もばいるふぉん

「携帯なんて置いてどっか遠くに行きたいよなー」


同じサッカー部の樋口が練習中、嘆いていた


「携帯は便利やけど、不便や。連絡取りたくない時にメールもくるし、みたくないタイムラインも流れてくるし、ジョブズは何てもんを発明したんや」


樋口のボールパスが心なしか強まった


「なんでもかんでもジョブズが発明したと思うなや。SNSとスマホは別や」


やってきたボールを地面を掘る勢いで蹴り返してみる


ドンッという音と共にボールは浮かび、青空をバックに

パラパラと土を撒いた


落ちてきた砂利が口に入り、少し後悔をする


「とばしすぎじゃボケー!」


ボールを追う桶口の声がグラウンドの奥に徐々に遠いていく


炎天下の中、申し訳ないことをした


それにしても今日は暑い


ジリジリと聞き飽きたクマゼミの鳴き声がより一層暑さを増す


体感温度が2度は上がるのではないだろうか


ああ、体操服が汗でポタポタしていて

シャツがお腹にペッタリ気持ち悪い


グラウンドの端には草むらに足を突っ込んでいる桶口が見えた


あんなに飛んだのか







携帯の無い生活か


今となっては必要不可欠な存在だし

いざ無くなるとどうなるのだろう


もしここで、メンインブラックにもでてきそうな黒ずくめのスーツ姿の男達に

訳のわからないド田舎にドス黒いクラウンで連行され

更には携帯を取り上げられ

さあ、ここから大阪まで帰ってください

なんて言われた日には果たして帰れるだろうか


乗り換え案内は開けないし

google mapも開けない

音楽も聴けないし

美味しいごはん屋さんも調べることができない


先人たちは凄いな

一体どう乗り越えていたんだ


桶口がボールを脇に挟み

こちらに走ってくるのが遠くに見えた


ここからでも憤り満載の表情が分かる




携帯を置いてどこか遠くにか

現実から離れるのもありかもしれない


そういえば、青春18切符の販売期間は先週からだったっけ


桶口がグラウンドのど真ん中からボールを渾身の力で蹴るのが見えた

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