第9話 CLUB STRADA

「RADIANT PEARL」


 その日のライブのオープニングナンバーは、リズミカルに扉をたたくようなティムの軽快なギターリフで始まる、「RADIANT PEARL」。イントロを奏でるヒューゴのエレキギターは、さながら第二のヴォーカルである。フィルのヴォーカルが入ると、リズム隊はさらに波に乗り、ジミーに至っては、楽しみまくった顔をして、堅固なベースを響かせる。思わずヘドバン(頭を上下に振るアクション)をしたくなるメロディーに乗せ、音程もリズム感も文句なしのフィルの歌声が、ライブハウス「CLUB STRADA」いっぱいに響く。


 キャッチーなメロディーのサビに入ると、ジミーがコーラスに加わり、客席のファンも一体となって歌う。間奏のギターの競演は、まるで戦士となったティムが天駆ける勢いで聖剣を振るうようなギターサウンドから、ファンのハートをピンポイントで撃ちまくるレーザー光線のようなヒューゴのギターサウンドにバトンタッチされた。間奏の終わりには、ジミーの重厚なベース音が静かに走り、再びフィルの伸びやかなヴォーカルが始まる。


 2回目のサビに入ると、リズム隊全員がコーラスに入り、観客は腕を前後に振って波をつくった。1曲目から、「LOVE BRAVE」とファンとが、完全に一体となったのだった。



「FARAWAY」


 ジミーの奏でる重厚かつ正確なベースに支えられ、イントロから切なさ全開のミディアムナンバー、「FARAWAY」。Aメロに続くBメロに入ると、リズムを刻む安定した彼のベースを聞き、ファンも体を軽くアップダウンさせてリズムを取る。


 フィルのヴォーカルが光るサビのあとの、ヒューゴの秀逸なギターテクが魅せる間奏は、集まったファンを酔わせた。2回目のBメロからサビにかけても、ジミーの「縁の下の力持ち」ベースに支えられ、他のメンバーがそれぞれの役割をうまく果たし、切なさの余韻を感じさせるティムのギターラインをもってフィニッシュした。



「Ashen Bell」


 このナンバーは、その日のライブを最も盛り上げた曲の一つと言っても過言ではない。どこか哀愁を感じさせるヒューゴの見事なイントロのアルペジオに、ティムが目を半開きにして、哀愁となまめかしさがうまくマッチしたメロディーを乗せてくる。そしてフィルが歌い始め、テンポは一気に疾走感を増す。歌詞が本格的に始まる前のギターメロディーの間、ヒューゴとジミーがお互いに向かい合ってそれぞれの音をぶつけ合い、ティムは横方向にヘドバンをしながらスピード感あふれるメロディーを刻む。

 曲の途中で、ジミーがコミカルにヒューゴの後ろから出たり隠れたりを繰り返しながら演奏し、ファンの笑いを誘った。曲の間奏のギターソロの主役はヒューゴであったが、ジミーも負けずにお約束の「変顔」をしながら安定感ありまくりのベースを響かせた。


 間奏の後半では、メンバーが1カ所に集まり、ほぼ中央に居るフィルが、曲のリズムに乗りながら両手で“Come on! Come on!”とするようなアクションをした。楽器隊は、そんな彼に応えてノリノリで魅力的なギターハーモニーを披露した。チームワークばっちりなパフォーマンスに、会場全体が沸きに沸いた。


 2回目のサビでは、ヒューゴとジミーがハグを交わし、フィルはティムの肩を抱きながら歌った。こうして、曲のフィニッシュまで、ノリノリで圧巻のパフォーマンスが続いたのだった。



「SCARLET SHOCK」


 「Ashen Bell」といい勝負をしそうな、激しくアップテンポなナンバーで、メンバーそれぞれが攻撃性あふれるテクニックを曲の至るところで輝かせる。フィルは、縦に横に跳ねたり、ステージに寝転んで客席に顔を向けて歌ったりとすさまじいアクションをしながら、過激、もとい色っぽい歌声を響かせる。


 割と長い間奏では、ティムの聖剣の斬撃、ヒューゴのレーザービームの集中射撃、ジミーの重量感と疾走感を兼ね備えた爆走のようなサウンド&テクニックが文句なしに溶け合い、来場した全てのファンのハートを酔わせまくった。― 彼らの勢いを止めるものは何もなかった ―


 この曲そのものと、会場の熱気のすごさは、どんな言葉も十分に表現できない。ただ確かなのは、もしもこの会場に作者が居たら、イントロ3秒でKOされる率100%だっただろうということだけでしょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る