第19話 19話

「しっかり修行してくださいね。また、ここで同じ時間にお会いしましょう」

と言って、手の平から青い光を発する。

 俺はスポッと空間に吸い込まれる。



「ウ、ウワワワーーー!!」

 あらゆる光が歪み、聞いたことのない音のような揺れが続く、底なしの空間に落ちて行く。



 ポタッ、ポタッ。何か水滴が頬に落ちている。

「イタタタタッ」

 目を開けると、モンスターが俺を見て、ヨダレを垂らしていた。

「ウ、ウワッ!」

 俺は思わず、起き上がり、後ずさりする。この容姿、オークだ。早く逃げないと食べられてしまう。

 振り向いて逃げようとするが、何かにぶつかって倒れてしまう。

「イタタタタッ」

 見上げると、オーガが立ち塞がっていた。

「なあ、ヤーゴ、約束なんてやぶって、こいつ食っちまおうぜ!」

 右の耳を半分食いちぎられているオークがそう言う。

「ダメだ、ヘッチー。オイラたちがこの世界の人間を全部食っちまったから、魔王様を倒す優者が現れなくなってしまったんだ。勇者は人間と相場が決まっているからな。それで、オイラたちは何千年も魔王様にこき使われるはめになったんだぞ」

 腰の曲がったオーガがそう言う。

「わかっているよ。だから、魔王様が千年に一度の休眠に入られる隙に、まだ人間がウヨウヨいる異世界に移住するんだろ。こいつを食べたって問題ないじゃないか」

 オークはまた俺を見てヨダレを垂らす。

「ダメだ。もう人間を食べてはいけない。あのほっぺたが落ちそうになる絶品の味は忘れるんだ」

 オーガがそう言いながら、大粒のヨダレを垂らす。

「なんでダメなんだよ。さては、ヤーゴ、お前一人占めする気じゃないだろうな?」

「バカを言うなヘッチー。オイラたちはもう人間を食べないと、異世界の聖者に約束したではないか。人間がいる世界なら、魔王様みたいな存在がいても、勇者が現れて退治してくれるから、オイラたちはこき使われることなく、安心してのんびりと暮らせるだろ」

「だったら、ほどほどに人間を食えばいいじゃないか」

「だから、オイラたちはそのほどほどにができないから、この世界の人間を全部食っちまったんじゃないか。一人でも食べたら、せっかく忘れかけているあの味を食べたくて我慢できなくなっちまう。おいこら、どこに行く」

 オーガの股下から逃げようとしたが、大きな手で捕まってしまう。一体、いつ手を洗ったのだ? 異臭で鼻がもげそうになった。

「チェッ!」

 オークが棍棒で岩に八つ当たりして粉砕する。

「わかったよ。じゃ、ヤーゴ、こいつはどうすんだよ?」

「仕方ない。“迷い人の村”に連れて行くしかないだろ」

 “迷い人の村”だって? 俺以外にもここへ来た人間がいるのか?

「おい、ヤーゴ、あそここそ、この世界に迷い込んで来た人間が集まっていて、それはもううまそうな匂いが充満しているって噂だぞ。俺はそんなとこ行って、人間を食わないでいられる自信はねえぞ」

「だったら、“迷い人の村”の近くに置いてくればいい」

「そんなことしたら他のモンスターにこいつを食われちまう。“迷い人の村”の周りには、人間を食いたくてウズウズしているモンスターたちも集まっているんだ。そいつらに食われるくらいなら、俺が今、こいつ食っちまいたいぜ」

「ああ、もう!」

 オーガが巨大な斧で、辺りの木を次々になぎ倒して暴れる。

「イテーーー!」

 俺を持つ手の力も強くなる。

「だ、だったら、近くまで行ったら、俺を“迷い人の村”に向かって、思いきり投げてくれよ」

と俺が言うと、オーガが暴れるのを止める。

「俺を葉っぱか何かフワフワする物を入れた袋に入れて、“迷い人の村”に投げてくれよ。それなら問題ないだろ」

 オーガとオークのコンビが目を合わせる。

「人間が言うんだから、それでいいじゃないか」

「オイラもそう思う。よし、こいつを連れて“迷い人の村”の近くまで行こう」

「じゃ、とっと行ってこようぜ。こいつを見て、我慢しているのは健康によくねえ」

 オークも健康を気にするんだな。

「よし、ヤーゴ、行こう」

「ああ、ヘッチー、早く行こう」

 ところがオーガとオークのコンビは動き出さない。

「ヤーゴ、早く行こうって言っているだろ」

「ヘッチー、オイラも早く行こうって言っているじゃないか」

「だったら、早く歩き出せよ」

「歩き出せって、どこに向かって歩き出せばいいんだよ」

「知らねえよ。“迷い人の村”がどこにあるのか、俺は聞いたこともない。いや、聞かないようにしていたんだ。聞いたら人間を食いに行きたくなっちまうからな」

「オイラも“迷い人の村”の場所は知らねえぞ」

 なんだよ、このオーガとオークのコンビ、全然使えないじゃないか!

 再びオークは棍棒で岩を砕きだし、オーガは斧で木を倒しまくる。

「あっ、スライム!」

 初めて生スライムを見て感動したのも束の間、オーガの斧が当たり、飛び散ってしまう。

 オーガとオークのコンビはひと暴れすると、目を合わせて、

「やっぱ食っちまうか」

「ああ、オイラもそんな気がして来た。この匂いがたまらない」

 なんでそうなるんだよ! オーガが俺を鼻に近付けて、大きく息を吸い込む。そして、吐き出す。

「ウエッ!」

 絶対、こいつ生まれてから一度も歯磨きをしていない!

 食われるわけにはいかないし、臭いも最悪だし、早くこの状況を打破しなくては……。

「お、俺、知っている」

 オーガが俺を鼻から離してくれる。

「知っているって何を?」

「だから、“迷い人の村”を知っているんだ。俺が案内するよ」

「本当か? なぜ今まで黙っていたんだ? 食われたくないから適当なことを言っていないか?」

 オークが疑っている。いつの間にか、オーガが倒した木の枝を集めている。直感でわかる。絶対に俺を焼いて食う薪にする気だ。

「そ、それは、あれだよ……」

「なんだ、早く言え!」

「イタタタタッ」

 オーガがまた俺を握る手の力を強くする。またヨダレを垂らしている。俺を食べたくてウズウズして苛立っているようだ。

「ヤ、ヤーゴとヘッチーを試していたんだよ」

 名前合っているよな?

「オイラたちを試していただと?」

「そうだ。俺を“迷い人の村”まで連れて行けるだけのつわものかどうか試していたんだ。それで、ヤーゴとヘッチーの暴れっぷりを見て、これだけ強ければ任せられるって思ったんだよ。ヤーゴもヘッチーもめちゃくちゃ強いもんな」

「当り前よ。俺たちは最強のコンビだぜ!」

「そうだ。オイラたちは強いぞ。任せておけ。お前を“迷い人の村”まで連れて行ってやる!」

 ヤーゴとヘッチーはまた暴れ出して、喜びを表現する。今度は通りかかったスケルトンの集団が巻き込まれて、ヤーゴの棍棒で次々と粉砕される。


「よし、オイラたちを“迷い人の村”へ案内しろ」

 オーガのヘッチーがようやく、俺を下ろしてくれる。

「でも、ヘッチー、こいつやけに人間臭いから、途中でやっかいな奴らに見つかっちまうぜ」

「ああ、オイラも同じことを考えていた。しょんべんでもかけて、人間の臭いを消すって言うのはどうだ?」

「さすがヘッチー。そりゃいい考えだ。そうしようぜ」

 ヤーゴとヘッチーが、えげつないものを出そうとしたので、

「ま、待って! 自分で解決するから!」

 俺はヘッチーが斧で斬ったスライムの破片を拾うと、それを体中に塗りたくった。ベターッとして気持ち悪かったが、ヤーゴとヘッチーの小便をかけられるよりは何万倍もマシだった。


 すると、俺のお腹がグーッと鳴る。しまった! と思ったが、時すでに遅しだった。

「なんだお前、お腹空いているのか」

「よし、案内してくれるお礼にオイラたちが飯を食わせてやる」


 夜になってしまった。ヤーゴが集めていた木の枝に火をつけて、何かのモンスターの頭蓋骨を鍋代わりに使って、スープらしきものを作っていた。

「お前、運がいいな。最高の獲物を仕留めて来たぞ」

 ヘッチーが獲物のガーゴイルを俺に見せびらかせる。

「うまそうだろ! うん? どうした?」

「なんだ、お前、びびっているのか?」

 ヤーゴとヘッチーが、引きつっている俺の顔をマジマジと見る。びびっているのがばれるのはまずい気がした。こいつらは度々勇者を輩出する人間のことを上に見ている。それを台無しにしてはいけない。

「びびってなんかいないさ。俺たちの世界では、人間がガーゴイルを食べることが禁止されているんだよ。チェッ、こんなうまそうなガーゴイル食いたかったなー」

 俺はガーゴイルの顔を軽く蹴る。

「……イテーな、この野郎……」

 ガーゴイルが目を開いて、俺を睨みつける。まだ、生きてやがったのか……。

「なんだそうだったのか。じゃ、このガーゴイルはオイラたちだけでいただくことにしよう」

「お、おい、やめろ……」

 ヘッチーはガーゴイルの言葉を無視して、ヤーゴが準備していたスープの中にガーゴイルを投げ入れる。

「ウギャギャギャーー!」

 ガーゴイルの叫び声が響き渡り、熱いスープが飛び散る。

「おお、これはいいダシが出そうだ。さすがヤーゴだな」

 ヘッチーが軽くヤーゴの足を棍棒で叩く。

「いい匂いだ。やっぱりヘッチーは料理の天才だな」

 今度はヤーゴがヘッチーの頭を軽く叩く。

「人間の前でそんなに褒めるなよ。照れるだろ」

 先ほどよりも強めにヘッチーが棍棒でヤーゴの足を叩く。

「照れるなって、本当にスープ作りの天才なんだから。オイラが言うんだから間違いない」

 ヘッチーも先ほどより強くヤーゴの頭を叩く。

 すると、ヤーゴがジャンプして、棍棒でヘッチーの頭を叩く。

「だから照れるからやめろって!」

 ヘッチーも大きな手でヤーゴを強くはたく。

 ヤーゴは2~3m飛ばされて起き上がる。

 そして、ヤーゴとヘッチーの本気のケンカが始まる。

 今だ! こいつらから逃げるなら今しかない!

 俺は猛ダッシュで森の中へ逃げた。今はなんとか我慢しているようだが、一緒に居たらいつ食われてしまうかわかったものではない。一睡もできないだろう。なぜだか、ちょっと寂しい気もするが、逃げた方が得策に決まっている。月明かりを頼りに、森の中を必死に走り続けた。おもしろいコンビだったな。ケンカも怪我しない程度にしてほしいな。って、何で俺があのコンビの心配をしているんだ?


 すると、前方でガサッと音がする。俺は警戒して足を止める。

 何者かが俺に向かって近づいて来る。

 このシルエットは、先ほどの……。

「よう、さっきの威勢はどうした? 随分と怯えているようだが」

 ヤーゴが捕まえて来た、俺が頭を蹴った、スープの中に入れられた先ほどのガーゴイルが目の前に立っていた。

「ウゴッ……」

 ガーゴイルは俺の腹を思いきり殴る。

 俺は倒れそうになるが、ガーゴイルが俺の髪を掴んでそうさせない。間近で見ると、ひどく火傷していることがわかった。

「そう簡単には楽にさせないぞ。たっぷり痛めつけた後で、俺と同じ目に合わせてやる」

 俺はガーゴイルに髪を鷲掴みにされ、サンドバックのように何度も何度も殴られた。

 ち、ちくしょう。なんで、こんなことになったんだ……。そうだ、ナナたちみたいに強くなりたいと思ったからだ。フミさんを守りたいと思ったからだ。そうだ、俺はこんなところでやられるわけにはいかないんだ!

 俺は下に落ちていた木の枝を拾うと、ガーゴイルの火傷した太ももに突き刺す。

「ギャギャギャーー!」

 ガーゴイルは痛さのあまり俺の髪の毛を離す。

 俺は木の枝を抜いて、また違う個所を刺すが、ポキッと折れてしまう。迷っている暇はないので、俺は一度目に刺した傷口に指を突っ込み、中の肉をえぐるように動かした。

「ウギャギャギャーー!!」

 ガーゴイルはたまらず翼で俺を払いのける。

 ドン! と俺は木にぶつかったと思ったが、

「ほら、いただろ」

 見上げると、左目を腫らしたオーガ族のヤーゴと、口から血を垂らしているオーク族のヘッチーが居た。俺がぶつかったのは、ヤーゴの足だった。

「おう、逃げ出したこいつを捕まえようとしていたのか」

「オイラの言ったとおりだろ。人間は勇者に選ばれる種族だ。本当は強いんだよ。特にこいつは人一倍人間臭いからな。オイラたちを怖がって逃げたりするわけないだろ」

「このガーゴイル野郎、逃げ出した上に、追いかけて来たこいつを不意打ちしたんだろ!」

「ち、違う! 先に逃げ出したのはこいつのほうだって!」

「オイラたちがそんな言葉で騙されると思っているのか? バカにしているのか?」

 ヤーゴが鼻息荒く、大きな顔をガーゴイルに近づける。

「お前からは特製スープのいい匂いが漂っているんだ。見つけてくださいって言っているようなもんだろ。人間を不意打ちなんてしないでさっさと逃げればよかったものを。自業自得だな」

 ヘッチーが棍棒でガーゴイルの頭を殴る。

「おい、殺してはいないだろうな?」

「大丈夫、気絶させただけだ。生きたまま煮込んだ方がうまいからな」

「もう、逃げられないようにしておこう」

 ヤーゴはそう言うと、ガーゴイルの翼をもいだ。

 血が飛び散る。悪臭が立ち込める。

 思わず吐きそうになったが、なんとか飲み込んで堪えた。

 弱いところを見られるわけにはいかない。何が何でも“迷い人の村”へ行って、強い人を捜して修行をするんだ。そして、ナナたちのように俺も強くなるんだ。フミさんを守れるくらいに強くなってみせるんだ。



「ごめんな、オイラたちだけ食べて。明日は、ガーゴイル以外の獲物をとってきてやるからな」

「いいよ、気にしないで。自分の食料は自分で獲るから。それぐらいできるから」

 俺はガーゴイルの肉を骨ごとボリボリ食べているヤーゴに言う。

「そうだよな。人間はズル賢いもんな。ヤーゴ、余計なお世話はもうやめよう」

 そう言って、ヘッチーはガーゴイルの脳ミソをすすり出す。

 俺は慌てて、エミさんとサキさんのおっぱいを思い出す。吐き気を抑えるんだ、他のことを考えるんだ。

「ところでお前、名前はなんて言うんだ? ズズズーッ」

 ヘッチーにそう尋ねられる。

「た、タクマ……」

「わかった。タタクマ。ボリボリ」

「違うよ、タクマ。名前は、タクマ」

「ズズズーッ。タクマか、たくさんの魔物と会いそうな名前だな。こりゃ縁起がいい」

「本当だな。オイラたちの獲物を呼び寄せてくれそうだ。ボリボリッ」

 そう言われると、なんだか本当にたくさんの魔物に遭遇してしまうような気がしてきた。俺はそんな“引きが強い”星の下に生まれている。

それにしても、とっさに思い浮かべたのが妻のフミさんのことではなかったことを俺は悔やんだ。向こうに戻ったら、ちゃんと聖者になってエロで支配されている脳ミソをまともなものにしよう。あっ、脳ミソ……。再び猛烈な吐き気に襲われる。俺はまたエミさんとサキさんのおっぱいを思い出していた。


 翌朝。空腹と、ヤーゴのいびきと、ヘッチーの『人間、うめえー』という寝言が気になって、結局一睡もできなかった。

 俺は何か果物でも探そうと思い、森を散策する。

 しばらく歩くと、幸運なことに小川を見つけた。

 きれいな清流だった。

 ゴクゴクゴクッ。

「うめえーー!!」

 ゴクゴクゴクッ。喉も渇いていたので、水を何度も飲んだ。

 すると、川で泳いでいるアユを見つけた。そこそこ大きく、とてもおいしそうだ。

 俺は川の中に入り、手掴みしようと試みる。

 アユは素早く、掴んだ! と思ってもヌルッとすべって逃げられてしまう。

 何度も挑戦したが、逃げられてばかりで、ついにはよろけて川の中に転んでしまう。びしょびしょになってしまった。

 ちくしょう! 水面を強く叩く。ああ、腹減ったー。

 もうアユは諦めて、果物でも探すかと座っていると、前方からアユが泳いで来る。

 俺は焦る気持ちをおさえ、体に最接近したタイミングで鷲掴みにする。ヌルッとしたが、爪を立てて逃がさないように必死に掴まえた!

「やった! やったー!! 食料ゲット!」

 なんともいえない達成感があった。


 意気揚々とヤーゴとヘッチーのところにもどると、ちょうど小便していて、火を消していた。

 な、なんてことを……。えげつないものまで見せられて最悪だ!

「おう、タクマ。魚をとりに行っていたのか。うん? たった1匹だけか?」

「朝はあまり食べないんだ」

「オイラたちと一緒だな。健康のために朝は食べないようにしているんだ」

「何が健康のためだ。面倒くさいから食べないだけだろうが」

「何を! 健康のためだと言っているだろ!」

 まずい、またあのド派手なケンカが始まってしまう。

「よし、それじゃ“迷い人の村”を目指して出発しよう! 昨日の遅れを取り戻さないとね」

 俺がそう言うと、ヤーゴとヘッチーは武器を下ろす。

「命拾いしたな」

「オイラのセリフだ」

 やれやれ、どうやらケンカは回避できたようだ。俺は太陽の方向に向かって、適当に歩き出すが、

「タクマ、ちょっと待て」

とヘッチーに呼び止められる。

「歩きながら食べるのは行儀が悪いぞ」

「オイラたち待っててやるから、さっさと魚を食べるんだ」

 ヤーゴとヘッチーは見かけに寄らず、行儀にはうるさいようだった。

「だったら、また火をつけてくれるかな」

と頼むが、

「イヤだね。時間がないんだろ」

「オイラも面倒くさいからイヤだ」

とあっさり断られてしまう。

「ほら、やっぱり朝食を食べないのも、面倒くさいからなんだろ!」

「しつこいな! オイラは健康のために食べてないって言っているだろ!」

 まずい、また険悪なムードになってきたぞ。

 ええい、もうやけくそだ!

 俺は生のまま、アユに食らいつく。

 また、エミさんとサキさんのおっぱいのことを考えながら、味を感じないようにゴクッと飲み込む。途中で止めると食べられなくなりそうなので、そのまま骨ごと一気に食べた。

「うまそうに食うなー。あんまりうまそうに食べると、俺もタクマを食べたくなっちまうじゃねえか……」

 ヘッチーがヨダレを垂らす。

「オイラもそう思っていた」

 ヤーゴのヨダレが俺にかかる。ちょうどよかった。川でスライムの液体が落ちていたから、これで人間の臭いを消すことができるだろう。そう思うことにしよう。何でもプラス思考だ。そうでないときっとここでは10分も生きていけない。

「よ、よし、行こうか」

 俺はあらためて太陽の方向に向かって歩き出す。

 ヤーゴとヘッチーがついてきていることが足音でわかる。魔物と遭遇した場合は心強い存在だが、いつ欲望に負けて、俺を食べようとするかわかったものではない。ヤーゴとヘッチーの気配には常に警戒しておこう。

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