004.
「なんだ…!?」
翠は窓から身を乗り出して外を見た。
漆黒の空の一部が、ぼわっとした赤黒い色になっていた。
しかし、それは空自体の色が変化したわけではなく、他の赤い光によって照らされているようだった。
翠は道場を飛び出し、辺りを見回す。
「…!」
光源はすぐに分かった。
森の方から、赤い光の柱が空に向かってのびていたのだ。
そして、その場所には心当たりがあった。
(…御神木…!?)
間違いない。翠はそのまま駆け出していた。
「ーーー翠!!」
その時、後ろから声がした。
同じく光の柱を見て家から出てきた月臣だった。
「どこへ行く!」
「御神木だ!あの光が何なのか見てくる!」
振り返り様にそう叫んで、翠は再び走り出した。
外に出て、気味悪そうに空を見上げる村人たちを脇目に、村の出口を目指す。
何度か話しかけられた気がしたが、聞こえない振りをした。
村を抜けて森へと入ると、夜とは思えないほど赤い光で照らされ明るかった。
そして、御神木に近づくごとにその明るさは増していく。
そのお陰で、翠は道の枝に足をとられることなく走ることができた。
「っ…はぁっ、はぁっ…」
息が苦しい。
全速力で走り続けたせいもあるが、しだいに強まる胸の高鳴りのせいでもあった。
先ほどまで、幼い頃のことを思い出していたからだろう。
御神木に、兄を連想させたのだ。
そこに兄がいるような、そんな予感がしたのだ。
もちろん、根拠もない勝手な期待ではあるが。
やがて、道が開けた広い場所に出た。
「っ!!」
その瞬間、あまりの眩しさに翠は目をつむる。
腕で目元を翳らせながら、目を細く開けて前を見る。
やはり、光源は御神木だった。
樹の根元から発せられた赤い光は、樹の幹を伝い、空に向かって放たれていた。それが光の柱となっていたのだ。
そして、翠はもうひとつ、樹の根元の近くになにかがあるのを見つけた。
それは、黒い布を被った物体の一部からだった。
(………違う。物じゃねぇ…)
それは、人だった。黒い布を被った人間が、うつ伏せに崩れるように倒れていたのだった。
「だ、大丈夫か!?」
駆け寄り、体を揺さぶる。しかし、返事はない。もしや死んでいるのだろうか…。
それを確かめるために、翠は黒い布を捲った。
「!!」
思わず言葉を失った。
それは、少女だった。
かろうじて、息はあった。
長い髪を後ろで一つに結い、歳はおそらく翠より少し年下くらいであろう。
しかし、身に纏う着物は金の刺繍が施された美しい生地で作られたものだった。この辺の村では見られない、高級なものである。
そしてその顔は青白く、まるで人形のような、整った顔立ちをしていた。
「………!!」
翠はあまりの綺麗さに、しばらく身動きできなかった。
しかし、ふとあることに気付く。
少女の着物の袖の中で、何かが赤く光っていたのだ。
それは、樹の根元からの光よりは小さいが、同じ色の光だった。
「…?」
翠が袖にふれた瞬間、その光は消えた。
そして、同時に御神木の光りも霧散するように消え、辺りが一気に暗くなった。
「な、なんだったんだ………」
辺りを見回しながら呟いたそのとき。
少女の袖に触れた手に、何かがついたのを感じた。
暗くてよく見えない。
よく見ようと顔に手を近づけると、鉄のような匂いが鼻を突いた。
思わず、ぞっとする。
ーーーーー血だ。
「とりあえず、助けねぇと…」
この少女が誰なのか、何者なのかは分からない。怪しいのは承知だ。
しかし、このまま放置すれば少女は死ぬかもしれない。
翠は少女を背負い…
「お、重っ……」
思わずその重さに驚愕した。
よく見ると、腰には立派な大振りの刀が下げられていたのだ。年端もいかない少女が身に付けるものとは思えない代物だ。
ますます怪しい。
しかし、考えている暇はない。
とりあえず、そのまま翠は村へと急いだ。
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