第18話 18話
ブラッカは猛スピードで飛び続け、神戸港の近くでキヨシたちが乗船していると思われる貨物船に追いつく。
「ブラッカ、この船なのか?」
「カーキャン!」
ブラッカの嗅覚は確かだ。間に合ってよかった。神戸港に上陸されていたら、一巻の終わりだった。
「……追いついたのですね」
「フ、フミさん!」
フミさんが意識を取り戻す。
「大丈夫ですか?」
「心配かけてすみません、あなた。ちょっと疲れただけですので、もう大丈夫です」
「あんまり無茶しないでくださいよ。俺の大切な、つ、妻なんですから」
「……あなた……」
俺はフミさんの手を握り締めて、フミさんと見つめ合う。ちくしょう。周りにナナ達がいなければ、絶対にキスできる雰囲気なのに……。
「さすが試作種の神……回復力も異常だな」
ナナが皮肉っぽく言う。
「ナナ、そういう言い方やめろよ! 今度言ったら許さないからな!」
「新婚さんって感じしますわね。なんだか邪魔したくなっちゃう」
フミさんがブラッカから落ちないようにおさえていてくれたサキさんが俺を見つめる。
ゴクッ。ああ、サキさんに遊ばれてみたい……。
「痛ッ!」
「ご、ごめんなさい。強く握りすぎてしまいました」
フミさんが俺の手を、プロレスラーかと思うほど強く握った。
そうこうしている間に、ブラッカは貨物船の甲板に降り立つ。
「ありがとう、ブラッカ」
「カーキャン!」
俺たちがブラッカから降りると、さっそくキヨシとその仲間の悪人ども50人ほどが姿を現す。
「キヨシ! よくも私たちを置いて逃げたわね!」
ミキがそう言うと、
「うるせえ! 置いて行かれたお前たちが間抜けなんだろうが! 聖者なんか連れて現れやがってただですむと思うなよ!」
キヨシがサバイバルナイフを手に持つ。
「野郎ども! 上陸前にとびきりの女がやって来たぞ! 前祝いだ! 捕まえて好きにしてしまえ!」
「おおーー!!」
斧や鉄バットを持った悪人どもが、敵意をむき出しにする。皆、目が血走っていた。
「どうしたんだ? 様子が変だぞ……」
甲板には狂気が漂っていた。悪人というより、キヨシたちは極悪人になっていた。
「さっきのリセルという奴が、こいつらに何かしたんだろ」
ナナはそう言うと、甲板に転がっていた鉄パイプを手に取る。鉄パイプには血がついていた。
「これは“試合”と思ったほうがよさそうだ。お前たち、油断するなよ」
ナナがそう言うと、エミさんとミキとサキさんも身構える。
「それじゃ、姉さん。タクマを頼む」
ナナがフミさんのことを、姉さんと呼んだ……。家族として受け入れてくれたのだ。呼び方が変わっただけなのに、すごく嬉しかった。
「ナナさん、私もお力に……」
「姉さんはさっき力を使い果たしたばかりだ。ここは私たちに任せて、タクマの子守りだけ頼む」
「わかりました。気をつけてくださいね、ナナさん。あなたはもう、私の大切な妹なんですから」
フミがナナの手をとってそう言うと、
「し、心配などいらない」
とナナは照れくさそうにして、フミの手を払うと、悪人どものもとへ近づいて行く。
「野郎ども! やっちまえ!」
キヨシが指示すると、悪人どもが一斉に襲いかかって来る。
「おらーー!!」
悪人の一人が、エミさんに斧を振りかざす。エミさんはバック転でかろうじて避ける。殺す気だ……。今の悪人の攻撃には明らかに殺意があった。
「俺の獲物に手を出すんじゃねえ!」
「うるせえ! 俺の獲物だ!」
悪人同士の争いも起こっている。
甲板はまさに戦場と化していた。
さすがにナナ達も、狂暴な50人の男が相手では苦戦をしいられていた。腕やふとももから血を流している。
それでも、ナナ達は悪人どもを一人ずつ倒していくのだが、悪人どもは骨が折れてもまた立ち上がり、またナナ達に襲いかかっていた。
「その女よこせ!」
悪人がフミさんを狙って来る。
「黙れ、この外道が!」
俺は悪人に殴りかかるが、簡単にかわされ、逆に顔面を殴られてしまう。
「私の大切な夫に何をするんですか!」
「ウォッ!」
フミさんが操る力を使って、悪人を5mほどの高さまで浮かせると、そこから一気に甲板に叩きつけて気絶させる。そして、頭をなでて聖者にする。
さっきからこの調子だ。俺がフミさんを守ろうとするが、悪人にやられる。で、それを見て怒ったフミさんが悪人をやっつけて聖者にする。ああ、情けない。
「あなた、助けようとしてくれてありがとう」
『助けてくれて』ではなく、『助けようとしてくれて』とフミさんは正確に言う。
ナナは鉄パイプで、エミさんは手刀や物を投げて、ミキは柔道の技で、サキさんは主に蹴り技で、何度も立ち上がって来る悪人どもと闘っていた。
ちくしょう。俺も今すぐ強くなって、闘えたらいいのに……。ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。
「夫の願いは妻が叶えるものですね」
「えっ?」
フミは俺の額に手の平をあてると、
「あなたの眠っている力を解放します」
と言って、手の平から青い光を発する。
体の中で、何か殻が破れる感覚があった。そして、得体の知れない力が全身に駆け巡る。
「フミさん……、俺に何をしたの?」
「私がしたことは、人間の脳は10%しか使われておらず、100%使えるようになったら未知の力を使えるようになる、というものではありません。私は、あなたに限りなく神に近い力を与えたのです」
「神に近い力……」
「神といっても人工的な試作種の神ですが……。これは誰にでもできることではありません。あなたにはその資質があったのです。さすが、私の夫ですね」
フミさんはそう言ってニコッと笑う。
こんな俺を褒めてくれるなんて、信じてくれるなんて……。俺は心の底から、フミさんを守りたいと思った。
フミさんを背後から、バットで殴りかかろうとしている悪人がいる。俺の背後にも悪人が迫っている。この貨物船に乗っている全員の気配を感じ取ることができるようになっていた。
俺は手の平をかざして、フミさんを襲いかかろうとしている悪人を吹き飛ばす。
「ウ、ウワーーー!」
おお、悪人は猛スピードで操舵室の窓ガラスにぶつかる。力の加減が難しい。
「死にやがれ、この裏切り者が!」
悪人の一人が背後から斧で襲いかかってくる。
俺は振り向くと、振り降ろされた斧を手で掴む。血が流れるが、すぐに治る。慣れてくれば、かすり傷一つ受けないようになるだろう。
俺はそのまま斧を握って砕く。
「バ、バケモノめ!」
恐怖を感じた悪人が逃げようとする。
「どっちがバケモノだよ! 悪人のゴミやろうが!」
俺は両手をかざすと、悪人の両足に意識を集中させて、容赦なく骨まで握り潰す。
「ウ、ウアーーーー!!」
悪人の悶絶する声が最高に心地よかった。
俺はキヨシ以外の悪人どもを甲板の中央に引き寄せる。
「クソッ、なんだこの力は……」
「う、動けねえ……」
さらに、海から海水を浮かべて悪人どもにかけると、悪人どもが身動きとれないように氷で固める。もちろん、俺はこんな悪人どもと違って殺したりはしない。ちゃんと息ができるようにはしてやった。死ぬほど冷たいだろうが、そんなことは知ったことではない。
「タクマ様にこんな力が眠っていたなんて……」
「大神聖者になったのも、偶然だったわけじゃないみたいね」
ミキとサキさんが驚いている。
ナナは俺を睨んでいた。
「そんなこと、今はどうでもいいわ」
エミさんが、キヨシのもとに近づいて行く。
「よくも私を機関銃で撃ちまくってくれたわね。いくらペンキの弾でも、すっごく痛かったんだからね! 覚悟しなさいよ」
そう、エミさんにあの時の仕返しをしてもらうために、キヨシだけは残してやったのだ。
「ま、待ってくれ。
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