イチから始める恋愛攻略(トゥルーエンド)

鉢巻素

プロローグ

「好きです。僕と付き合ってください!」

「ごめんなさい」


 八坂悠介にとって、卒業式後の告白はこれで三度目。

 この子もダメだった。


 小高い丘の上に立つ真純学園の庭園からは、岬が見える。 まだ冬の冷たさの残る風が二人の間を抜ける。


 庭園から見える校庭では、学友との最後の時間を惜しむように、校門へとゆっくり歩いていく卒業生たち。


「もういいかしら。皆、待たせてるから」

  彼女はそう言って、背を向けた。

「待っ......!」

 彼女を呼び止めようとした瞬間。学校に大きな鐘の音が響いた。卒業生の新たな門出を祝う、「卒業の鐘」だ。


 瞬間、岬に向けていた背中に恐怖を感じた。

 悠介の髪が背後へとなびいていく。

 突如、現れた異空間への歪。

 闇の口が開いていた。


 悠介は、その場から逃げようとするも、ジリジリと異空間への裂け目へと引きずり込ま れていく。

 片手。

 片足。

 異空間に入り込んだ瞬間に、高速の刃で削られているかのように溢れんばかりの血が吹き出す。


(なんで、なんで、いつもこうなるんだよ。どうして、俺が。 痛い痛い痛い痛い......! あぁぁぁ......!!)


 痛みが意識を飲み込んでいく。 体までもが異空間に入り込むと、大量の血しぶきだけを残して、悠介はあとかたもなく消えてしまった。


 目が覚めると、真っ白な空間に倒れ込んでいた。大きなため息をついて、膝から立ち上がる。


 目の前に、牛の頭蓋を被り、漆黒のマントを羽織った悪魔のような化物が、カラカラに乾いた古びた木の椅子に座ってこちらを眺めている。

 手や腕は、黒い鋼のような防具で覆われていて、素肌は確認できない。


「残念だったな。だが、こうやってまた会えて嬉しく思うよ」

 不気味な低音の声と、異様に明るい声が混じっている。

「もう、勘弁してくれ。一体、なんで俺がこんな事に巻き込まれないといけないんだ」

 過去何度も繰り返した言葉を吐いた。当然、化物の返答も同じである。

「運が無かった。それだけだ」

 もうそれ以上、お互いの口から出てくる言葉は無かった。


 悠介は天を見上げた。

 空に太陽が浮かんでいる。真っ白な空間に存在する、唯一の物体。

 よくみるとそれは太陽ではなく、輝く無数の歯車が集まってできた球体だった。


「さぁ、行け。次こそは成功させ、この無限のループを脱してみろ」

 歯車の太陽から、カチッと機械音が一帯に響いた。


 再び悠介の背後の空間が割れた。砂のようにサラサラと分解され全身が吸い込まれていく。今度は痛みはない。あるのは虚無感と、それから生まれた大きな倦怠感だ。


「もう二度とお前の顔なんて見てたまるか。次こそはループから抜け出してやる」


 こうして、八坂悠介の物語は再び始まる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イチから始める恋愛攻略(トゥルーエンド) 鉢巻素 @hachimakimoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ