イケないんだ
「みさきちゃんと滝野が草むらでエッチしてんぞ」
サークルメンバーでプチ花火大会をしているところ
友人の佐々岡が耳打ちをしてきた
夜の河川敷のアバンチュールとはこのことか
「なんちゅう熱い話や。どこでや」
「あの、トイレの裏側」
佐々岡の指差す方に目を向けてみる
辺りは暗くて見えにくいが
月明かりのおかげで仄かに公衆トイレがぼんやりと確認することができた
距離はそれなりあったが
暗がりの中、心なしか影がユッサユッサ揺れてる気もしなくない
「夏のアバンチュールってやつやん。あれ」
他のメンバーは打ち上げ花火のカウントダウンで夢中になっており微塵も気づいてないようだ
「うん。何が熱いって、みさきちゃん、彼氏おるとこよなあ」
「そういえばそうやったな。滝野も根性あるなあ」
みさきちゃんの彼氏は二つ上の西野先輩という野球サークル「中宮ウットペッパース」の部長だそうだ
instaではあんなにもラブラブ写真をあげまくってるのに
女性というものはつくづく怖いなぁと震える
まあ男も人のことを言えないが
隣に振り向くと
佐々岡が何か言いたげそうに
口をパクパクさせている
「とりあえず、ほら、みにいこや」
後ろでは、噴出系の花火と打ち上げ花火で大いに盛り上がっていた
ここで抜けても誰も気づかないだろう
佐々岡がそんな顔をしていた
_________________
私と佐々岡は
河川敷から続く堤防の階段をソロソロと上がり
「イケナイ公衆トイレ」の裏をつくよつに、堤防の上からグルリと回った
幸いにも河川敷と堤防の高さが割りかしあったため
滝野達の視界には入らないようだった
「おお、やってる、やってる...」
佐々岡は居酒屋の暖簾をくぐる
中年サラリーマンのようなセリフを囁いた
確かにここからだと、例の営みが申し分なく見える
みさきちゃんは公衆トイレの側面に両手をつけ
後ろから滝野にこれでもかと、突かれてるところだった
黒い影になりながらも
たくし上げたTシャツの下
ポロリと乳房が露出しており
リンリンとした草むらの虫たちによる合唱の中
甘い喘ぎ声がうっすらと聞きとれる
「俺がみさきちゃんの彼氏やったら地獄絵図やわ」
佐々岡の顔が歪む
「ホンマそれな。自分の彼女が他の男と体の関係をもたれるのは無理やろ。いっそのことその場で舌噛んで死んでしまうか、その場でその男を殺してしまいたい」
そういえば、「花魁道中」という映画で
そのようなシーンがあったなあと思い出す
主人公の男が好意を寄せている
ある姫君がいるのだが
彼が上司との食事会の時に
目の前で上司がその姫君を犯すという流れになるシーンがあった
タチが悪い事にその上司がかなりの目上の者であるが故に彼は何もできないのだ
男の心をフォークでエグるような
絶妙なシチュエーションをよくぞここまで
表現したものだと当時は感服したものだ
「あらまあ、爽やか少年タカシ君もそう思うんデスネ」
「そら思うよ」
「ふーん」
「しかし純愛ってなんやろな」
自分の周りでも
彼氏がいるのにセフレが5人ほどいるツレや
彼女がいるのに市内でナンパしては
週一ペースでセックスしてる奴らや
挙げ句の果てには
旦那さんがいるのにも関わらず
職場の年下の大学生と
セフレ関係にある奥様もいるのだ
「うんうん。確かになー、もう何も信じれんよな、ここまできたら」
「だから彼女とか作りたくないねん」
そもそも付き合うとは何なんなのだ
ただの口約束に過ぎないじゃないか
「付き合ってる」という形があるだけで
精神ダメージが増えるんだぞ
浮気などされてみろ
数週間は凹むに凹み
勉強やアルバイトも手がつかんだろ
その点、「付き合ってない」は気が楽だ
好きな子が他の男とキスをしようがセックスしようが
まあ、、ダメージはそれなりにあるだろうけど
付き合ってる上でされるより数億倍マシだ
それに、相手がどこかの飲み会に行くたびに
「他の男と酔った勢いで、、」
「周りに囃し立てられて、、、」
などと多くのシチュエーションに心配し
ソワソワしなくてはいけないのだ
それならばハナから付き合わなければいい
こちらもダメージも少ないし
例え何をしてもお咎めない
全く、恋愛というジャンルなどなくなればいい
「タカシ君、タカシ君、お顔が怖いですよ?」
気づくと佐々岡がタバコに火をつけていた
「もー、わからんわー」
「どないしたどないした」
「もうええんや。セフレの関係が結局一番なんや」
「お!タカシが珍しくご立腹や」
「もうな。好きな人とセックスできたらその人が誰と付き合おうと構わん。肉体関係って男からしたらあれやん。ほら、」
ピリピリして中々言葉がでてこない
「あー、うん、わかる。征服欲というか背徳感というか満足感というか」
「そう。せやねん。結局、せやねん。セックスさえできたら、もうええやん?その人の全部を手に入れたというかさ」
「うんうん。わかるぞーー」
佐々岡がえらく肯定的なので
少し気分がよくなる
「例えその子が『ワタシ、この人が一番愛してるんだー』って他の男を指名しても、セフレの関係が続けば俺はかまへん」
「いいぞいいぞーー」
「性欲ってクソやの。キスもセックスも元は性欲やんけ。性欲なんてなかったらこんな悩みなんてこの世からなくなるんや。浮気なんてものも殆どなくなるんや」
「タカシ議員、80票を獲得デス!」
「そうなんです。みなさん。人間なんてね。みんなクソなんですヨ!マイケルジャクソン以外、根本はクソofクソなんです!人間みなクソなんです!」
「タカシ議員!あっぱれです!日本男児の代弁者!」
「そうなんです!」
「しかし問題が一つあります!」
「なんだね?佐々岡くん!」
「イケないオーディエンスが二名」
目下の公衆トイレ付近から視線を感じる
殿方は顔が汗ばんでおり月明かりで
いささかテカっている
その眼差したるや
何とも筆舌しがたい表情なり
姫君はというもの
ハシタナイ格好のまま首だけをこちらに捻っている
なんだ、まだ乳房を出しているのか
まあ、なんと破廉恥な
私と佐々岡はすかさず踵を返し
電気量と同じ名前をした某ランナーの如く走り出した
ゼェゼェいいながら佐々岡が吠える
「タ、タカシ議員!!」
「な、なんや!!」
「こ、今後の日本の方針はいかに!!」
「こ、今後の方針は、、、方針は、、」
息がもたない
「全国民野外プレイ禁止や!!」
ああ、クソ。今夜も暑いな
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