高校の頃書いたショートショート
雨野 優拓
雨の日
俺は常に傘を持ち歩いている。
理由は簡単、急な雨で困っている女の子となし崩し的に相合傘をするためだ。
そして今、その時が来た。
昇降口前で空の様子を窺いつつ困ったような表情を浮かべる女生徒.
俺は彼女の姿を捉えるとゆっくりにじり寄った。高鳴る胸の鼓動を抑えつつあくまで偶然を装い声をかけた。
「俺、傘持ってるんだけど、もしよかったら使う?」
女生徒がこちらを振り返る、それと同時に彼女の長い髪がふわっと舞う。甘い香りが俺の鼻腔をくすぐる。この香りは、メリットかパンテーンか、はたまたロクシタンか? そんな俺の思考は彼女の返事で遮られる。
「え、いいの? ありがとう!」
この言葉をどれほど待ち望んできたことか! 夢が叶う! そう思うと妙に緊張する。緊張感からかトイレに行きたくなってきた。
「ごめん、ちょっとトイレ!」
鞄を彼女に託して、俺は便所に走った。
「ふぅ~スッキリ」
用を足し昇降口に戻ると彼女の姿がない。
逃げられたか、まあいつものことだ。
床に置かれていた鞄を拾い上げ、新たな標的を見つけようと辺りを見回す。そこで俺は衝撃的な光景を目の当たりにした。
先ほどの女生徒が、男子生徒と相合傘をしながら外を歩いていたのだ。これほど屈辱的なことはない。
「今日はもう、帰ろう……」
鞄から傘を取り出そうと手で探る。が、それらしい感触がない。鞄の中身を床にぶちまけて確認するも、やはりない。
「まさか……」
雨がいっそう激しくなる。
遠くに見える女生徒の横顔には笑みが浮かんでいた。
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