すっとサイ野郎に近づき、ミカンを両目に叩きつけてやる。


「話をややこしくするんじゃねえボケがああぁぁ!!」


「ぎゃあああぁぁぁぁ!? 目が!? しみる! なんかすごいしみるううぅぅぅぅ!!」


 潰れたミカンの汁でのたうち回るサイ。少しだけ気分が晴れたぜ。


「貴様! サイファー様に何をする!?」


「今のはどう見ても事故だろ」


「嘘つけクソ野郎が!!」


 こいつサイファーっていうのか。サイだからかな。


「聞け、これには事情がある」


「知るか! 我々に喧嘩売っといてただで帰れると思うなよ!」


 部下っぽいのが十人ほどいる。こいつらは人間っぽい。

 軽装で、それぞれ剣や槍などの武器を持っている。


「我々に牙を剥くとは生意気なガキだ」


「俺は謙虚さにおいて右に出るものなしと言われた男だ」


「嘘つけ! お前嘘ばっかりだな!」


「嘘ではない。そんな謙虚である俺でも、馬車を壊され、移動手段を失い、正直困り果てた。そこにお前たちがいた。だから……」


 そう、原因はこいつらにある。ならば答えは簡単だ。


「いっそのことお前たちに勝っちゃおうと思って」


「クソ生意気だこいつー!?」


「ぼさっとしてんじゃねえ! オレ様に恥をかかせたたんだ! ぶっ殺せ!!」


「アイサー!!」


 だがそこに俺の姿はない。こいつらの行動すべてが遅いのだ。


「はい今消えたやつ行き~。気になるあいつ行きのバスが停車いたします」


 俺が運転するバスが敵の前に停車。

 行き先は俺自身の似顔絵が書かれている。


「おっといけねえ、早く乗れお前ら!」


「よっしゃ! ラッキーだぜ!!」


 続々とバスに乗り込む敵ども。愚かなやつらだ。


「次の停車駅は未定。未定でございます」


「未定!?」


 時速500キロで爆走する。

 車内は洗濯機の中みたいにぐっちゃぐちゃにかき回されていく。


「うおおおおぉぉぉぉ!! なにやってんだてめえええええぇぇ!」


「大変ですお客様! 時速500キロ以下になると、座席の爆弾が爆発します!!」


「なにいいいいぃぃぃ!?」


「脱出」


 運転席だけが上に発射され、操縦者がいなくなったバスは壁に激突して大爆発を起こす。


「ぎゃああああぁぁぁぁ!?」


「生まれ変わったら安全運転を心がけな」


 盛大に爆発し、衝撃と煙で周囲が満たされる。


「ガアアアアアァァァ!!」


 煙を吹き飛ばし、焼け焦げたサイだけが出てきた。頑丈なやつだぜ。


「よくもやってくれたなクソガキ!!」


「ほう、今の爆発に耐えるとは。ただものではないな」


「オレ様を誰だと思ってやがる! ドグレサ帝国三騎士筆頭、激烈のサイファー様だぜ!!」


「同じく六騎士筆頭、アルティメットカイザーダークネスだ」


 俺は黒く流線型のフォルムと、血管のように流れる赤い模様のロボットへと変わる。


「急にかっこよくなったああぁぁ!?」


 そのシャープかつ近未来的で、今の時代でも通用するデザインは見事としか言いようがない。


「どうだ、お前は三騎士。俺は六騎士。お前の倍強いということになるな」


「ちっ、確かに……いやそうか? んん? なんかちがくね?」


「問答無用!! ダークネスビイイィイィム!!」」


 暗黒の力をフルに使ったビームを胸から撃ち出す。

 焦げたサイがさらに焼かれていく。


「オレ様を……なめんなあああぁぁぁ!!」


 突進し、その大きなツノで俺を突き刺した。

 だが俺の本体は既に脱出完了。流しそうめんの真っ最中だ。


「やっぱり夏は流しそうめんに限るぜ」


 夏の風物詩だけある。ピザ食った後なのに、するりと腹に入っていくぜ。


「なんか食っとるうううぅぅ!?」


「おっ、赤い麺来たぜ」


「知るかあああああ!!」


 赤い麺を食す。それはお決まりの勝ちパターンだ。


「赤は情熱。燃えたぎる炎の色さ」


「それがどうしたあ!!」


 またツノに腹を貫かれるが、その前に全身が炎へと変わっている。


「なっ、なんだてめえ!? 人間じゃねえのか!?」


「今の俺は炎そのものだ」


 全身を炎へと変換し、物理攻撃を無効化した。

 よい子は危険だから、赤いそうめんは食べるなよ。


「必殺異世界チート!」


「う、動けねえ!? やめろ! やめろおおぉぉぉ!!」


 炎が巻き付き、サイの体の自由を奪う。

 火力全開。暑い夏の日々と、燃えたぎる男女の恋心を乗せて贈ります。


「そうめんの運ぶ熱い夏!!」


 雲を貫くほどの火柱が上がり、今度こそサイを完全燃焼させる。


「オレ様が……このオレ様がああぁぁぁぁぁ!?」


 後に残るは流しそうめんセットのみ。諸行無常である。


「食後の運動もしたし、列車を探すか」


 さっさとこの街を離れよう。ほとぼりが冷めたらピザ食いにくるからな。

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