風の日
それは風の強い日だった。
木の葉が宙を舞い、道ばたに捨てられたビニール袋が俺の顔めがけて飛んでくる。俺はそれを手でかわし、前の標的を見据える。
マフラーで首元を暖めた女生徒。今日の標的は彼女だ。
俺は前を征く彼女と一定の距離を保ちながらその後を追う。
今日の作戦はこうだ。
女生徒の後を歩き、強風で飛ばされた彼女の荷物を拾ってそこから親交を深める。これほどの風の強さなら彼女の私物が飛ばされてくるのも時間の問題だろう。
俺は彼女の後を追い、ゆっくりと時機を待った。
どれくらい歩いただろうか。マフラーを飛ばすほどの風は未だ吹かず。進んできた道は俺の家とは真逆の方向。これ以上は帰るのが面倒になる。今回は諦めてまた別の日を狙おうかと考えていたそのとき、一陣の風が吹き付けた。
「きた!」
この勢いなら彼女のマフラーは、飛ぶ。
だが、誤算があった。風は俺の後方から吹いた。つまり彼女のマフラーは前方へ飛ぶ。
俺は駆け出した。マフラーが飛んでも彼女より先に拾わなければ意味が無い。
足音に気が付いたのか彼女が俺の方を振り返る。そこへ風が吹き付ける。そして、マフラーが彼女の首から離れた。
よし! 後は拾って手渡すだけだ。
飛ばされゆくマフラーを掴もうと、女性徒の手が宙を泳ぐ。そして、自由になったスカートは風にされるがままとなる。
彼女を尻目にそのまま立ち止まることなく抜き去ると、俺は地面に落ちたマフラーを拾い上げた。
マフラーについたゴミを手で叩いて払いながら、顔を朱に染めスカートを片手で押さえている女性徒に近づく。
「これ、飛ばされましたよ」
俺は、にこやかに、そして偶然を装い彼女にマフラーを手渡した。
「――っ」
彼女はなんともいえぬ表情で、ひったくるかのようにマフラーを俺から奪い取ると、スカートを押さえながら無言で歩き去っていく。
「一体何だってんだ……」
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