第27話 27話
「皆さんに、一つお願いがあります」
「何だ姉さん」
ナナの奴、俺の話は一度も素直に聞いたことがないくせに。
「このお城は、古の時、魔王と女神が暮らしていたと言われる伝説のお城です。なるべく壊さないようにお願いします」
フミさんはあえて、なるべくと言った。この4人がまったく城を破壊しないことは無理だとわかっているのだ。
「それだけじゃないよ」
魔王ズセブンの一人、リターシャが空間移動で姿を現す。内部から出る空間移動はできるようだ。きっと、イナホか誰か、他の魔王ズセブンの魔法によって送られて来たのだろう。リターシャはどうみても、魔法が使えるタイプではない。
「どうせお前たちはここを生きて出られないんだ。いいことを教えてやろう。この城の王座の間には、世界を支配する絶対的な力を手に入れられる宝が隠されているのだ。だから、私は日本語を覚え、ここへ潜入する機会を窺っていたのだ。私がその力を手に入れるつもりだったのが、今となっては魔王様にその力を得ていただき、さらに強大な支配者となっていただくのだ。魔王様は強いぞ! 特に心が強い! 私たちとはレベルが違うのよ!」
リターシャは長々とそう喋った。
ミキが今すぐにでも闘いたくてウズウズしていたので、よけいにそう感じた。
「お喋りはもう終わったわね。行くわよ!」
もう待てないと、ミキがリターシャに向かって駆け出す。
「うぉーーー!!」
「なんのこれしき!」
ミキとリターシャが、手四つで力比べをする。
あまりの力と力のぶつかりで、ボコッと地面が大きく凹む。
「よし、ここはミキに任せて先に進もう」
と俺が言うと、
「何言っているんだタクマ! こんなおもしろい闘いを見ないなどありえない!」
「そうですよタクマさん、せっかくだから観戦しましょう」
「タクマさん、どこか売店があったら、お菓子でも買って来てくれませんかしら」
と否定される。
「あなた、魔王は逃げません。慌てないで行きましょう」
フミさんも、俺の顔を見ないでそう言って、ミキとリターシャの闘いに見入っていた。
「だってミキさん、今が一番、輝いてみえますから」
フミさんはそう付け加えた。
しょうがない、売店でも探しにいくか。って、こんなところにあるわけないだろ!
って思っていたら、よく見ると数十m先に屋台が出ていた。
空間移動は使えないので、俺は屋台まで走って行き、売られていた焼きりんごを、6個買った。ミキに分も買っておかないと、あとで怒られそうだ。
温かいうちに食べてほしかったので、フミさんたちのもとにまた走って戻る。
ミキとリターシャの力比べは続いていて、先ほどよりも地面の凹みが大きくなっていた。
「はい、焼きリンゴ買って来たよ」
「おお、タクマ、やればできるじゃないか」
「これはおいしそうですわね」
ナナとサキさんが喜んでくれる。
「ちょっと待って! その焼きリンゴ食べちゃダメよ!」
エミさんが俺が買って来た焼きリンゴを手に取り、匂いを嗅ぐ。
「やっぱり……、体を麻痺させる毒草の香りが微かにするわ」
エミさんがそう言うと、ナナとサキさんが手にしていた焼きリンゴを慌てて捨てる。
「危ない、タクマにやられるところだった」
「タクマさんには用心することにしましょう。エミさん、助かりましたわ」
ちょっと待て、俺は買って来ただけで、毒を仕込んだのはあの売店のじじい……。あれっ、そういえば、あの売店のじじい、どっかで見たような……。
「フフフフフッ、フハハハハハッ。我の毒草に気付くとは、さすが魔悪人エミ。相手にとって不足はない。我が相手をしてやろう!」
サングラスをかけて焼きリンゴ売りに変装していたヒダマリが、観戦中の俺たちの前までやって来て正体を明かす。
「ちょっと待て、ヒダマリ! ミキとリターシャは個人的因縁があったから対決することはわかるが、毒草に気づいただけでなぜエミさんがお前と闘わないといけないんだ!」
俺が尋ねると、
「タイプだからだ!」
とヒダマリは言い切った。
あまりの開き直りっぷりに、なんだかちょっと、男としてかっこいいと思ってしまった。
「さあ、かかってくるがいい。魔悪人エミ!」
「じじい、邪魔だ」
ナナが虹色の剣を抜いて、剣先をヒダマリに向けると、
「レッドボム!」
と言って、爆破する技を繰り出し、ヒダマリを一撃で吹っ飛ばす。
「まったくマナーを知らないジジイは困る」
ナナは何事もなかったかのように観戦に戻る。
ああ、ヒダマリ……さぞかし無念だっただろう。同じ男として痛いほどわかるぞ。やられるなら、せめて自分のタイプのエミさんにやられたかったよな。でも、そのエミさんは観戦に夢中で、お前がやられたことさえ気付いていないぞ。
なんだか悲しい気持ちになってしまったので、俺も観戦に戻って気分転換しよう。
ミキとリターシャの力は拮抗していたが、
「フッ、力も胸も成長していないようだな」
リターシャが禁句を口にしてしまう。リターシャのおっぱいは明らかにミキより大きかった。
「なんですって……ちゃんと成長しているっつーの!」
ミキが一気に押し込み、リターシャが膝をつく。
そして、ミキは手を離すと、リターシャの胸倉と腕を掴み、
「うぉーーー、地球の果てまで飛んで行けーーーー!!」
と黄金の城に向かって思いきり投げ飛ばす。
バコンッ! 猛烈な力で投げられたリターシャが黄金の城の壁を突き破ったようで、さっそく歴史的建造物の一部が破壊されてしまう。
「ざまあみろ! アハハハハッ! アーハハハハッ!」
ミキは勝利に満足していて、まるで気にしていない。
「ナナさん、エミさん、サキさん、なるべく壊さないでくださいね」
フミさんがあらためて注意する。
「姉さん、ちゃんとわかっているって」
ナナは軽く返事をする。
俺はナナがちゃんとわかっていないことをわかっている。フミさん、申し訳ない。どうやら、この黄金の城、半壊は覚悟した方がいいかもしれないです。
「あなた、そうならないようにカバーしましょう」
フミさんは俺の心を見て、優しく言ってくれる。
すると、黄金の城の内部から爆発が起こり、完全に倒壊してしまう。
「い、いったい何が……」
俺は突然のことに驚いていたが、
「いただき!」
と言って、サキさんは飛んで来る黄金を、次々にキャッチしていた。
エミさんも分身の術を使って、黄金を集めていた。
「最高! これは正に金メダルね!」
と言って、ミキも飛んで来た黄金を拾っている。
「グリーンプラント!」
ナナは虹色の剣から蔦を出して、黄金をかき集めていた。
そして、フミさんは魔法を使って、誰よりも多く飛んで来た黄金を集めていた。
「子供の教育のためにも資産は大事ですからね。これはこれで、良しとしましょう」
俺が女たちのちゃっかりさに感心していると、
「何を試しても、世界を支配する絶対的な力が得られないので、魔王様が癇癪を起されたのです」
と空間移動で逃げ出して来たイナホが教えてくれた。
「あっ、イナホさん、この前の約束はどうなるのですか? 一応、ナナとエミさんを連れて行ったじゃないですか? 約束成立ですよね? こんどイナホさんを好きなように……」
ボキッ、ボキッ、と指の骨を折る音が聞こえる。
「あなた……」
カキッと首の骨を鳴らす音もする。ケンカする気満々のヤンキーがマンガの中でやることを、フミさんが実際にやっていた。
「ごめんなさいね。以前、既婚者との間に辛いことがあったので……。さようなら」
イナホさんは空間移動で、修羅場から脱出する。
「フミさん、今のは結婚前の約束だから……」
フミさんの額が青く光り始めている。
「あっ、黄金がなくなっている!」
俺はフミさんが黄金を集めていた場所を指さす。
フミさんが振り返る。
「あれっ、先ほどまではちゃんとあったのに……」
黄金は本当になくなっていた。フミさんの額から青い光が消えていく。助かった。
フミさんは、サキさんをじーっと見つめる。
サキさんは不自然に口笛を吹き始める。
きっとサキさんが、盗賊の技を使って、ぶんどったのだろう。
今はフミさんに心を見られてもいいように、必死に違うことを考えているはずだ。
「な、なんですか、その淫らな思いは……」
フミさんが顔を真っ赤にする。かわいい。
やっぱり、サキさんは何か違うことを考えて、フミさんにばれないようにしたのだ。それにしても、フミさんがこんなに赤面するほど、サキさんはどんなエロいことを考えていたのだ。気になるぞーーー!
「あなた、またそんなことを考えて!」
俺はフミさんにビンタをされる。
今のは絶対に八つ当たりだ。黄金をサキさんに盗られたはらいせも込められている。
図星のようで、フミさんは俺の目を見ようとしない。
でも、今、ビンタされたことで思い出したことがある。俺はあと半日もしたら、聖者になる。
フミさんに会って頭をなでられてから、あと半日で48時間だ。
このことはやっぱり、ナナ達には内緒にしておこう。フミさんと結婚したのだから、俺も聖者になった方がいいに決まっている。
「た、助けてくれ……」
倒壊した黄金の城に近づくと、リーダーのロミレオをはじめ、他の4人の魔王ズセブンのメンバーも、魔王の癇癪の爆発によって、深傷を負っていた。
フミさんが治癒の魔法で傷を治してやると、ロミレオたちは礼も言わずに、空間移動の魔法で逃げ去って行った。
フミさんは別に気にしていない様子だった。
以前、ナナにも同じようなことがあったな。助けた悪人が礼を言わずに去って行っても、ナナは平然としていた。
俺は絶対にムカッとする自信があった。それは多分、俺が勇者だから、礼儀を軽んじる者にはつい厳しくなってしまうのだろう。
崩れた黄金の上を歩いて行くと、王座の間に辿り着く。
かろうじて、黄金の王座が原型をとどめていた。
そして、その王座に不機嫌そうに魔王が鎮座していた。足元には、リセルが横たわっている。
「リセル!」
フミさんが魔法の力で、リセルを引き寄せる。
「そいつが欲しいならくれてやる。世界を支配する絶対的な力を手に入れられる宝を見つけられないとは、この世界の“再教育者”のくせに使い物にならん」
魔王はそう吐き捨てる。
「リセル! しっかり!」
フミさんがリセルを抱きかかえる。
おいおい、胸があたってやしないか。
「フ、フミ様……」
生きてやがる。人の妻のおっぱいの感触を味わってはいないだろうな!
俺は治癒の魔法で、リセルの怪我を少しだけ治してやると、空間移動の魔法で、研究所に飛ばしてやった。
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