第4話
で、彼の本当の目的というのが、一緒にディズニーランドに行きましょうと言うのだ。
「僕、彼女いないよ」
「知ってます。だから品川さんも誘って四人で行きましょう」
Wデートじゃないか。
やばい、どうしよう。
一応僕が一番年上なわけだし、リードしなきゃいけないだろうし。
だからってデートの経験はないし、いきなりディズニーランドはハードル高すぎ。
モタついたら、カッコ悪いし。
「そうそう、先輩、私、年パス持ってるから、安心して」
瀬川は僕の心を見透かしているようだった。
「ちゃんと案内するから、何の心配もいらないよ」
ナイス!ナイスだ、瀬川さん。
さすが、敏腕マネージャー。
僕はコーディネーターに任せっきりで、夢の国を満喫した。
正確にはずっと心配でかっこ悪いとこ見せられないと、気をはっていた。
そのせいか、瑠香と一緒なのに疲れしか残らなかった。
そんな一年の夏休みに練習を見てくれないかと松田コーチから誘われた。
断れる理由はない。ずっと瑠香の記録のことが気になっていた。
そして夏合宿。
「陸上のことはしばし忘れて楽しんでね」
松田はそう言って、部員を送り出した。
星空の下で二人っきりで放置されたり、お化け屋敷に二人でペア組まされたり。
暗闇の中、腕に抱きついてきた時はドキドキが止まらなくて、お化けどころじゃなかった。
何の合宿だよ。
食事がすむと、みんなは温泉卓球で盛り上がる。
僕は一人外に出た。
そして10キロのランニングを始めた。
ルーティンだ。
途中、僕の肩を誰かが叩く、
「お化け…」
恐る恐る振り返ると瑠香。
「一緒に走りましょ」
これはもしかしてマラソンデートではないか。
翌朝、早めに起きて走っていると、また瑠香にあった。
「やっぱこれだけはやんないとね」
そしてそれは合宿中の日課になった。
どうしてビキニがないんだよ。夏合宿と言えばビキニだろ。
帰るころには2泊3日の合宿に陸上の練習がないことが気にもならなくなっていた。
合宿から帰ると、続いて花火大会。
急に瑠香と二人っきり。
あいつら…と心の中でガッツポーズをしていた。
しかしどこまでダメなんだ。恋愛初心者。
ボルトの話をずっとしてしまった。
陸上バカのアホ。
それでも花火はきれいで瑠香の浴衣姿を見れたことは最高の夏の思い出になった。
結局進展はないまま夏も終わろうとしていた。
そして瑠香たちは夏休み最後の大会を迎えようとしていた。
瑠香は例によって僕にレースを挑んできた。
これでも練習は欠かしたことはないんだ。
負けるわけにはいかない。
「この前みたいにはいかないよ」
僕は瑠香に追い付けなかった。
そしてゴール。
負けた。ついに負けてしまった。
瑠香は笑顔でこちらを振り返った。
そして僕は瑠香を思わず抱きしめた。
何の躊躇いもなかった。
ただ僕を追い抜いた瑠香を祝福したかった。
ふと我に戻ると、急に恥ずかしくなった。
瑠香が先に僕を押しのけた。
しばしの沈黙、「やったな」
「ついに勝ったよ、」瑠香は笑った。
そして陸上大会。
「なんだ、お前も出るのか?」
高校時代の友達だ。
「ああ」
「お前がレギュラーなんて」
「ビリになっても許される学校なんだろう」
「そうだね」
僕は予選で彼と当たる。
高校時代は勝てる気がしないほど、いつも彼の背中を見続けた。
ただスタートした時に分かった。
今は彼の背中が見えない。
なぜなら、僕が先頭を走ってるからだ。
そしてそのままゴールした。
彼は放心状態になっていた。
高校時代では考えられない。
「僕が2番なんて。
やつが最下位じゃないのか」
準決勝。もう一度彼と戦うことになった。
そしてかつての同級生たちがさらに二人。
僕は3位。
しかし1位と2位はみんな上級生。
つまり決勝に進んだのは僕だけだった。
「あんな無名の大学に負けるなんて」
どういうことだ。高校の監督宮崎は思った。
うちの生徒…。覚えてない。
彼は元々才能があったに違いない。
それを伸ばしてやることができなかったのは、俺のせいだ。
瑠香の番が回ってきた。
記録だけで考えると、決勝進出は間違いない。
「先輩、二人で決勝進出だね」
「瑠香、あとは優勝だけだな」
「先輩、もし一番になったらお願いきいて」
「オッケー」
僕は決勝7位。
瑠香の走りを見るためにトラックを走った。
瑠香が走ってる。
僕に向かって走ってくる。
そして瑠香は一番で駆け抜けた。
そのまま瑠香は一番の旗をもって、僕のもとへ駆け寄った。
「約束は果たしたよ」
僕は瑠香を抱きしめた。
「よくやった」
「出ました、大会記録。日本記録にはあともう少しでしたね」
「やったな。ほんと嬉しいよ」
「私も嬉しい。先輩の願いを叶えられて」
「恋する力を得た勇者は夢を叶えました」
コーチの松田は小声でそう言った。
「なあ、あれホントに落ちこぼれの荒川かよ」
「いいコーチがいるのかもな」
僕は高校の監督宮崎に握手を求められた。
「ご無沙汰してます」
「すごいじゃないか」
「監督が許してくれたからですよ、瑠香のコーチをすることを」
「えっ?」
「有難うございます」
こんな才能のあるランナーがいたなんて。
思い出した、いつも雑務をしてた男子だ。
指導方法に間違いがあったんだろうか。
「彼は落ちこぼれたちの希望の星かもしれないな」
「かもしれませんね」松田は笑った。
「もしかしたら大化けするかもしれんな」
「ええ。彼は恋をして本当に強くなりました」
「ロマンチストだな、君は」
「本当のことですよ。彼を復活させたのはうちの瑠香なんですから」
「見る目があるね。君だろ、彼に指導を任せたのは」
「いえ、彼はみんなが帰った後いつも走り込み、朝も早く来て走り込んでたんですよ。ただそれだけのことです」
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