体育終わりのゾウさん




「『ポジティヴにいこう!』って最低な言葉や」



体育館横の自販機で籔内がポツリと零した


1学期の最後の体育が終わり

教室へ戻る時だった



「なんでーな。ええことやん」



財布がポケットの中で引っかかっているのか

中々うまく取り出せないようだ


「ポジティヴじゃないと死んでまう病気なんや。あいつらは」



「なにがあったんや」


やっとこさ財布を取り出し

籔内は迷いなくミルクティーのボタンをバスンッと叩いていた


ああ、またあの象のミルクティーか



「そもそも、『ネガティヴじゃダメなんだ』ってもうポジティヴちゃうやん?」

籔内の汗ばんだ眉間にシワがよりはじめる



「ん?」



「本間にポジティヴのやつやったら、『ネガティヴでもいいじゃん!』って考えになるはずやん」


「あー」


「やのにあいつら宗教の如くポジティヴポジティヴ叫んで、挙げ句の果てに『今日はバイト先でめっちゃ怒られた。でも大丈夫!前向き前向き!』とかツイートしやがって」


怒りにまかせ、象さんミルクティーをダイソンの如く吸引力で飲み始める籔内



すごいなー



「凹めよ!!って言いたいねん。凹める時に凹まな成長しやんやろって」



紙パックにプリントされた象さんの顔がペコペコに凹んでおり

グチグチ嘆く彼の後ろから

次のクラスの生徒たちの嬉々とした声が聞こえた


いいなぁあの人らも

今からプールなんだ

俺ももう一度入りたい


いいなぁ


「ホンマ、くだらんやつばっかやで!!」


あ、そういえば、象さんミルクティーは生産終了するだとかクラスで話題になってたっけ


籔内の話をBGMにそんなことを思い出した














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

7月のあの日と8月のあの日 りょうま @ryoma3939

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ