The Evil Castle 40
床の上に膝を突いた体勢から、タイラントがばたんと横倒しに倒れ込む――ことここにいたれば、もはやキメラのいかなる特殊能力も警戒する必要は無い。警戒の対象がタイラント一体である以上、どの様な攻撃手段であろうと攻撃態勢を整える前に潰すことが出来る。
よもや自分よりはるかに小さな体躯の相手に力負けするとは思っていなかったのだろう、タイラントが痛みと怒りのこもったうなり声をあげる。起き上がろうとしたタイラントの、今度は逆のこめかみに廻し蹴りが炸裂し、キメラの巨体は投げ棄てられた土嚢の様に再び床の上に倒れ込んだ。
「ところで――」 どうせ言葉が理解出来るとも思えないが――そんなことを考えながら、アルカードはキメラに声をかけた。
「せっかくだから、新技開発の実験台にでもなってくれるか?」
そんな言葉をかけると同時に――脚甲の上から脛を鎧う
続けて、アルカードは再び身を起こそうと試みたタイラントの背中に爪先で蹴りを叩き込んだ。
重量操作を最大値まで引き上げ、
だがそれだけではない――接触と同時にタイラントの巨体が絶叫とともに壁際まで吹き飛んで、設置されていたスピーカーを叩き潰す。脚甲に纏わりつかせた
「ふん、悪くはないな」 四肢を鎧う装甲すべての姿が陽炎の様に揺れているのを確認して、アルカードは唇をゆがめて笑った。
どういうことかというと、
アルカードの場合は
なお、アルカードの場合正確には負荷軽減機能の限界値は五十キロ程度で、甲冑の手甲の重量がほぼ五キロ。そのぶんも込みにして運用しているので、アルカードが
逆に言えば
運動エネルギーの計算式は重量と速度の自乗の積。重量が同じであれば、単純に速いほど衝撃力は大きくなる。
衝突の瞬間に
「もう少し練ったほうがよさそうだが――」
そんなつぶやきを漏らして、アルカードはゆっくりと笑った。さすがに思いつきで試したので、十全の一撃ではなかった。
「――ま、悪くはないな」
ぐるぐるとうなり声をあげながら、タイラントが身を起こす。
「おまえは広い場所で戦いやすくなったのかもしれねえが――」
今の攻撃で数ヶ所骨折しているのだろう、立ち上がろうとして床にうずくまり、苦悶の声をあげるタイラントに向かって、
「――あのクソ狭い場所で存分に威力を振るえなかったのは、こちらも同じでね」
ギャルルルルルル……
うなり声をあげながら身を起こすタイラントに向かって恋人の抱擁を受け入れるときの様に軽く両腕を広げ、アルカードは続けた。
「バラバラにしてやるぞ――」
死の宣告を口にしながら、アルカードは再構築した
「――化け物!」
ギャルルアアアッ!
咆哮とともに、タイラントが床を蹴る――それに応じて、アルカードも床を蹴った。振り下ろされてきた放熱爪を、再び
切断面から血と、おそらくは体内で発生した熱を鈎爪に運んで放熱するための熱輸送液なのだろう、オリーヴオイルに似た色合いの液体が噴き出す。自動車用の
苦悶の声をあげながら、タイラントが左腕の振動爪を振り翳す――だが次の瞬間には、返す刀で繰り出した一撃で振動爪は指ごと切断されている。鈎爪が斬れないなら指なり手首なりを斬ればいい、単純な答えだ。
ギャルルウウウッ!
手首を別の左手で押さえて、タイラントが悲鳴をあげる――苦悶の声をあげながら、タイラントが左腕の電撃爪でアルカードの立っている空間を引っ掻く様に薙ぎ払った。
ギイイイイイイ――!
それでこちらを仕留めたと思ったのか、勝ち誇った様に声をあげるタイラントに、アルカードは声をかけた。
「――残念」
その言葉にタイラントが視線をめぐらせて、振り抜いた自分の左手を見遣る――指の一本に掴まり、両足を鎧う
手放した
「ついでだからもう一発いっとくか?」 そう声をかけて、トリガーを絞る。
右目が治りきっていないところで今度は左目に銃弾を撃ち込まれて、タイラントが悲鳴をあげる――スイートルームで撃ち込んだときと同様着弾の衝撃で眼球が膨れ上がり、伝播した衝撃波で強膜が細かく裂けて卵の白身の様な粘り気のある白濁した液体が噴き出した。
対吸血鬼用のフランビジリティー構造を持つスラッグ弾と
悶絶しながら仰向けに倒れ込んだタイラントの手から離れて、アルカードは床の上に着地した。
ゴルルルル……
それでもまだ動けるのか、タイラントが――さすがに脳震盪でも起こしたのか、若干動きが覚束無いが――身を起こした。
「さっすが、無駄にでかい図体してねえな」 感心した様に唇をゆがめ、アルカードは適当に拍手をした――やる気の無い拍手が気に障ったわけでもないだろうが、タイラントが身を起こして咆哮をあげる。
それを無視して、アルカードは懐から取り出した
タイラントに向かって足を踏み出しながら、手にした
アルカードはほぼ水平の軌道で
掌で下顎を突き上げてタイラントの頭をのけぞらせ、開いた口を無理矢理に閉じさせる――次の瞬間タイラントの口の中で
弾け飛んだ安全レバーが、床に落下してぽちゃんと音を立てる。
口を閉じた状態で
破片として飛散する細切れの
強靭な筋肉に絡め取られて、突き込んだ漆黒の曲刀が鋒から十センチ程度のところまで喰い込んで止まる――
右足を引いて重心を沈め、右手を体幹に引きつける――
ギャルルアアア!
咆哮をあげて、タイラントが右腕を振り翳した――両目が潰れていても耳なり鼻なりが利くらしく、きちんとアルカードのほうを向いている。
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