第25話 25話
ドドドドドカーン! 青い雷が俺の方に落ちる。
間一髪、空間移動で逃げることができた。
「フミさん、落ちついて! 俺の話を聞いてください!」
フミさんは俺の言葉を無視して、魔法の力で森の木々を抜くと、それに火をつけて、俺に向かって一斉に投げつける。
俺は風の魔法を使って、木々を森へと吹き飛ばす。
ドドドドドカーン! ドドドドドカーン! 青い雷が立て続けに、俺を狙って落ちて来る。
なんとか空間移動で逃げるが、地面から土が盛り上がり、あっという間に下半身を固められてしまう。
「し、しまった! フミさん、お願いだからもうやめてくれ!」
フミさんは無反応だ。
今、俺が怖いことは自分が死んでしまうかもしれないことではない。フミさんが、人殺しになってしまうことだ。フミさんにそんな罪を背負わせるわけにはいかない。
ドドドドドカーン! 今度は青い雷を避けられない。
俺は先ほど吹き飛ばした木を、空間移動で引き寄せ、側に立てた。
すると、避雷針の役割を果たして、青い雷は木に落ちる。
冷静に考えなければならない。
魔法も無限に使えるわけではない。魔法を使える力が残っているうちに、フミさんを助けるのだ。
俺は大きな波を呼び、下半身を固められていた土を溶かすと、空間移動でフミさんの背後に周る。
そして、得意の空間を操る魔法で、フミさんが動けないようにする。
「す、すごい力だ」
空間を操る魔法を全力で使い続けていないと、一瞬でも気を抜いたら、払いのけられてしまいそうだ。どんどん魔法を使う力が消費されていく。
「まだか、まだ効かないのか……」
同時に眠りの魔法も使っているのだが、フミさんはまったくパワーダウンしない。それどころか、俺の空間を操る魔法を払いのけようとする力が強くなっている。
「ボキッ」
と鈍い音がした。
何だ今の音は? 嫌な予感がする。俺は慌てて、空間を操る魔法の力を弱める。
フミさんの右腕の様子がおかしい。
間違いない。右腕の骨が折れたのだ。そうまでして、俺の空間を操る魔法から逃れようとしていたのだ。
「フミさん……」
腕の骨が折れているのに、フミさんはまったく痛がる様子を見せなかった。
俺はもうフミさんに魔法を使うことができない。
フミさんは俺を始末するまで、自分がどんなに傷ついても、暴れ続けるに違いない。
俺は闘いを放棄して、地上へと降りる。俺はズルい。フミさんが俺の命を奪ったことを後で知ったら心を傷つけることになる。
でも、俺はもうこれ以上、フミさんの体を傷つけることはできなかった。
次、青い雷が落ちてきたら、それでもう終わりにしよう。
そう、諦めてしまった時、
「カーキャン! カーキャン!」
ブラッカが飛んで来た。
背中にはナナ達4人と鎖で縛られたリセルが乗っていた。
ウツボ竜のマリアもブラッカを追いかけて、こちらに向かって来ていた。
「来ちゃダメだ! ブラッカ、引き返せ!」
俺がそう叫んだ時には遅かった。
ドドドドドカーン! フミさんが青い雷を、ブラッカに向かって落とす。
すると、ナナが手に持っていた虹色の剣を振るい、斬撃で青い雷を真っ二つに斬った。
「カーキャン!」
ブラッカが俺の側まで飛んで来ると、リセルを落として、ナナ達はジャンプして降りて来る。
「ナナ、エミさん、ミキ、サキさん! ここは危ないから早くブラッカと一緒に帰って!」
「タクマのクセにかっこつけるな!」
「ただの夫婦喧嘩なら、放っておけるんですけど」
「フミさん、早く病院に運んであげた方がいいわね。腕、折れているじゃない」
「タクマ様、私たちがきたからもう大丈夫ですよ」
「何を言っているんだ! これまでの悪人や聖者たちとはわけが違うんだ! 早く逃げてくれ!」
俺だけじゃなく、ナナ達の命まで奪うことになったら、フミさんの心の傷は計り知れないものになってしまう。
「タクマ、お前、異世界に行って修行してきたのは、自分だけだと思っていないか?」
「えっ?」
ナナ、どういうことだ?
「タクマさん、私たちもあの時、フミさんに異世界に飛ばされていたんですよ」
エミさんが教えてくれる。
「私たちはすぐに“迷い人の村”で合流して、それぞれ自分に合った師匠に鍛えてもらったのよ」
サキさんが追加情報をくれる。
「タクマ様が全然“迷い人の村”にやって来ないから、心配しちゃったじゃないですか」
ミキが頬をプクッと膨らませる。
「で、でも、どうしてここの場所がわかったんだ?」
「タクマの靴底に発信器を埋め込んだからな」
いつの間にそんなことを? それに何のために?
「姉さんに頼まれたんだ。私に何かあった時、タクマを守ってくれと……」
「多分、フミさん、こうなることを恐れていたんじゃないかしら」
とエミさんが教えてくれる。
「おい、お前、さっきの話をタクマにも聞かせてやれ」
ナナが虹色の剣を、リセルの喉元に突きつける。
「フッ、そんな脅しなど怖くはないがフミ様のために教えてやる。フミ様は、聖者たちに異変がないか見守る守り神であると同時に、異世界からの移住者たちが裏切った場合の対抗策となる秘密兵器として作られた試作種なのじゃ。ここまで力を発揮されるとは、試作種の最高傑作だ! フハハハハハッ! ウゴッ……」
5人同時に、リセルを殴った。
ウツボ竜のマリアは、リセルが殴られたのも気にしないで、ブラッカに寄り添うように浮遊している。
ブラッカは迷惑そうな顔をしていた。
ドドドドドカーン! フミさんは青い雷を自分に向かって落とすと、それを固めて超巨大な剣にしてしまう。
それを左手だけで持つと、大きく振りかざして勢いよく振り降ろす。
ダメだ、フミさん。力を使い過ぎている。
「バカ、避けるぞ!」
立ちつくしていた俺を、ナナが体当たりで吹っ飛ばした。
超巨大な青い雷の剣が振り降ろされた場所は半径10mほどの大きな穴が開き、焦げ臭いにおいが潮の香りと混ざっていた。
「姉さん、今、助けるからな! 行くぞ!」
ナナがそう言うと、エミさんとサキさんが、人気離れした跳躍で振り降ろされた青い雷の剣を上って行く。
「うおりゃーーー!!」
ミキは直径5mはある大きな岩を持ち上げて、フミさんに向かって思いきり投げつける。
フミさんは青い雷の剣を持ち上げて、ミキが投げた巨大な岩を叩き砕く。
その隙に、青い雷の剣を駆け昇っていたエミさんとサキさんが、フミさんに向かって跳びかかる。
「忍術奥義、千人分身!」
エミさんの無数の分身が現れる! もちろんその数だけエミさんのおっぱいが揺れる。夢のような光景だ。
本当にエミさんと不倫することになったら、千人分身を使ってもらおう。ズルいけど、そんなことを考えて気を紛らわせないと、腕が折れながらも闘い続けようとするフミさんを見ていられなかった。
フミさんは青い雷の剣から、これでもかと放電させ、分身したエミさんを狙う。
「残念! 本物はこっちでした!」
エミさんはフミさんの真上にいた。
「エネルギー・スティール!」
サキさんが、フミさんの心臓部分に手を入れて、何か光の塊を奪い取る。
「まだこんなに凄い力が……」
サキさんが驚きの表情を見せると同時に、力を奪われたフミさんが青い雷の剣を落とす。
「姉さん、ゆっくり休んでくれ」
ブラッカに乗っていたナナが跳びたち、七色の剣でフミさんに峰打ちを決める。
フミさんは気絶して、青い角と翼が消えて行く。
俺は落下するフミさんを、空間を操る魔法でキャッチする。
ナナとエミさんとサキさんは、ブラッカが背中に乗せていた。
俺は空間移動して、フミさんのもとへ行くと右手で優しく抱きかかえ、左手でフミさんの折れた腕を治癒の魔法で治す。今はこれだけにしておこう。それがフミさんのためだ。
「キャッ!!」
ミキの悲鳴が聞こえた。
下を見ると、ミキが豪華客船で会った、あのヨーロッパ系の少女に投げ飛ばされていた。
ヨーロッパ系の少女の側には、神聖者セブンのヒダマリやイナホたち6人の姿も見えた。
俺は、フミさんを抱きかかえて、ミキのもとへ空間移動をする。
「カーキャン! カーキャン!」
ブラッカもミキのもとに飛んで来て、ナナとエミさんとサキさんが颯爽と降りる。
「そこのお前! よくあの時は蹴ってくれたな! リセルの野郎が、正体を明かすなと言うから大人しくしていたら、好き勝手やってくれやがって!」
ヨーロッパ系の少女が、ナナを鋭く睨む。リセルの野郎だと? 仲間ではないのか?
「何だ、日本語ペラペラじゃないか」
「当たり前だろ。フッ、日本の近く深くには……」
ヨーロッパ系の少女がそう言いかけると、
「リターシャ!」
短髪で、体格がよく、軍人のような雰囲気のある30代半ばくらいの男が止める。
「なんならまた相手してやろうか」
ナナが、ヨーロッパ系の少女リターシャを挑発をする。
「ちょっとナナ様、待ってください。今は不意をつかれただけです。今度こそ私がぶっ倒してやります!」
ミキが立ち上がって、闘争心を露わにする。
「フン、何度やっても勝つのは私だ!」
「リターシャ、私情をはさむな。今は時間がないのだ」
また軍人の雰囲気がある男に注意されると、
「……わかったよ。ロミレオ」
とリターシャが返事をして、2、3歩後退する。
「お前たち……、どうやってあそこから出て来たのだ……」
リセルはひどく驚いていた。
「純粋無垢な試作種、フミを作り出したことで、心に毒を持つ私たち神聖者セブンを用済みと判断し、地下深くの牢獄に閉じ込めるとは……、許せませんね」
イナホがそう言うと、魔法の力でリセルを引き寄せる。
そして、ロミレオとかいう男がリセルを捕まえる。きっと神聖者セブンのリーダーなのだろう。
「わ、私をどうするつもりなのだ!」
「魔王様がお呼びだ。今は黙っていろ」
ロミレオはそう言って、リセルの腹を殴り、気絶させた。
「ギャオオオー!」
ウツボ竜のマリアが、ロミレオに襲いかかろうとするが、
「カーキャン! カーキャン!」
ブラッカが前に立ち塞がって、制止する。
もしブラッカが止めていたなかったら、マリアの命は今頃消えていただろう。
「我らはお助けいただいた魔王様から魔力を与えられ、親衛隊に任命されたのじゃ。これからは、魔王ズセブンとして活動するのじゃ」
ヒダマリがそう教えてくれる。
「ちょっと、その名前、いつ決めたのよ」
とイナホが嫌そうにする。
ふざけた調子だが、イナホもヒダマリも、今までとは雰囲気が違う。
「魔王様は魔悪人ナナとエミにもご興味があるようじゃった。また会うことになるだろう」
ヒダマリがそう言うと、魔王ズセブンはリセルを連れて、空間移動で去って行った。
東京・聖者たちの研究所。
空間移動でここへやって来ると、俺とサキさんは治療室にフミさんを運んだ。
「この試作種専用の抑制剤を投与すれば、あの優しいフミさんに戻るはずよ」
サキさんが注射器を使って、フミさんに抑制剤を投与してくれた。
「治癒の魔法は使わないで、フミさんが自分の力で目覚めるのを待った方がいいと思うわ。かなり無理をしているから、2、3日かかるかもしれないけれど……」
「わかりました」
俺は看護師として働いていたサキさんの言う通りにすることにした。本当は今すぐにでも治癒の魔法を使って、治してあげたかったが我慢した。
ナナとエミさんとミキは、10分ほどで研究所内にいた聖者全員を拘束して、建物を占拠した。
後で聞いた話では、ブラッカとマリアも大活躍してくれたそうだった。
そして、研究所内には、さまざまな試作種の動物たちが閉じ込められていたそうだった。
抑制剤を投与してから3時間後。
「あなた……私……」
フミさんが目を覚ましてくれた。
「よかった、あなたが生きていてくれて。本当によかった……」
フミさんが大粒の涙をこぼす。
「大丈夫だから。もう泣かないで」
俺は指でフミさんの涙を拭うと、キスをしようとしたが、
「痛ッ!」
フミさんにビンタをされる。
「あなた、私はまだ許していませんからね」
ウウ……、まだ魔王とのキスのことを根に持っているのか……。
「そうだ。姉さんを裏切りやがって。私も許していないからな」
ナナがそう言うと、『ウン、ウン』とエミさんもミキもサキさんも大きく頷いていた。
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