叶わない恋らしきものを抱く青年と傍観者でありたい少年の話

立花 零

唐突に始まります

「君は彼女に好意を抱いている。

          僕はそう思うよ」


「あってるね。確かに僕は彼女にそういう気持ちを抱いてるよ」


「まぁ、見てすぐわかるかって言うと・・・

よく観察してないとわからないものなのかもしれないけどね」


「そうだろうね。

  僕もそこまであからさまに彼女をみてはいないし、そんな様子を誰かに観察されているとも思ってない」

 

「そして、その好意を彼女に伝えようとしていない・・・僕にはそう見えるよ」


「これは僕の自己満足でしかないんだよ。

  どうでもいい奴からの好意なんて邪魔なだけだ」


「彼女が君のことをどうでもいい奴だと思っているとしたら、君がそのことを伝えたとしても、その好意のことさえもどうでもいいことになるんじゃないのかな?」


「だとしても。

  彼女が僕をどうでもいい存在と思っている以上、

 伝えるに踏み切らない理由としては成立していると思うけど」


「僕は日々、彼女に気持ちを伝える奴らを見ているよ。

     飽きるほどにね」


「僕も日々、教室に来て彼女を呼び出す奴らを飽きるほど見てる」


「今彼女が誰のことも相手にしていないからって、

 油断しているんじゃないか?」


「油断?」


「彼女が誰も選ばないと・・・

  そう思っているから、自分は傍観者でいられるんじゃないのかな?」


「君には僕がそういう奴に見えてるんだね」


「あくまで仮定としての話だよ」


「僕は、彼女とそういう関係になりたいとは思っていないんだ。


 だから、もし彼女が誰かを選んでそういう関係になっていたとしても、嫉妬とか、そういう類の感情は持たないんだろうな」


「じゃあどうして好きでいるの?」


「さぁ、どうしてかな」


「君の好意が、ただの友達に向ける《like》だったとしたら?」


「どうだろう。

あいにく彼女とは同じクラスなだけで、話すことはないし、だから友達に向けるものだと言われてもよくわからないよ」


「君は恋を知らないのかい?」


「そうなのかもしれない」


「じゃあ、さっきの質問に答えが出せなかったとしても仕方がないと思うことにしよう」


「いっそのこと、君が僕の心の中をのぞいて、この感情の正体を教えてくれればいいのに」


「奇遇だね。僕もそうしたいと思っていたところだ。

まぁ無理だろうけど」


「だろうね。さすがにそれは僕でも知ってた」


「答えのわかっていることを僕にお願いしようとしていた君の気持ちが知りたいよ」


「ほんの冗談だよ。

これだけ長く話していると、なんだか君との距離が縮まったような気がしてね」


「確かに長いね」


「気にしないで。僕の勝手な戯言さ。

君はこういうことを言われたら困りそうだ」


「そう見えているんだね」


「少なくとも僕にはね」


「ならもう君は随分と僕のことを知っているのかもしれないな。

実は少し困っていたんだよ」


「当たっていたのなら何よりさ、以後気をつけるよ」


「この時間も無駄ではなかったってことなのかな」


「君はそう思っていたのかい?」


「今は思っていないさ。


でも、この会話が終わりのない言い合いになってしまっていたとしたら、そう思っていたのかもしれないな」


「言い合いか・・・今の状態もあながちそうなってしまっている気がするけどね」


「ただの言い合いじゃないさ。僕も君もこの会話で成長できている気がする。

意見の異なる二人の会話としては、いい流れと言ってもいいんじゃないかな」


「それは確かに・・・

君は面白い考え方をするね」


「褒めているのかはわからないけど、とりあえずありがとう」


「どういたしまして」


「じゃあ僕はそろそろ行くよ。サボりも大概にしないと」


「真面目だな。そうは見えなかったんだけど」


「真面目って見解に素直に頷くことはできないかなぁ。

ここは僕のお気に入りの場所なんだ」


「つまり常習犯ってことか・・・僕のイメージは間違っていなかったんだね」


「いつの間にか君も僕のことを知っていたらしいね」




fin・・・


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叶わない恋らしきものを抱く青年と傍観者でありたい少年の話 立花 零 @017ringo

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