Dance with Midians 15

 

   *

 

 過剰な負荷を強制された心臓が、全身に酸素を送り届けるため早鐘の様に脈打っている――酸素供給の追いつかなくなった体が休憩を要求し始め、装甲で鎧った手足は鉛の様に重い。

 だが体の要求をすべて無視して、ヴィルトールは全身甲冑を身につけたまま彼が育った屋敷までの道のりを駆け抜けた。

 門の前で足を止め、ようやく負荷の止まった体が酸素を求めて喘ぐ。

 左手を膝について崩れ落ちそうになる体を支え、右手を胸元に当てて息を整えながら、ヴィルトールは屋敷を観察した――表から見る限りではさしたる異常は無い。

 人の気配もしない、物音も聞こえない。この屋敷には使用人も含めれば三十人以上の人間が住んでいるはずだ。

 眠り込む様な時間ではない。この屋敷にもなにかあったのだ。なにより――この噎せ返る様な血の臭い。

 

 逸る気持ちを抑えて呼吸が収まるまで待ったのは、呼吸の乱れた状態では戦えないからだった――もし屋敷の中に敵がいて戦闘になれば、呼吸の乱れた状態では戦えない。

 ある程度脈拍が落ち着き行動能力が回復したと判断して、ヴィルトールは最後に一度深く息を吸って吐いた。

「……よし」

 足を踏み出しかけ――門の脇に蹲った黒い塊がもぞりと動くのを見て取って、ヴィルトールは抑えた声で誰何した。

「誰だ?」

「あ――若、様?」 顔は見えなかったが聞き覚えのある男の声に、ヴィルトールはあわててそちらに駆け寄った。

 月は明るいが、その姿は木陰に隠れて見えづらい――だがそれでも、少し近づけばそれが誰かはすぐにわかった。

「……ゲオルゲ? しっかりしろ――なにがあった?」 蹲ったまま激しく咳き込んでいる初老の男の肩に手を置いて、ヴィルトールは状況を問うた。

「公爵、が、ここに……」

 途切れ途切れにそこまで言って、ゲオルゲが再び激しく咳き込む――『公爵』だと?

 ワラキア公国において公爵という言葉が示すものはひとつしかない――ワラキアは公国であるため国主である公爵が最高位で、したがって公爵はひとりしかいないからだ。

 すなわち――現ワラキア公ヴラド・ドラキュラ公爵。

 だが、そもそもドラキュラ公は――暗殺者の兇刃に斃れてすでに死んでいる。ワラキア公国軍側を混乱させるためにオスマン帝国軍が流した故意の虚偽情報の可能性もあるから、小耳にはさんだ話を鵜呑みには出来ないが。

 だが、虚偽情報だったとしても、公爵がなぜここに来るのだ?

 とはいえ、今それを言ってもゲオルゲを混乱させるだけだ。ヴィルトールは話の続きを促した。

「公爵がここに来てる?」

「そうです、それ、で、公爵様が屋敷の方々を――」 またも咳き込むゲオルゲに、ヴィルトールはそれ以上しゃべるなと手で合図した。

 屋敷の中に『公爵』が――否、その『公爵』はゲオルゲの勘違いだろうが、屋敷に敵が現れたのは間違い無いということだ。屋敷にいるはずの養親と母親、使用人たちのことを思い出して、背筋に悪寒が走る。

 『――

 

 ――

 ひどい血の臭いだ――錆びた鉄の臭い。肩に手を添えると、左肩がぞっとするほど大量の血で濡れているのがわかった。

 

「若、様――」

「ああ、聞いてるよ。なんだ?」 こちらに向かって伸ばした手を握り返してやりながらそう返事をすると、

「喉が、渇いて――」

「わかった」

 その言葉に、ヴィルトールは腰元の革の水筒に手を伸ばした。おそらくこの出血では、彼はもう助からない――なら水くらいは好きなだけ飲ませてやろう。

「ほら、水だ」

「違い、ます、若様」

 口元に近づけられた水筒を拒否する様にかぶりを振るゲオルゲの言葉が先ほどよりも明瞭になったことに眉をひそめながら、ヴィルトールはうなずいた。

「なんだ?」

「水じゃない……俺がほしいのは――」 言葉とともに――ゲオルゲがゆっくりと顔を上げる。こちらを見上げるその視線に悪寒にも似た違和感と、背筋に氷柱を捩じ込まれる様な悪寒を覚えて、ヴィルトールは反射的にゲオルゲの体を放り出して後方に跳躍した。

「――血だぁッ!」 放り出された次の瞬間跳ね上がる様にして起き上がりながら掴みかかってきたゲオルゲに、ほとんど条件反射で手にした革の水筒を投げつける――数歩後退して間合いを作り、ヴィルトールは長剣を正眼に翳して身構えた。

 それまで息も絶え絶えに蹲っていたのが嘘の様に、水筒を手ではたき落としたゲオルゲが立ち上がってこちらを睨み据えている――ヴィルトールはそれを目にして、思わず一歩後ずさった。

 いったい彼の身の上になにが起こったのか、闇の中で篝火の様に爛々と輝く紅い瞳がこちらを見据えている――全身が力感に満ち、すさまじい殺意の劫火が瞳の奥で燃えていた。

「ゲオルゲ? どういうつもり――」

「血だ――血を寄越せぇぇッ!」 裏返った絶叫とともに、ゲオルゲが地面を蹴る。瀕死の重傷患者とは思えない様な俊敏な動きで瞬時に内懐まで肉薄し、ゲオルゲは右腕を振るった。

 なっ――

 顔を引っ掻く様な軌道の攻撃を、上体を仰け反らせながら一歩後退して躱す。恐ろしく速い――地上に触れうる者無しとまで言わしめたヴィルトール・ドラゴスが、危うく躱し損ねるほどの速さだ。

 素人特有の出鱈目な動きでなかったら、躱せなかったかもしれない。左手を伸ばして掴みかかってきたゲオルゲの腕の外側に踏み出して攻撃を躱し、同時にその左手を捕る。手首を掌側に折りたたむ様にして籠手を返しながら、足を刈り払い――

 芋袋を投げ棄てるみたいにして放り出され、ゲオルゲが先ほどまでの今際の際の様が嘘の様に機敏な動きで一回転して立ち上がる。ゲオルゲはこちらに向き直ると、そのまま再び突っ込んできた。

 『血を寄越せ』というのがなにを意味するのかはわからないが――ヴィルトールを捕まえようとしているのだろう、ゲオルゲが再び手を伸ばす。

 ヴィルトールは小さく舌打ちを漏らして、こちらの体を掴んで引き寄せようと伸ばされた右手を右手で迎え撃った。右腕の外側からゲオルゲの腕を押しのける様な動きで――だが、無論ただ押しのけただけではない。甲冑の手甲から張り出した出縁フランジを撃ち込む様にして、ゲオルゲの右腕の下膊に自分の右腕の下膊を鎧う手甲を叩きつけたのだ。

 長さも無く遠心力も加わらないので、破壊力では劣るものの――薄い出縁フランジは線状に力が集中し、出縁鎚鉾フランジメイスで殴りつけたときと同じ様な打撃効果を発揮する。甲冑相手には力不足だが、剝き身の箇所に撃ち込むなら十分な効果がある。

 生身の腕に手甲の出縁フランジを叩きつけられ――びきりと音を立てて橈骨と尺骨が砕ける感触が伝わってきた。

 さすがにこれは効いたのか、ゲオルゲが小さなうめきを漏らして一瞬動きを鈍らせる。

 そのまま手首を返して腕の外側を滑らせる様にして手を伸ばし、ゲオルゲの肩を掴んで引き寄せる――すれ違う様にして放り出され宙を泳いだゲオルゲの背中を、ヴィルトールはほとんど加減無く突き飛ばした。

 押し出す様にして突き飛ばされたゲオルゲが突進の勢いを殺せずに、背後にあった巨木の幹に顔面から激突する――昏倒していてもおかしくなさそうな音が聞こえたが、ゲオルゲは平気な顔をしてこちらを振り返った。

 グフーグフーと不気味な呼吸音を立てるゲオルゲの口元からは涎が伝い落ち、手は爪が掌の肉に喰い込むほどの力で握り込まれている。

 明らかに正気を失った表情で、ゲオルゲがこちらに向き直る――鞘走らせた長剣の鋒を鼻先に突きつけ、ヴィルトールは鋭く命じた。

「それ以上近づくな」

「血だ――血だぁッ!」 こちらの命令など聞いてもいなかったのだろう、声をあげて――ゲオルゲが地面を蹴った。

 

   *

 

「こんにちは――」 音大生のフリドリッヒが多重録音を繰り返して制作したオリジナルの楽曲が流れる店内に、カランという音とともに明るい声が響き渡る。

「やあ、こんにちは」

 明るい笑顔とともに入ってきたふたりの女子大生を、ジョーディ・シャープは笑顔で出迎えた――去年の春あたりから、留学先の大学で時折見かける顔だ。たがいに気づいてから時々話す様になったが、名前は知らない。

「ふたりだけ?」

「あ、すぐにあとふたり来ます」 おそらく練習をしたいからだろう、髪の長い女の子が若干発音の怪しい英語でそう答えてくる。ジョーディもアンも英語の発音には訛りがあるのだが、それでも練習台や発音の参考程度にはなるだろう――少なくともオーストラリア人の英語の様な極端な訛りではない。実はこの店の従業員の中で一番正統派の英語クィーンズ・イングリッシュに近い綺麗な英語を話すのは、イギリス人のジョーディやアンではなくアルカードなのだが。

「はい、じゃあこちらに」 そう言って、ジョーディはふたりを店の奥のほうの席に案内した。簡単なパーティションで区切られた、四人がけの席だ。

 大きく開いた窓の前で、民家と隣接しているために特に眺めがいいわけでもないが、窓の外の店の敷地内には何本か木が植えられており、なんとなく落ち着くということで彼女たちからは評判がいい――季節によっては樹上や軒下に燕が巣作りしている様子も見ることが出来る。

「あれ? 今日もあの店員さんはいないんですか? 金髪で髪の長い――」

 ふたりのうちひとりが歩きながら店の中を見回して、そう尋ねてくる――彼女が言っているのはアルカードのことだろう。

 今日も、と言ったのは、アルカードが先週の半ばから香港に行っていてずっといなかったからだ。というよりここ二、三ヶ月の間、アルカードはロンドン、コンスタンティノーブル、イスタンブールにプラハ、ブカレスト、ニューデリーに台北と、海外旅行していたのだ――彼はたいがい短い旅程ながら、ちょくちょく店を留守にする。

 それは老夫婦も承知のことだし、彼にとってはそちらが本業なのだからある意味仕方が無い――仕方が無いが、なにをするにもああ見えてくそ真面目に取り組むタイプなうえに、なにをやらせてもすこぶる優秀な男なので、いるときといないときで周りに廻ってくる仕事量の差が激しい。特に力仕事が。

 だから彼はたいがい店の日程に合わせて、日持ちのする食材の入荷が終わったあとや重い飲料類の荷受けが終わった後から出発する様に日程を組んでいるのだが、それでも進捗によっては二週間以上店を空けることもある――今の様に比較的人の多い時期ならいいのだが、バイト従業員の学業の状況によっては老夫婦だけになってしまうこともあり、そういった時期はかなりの負担がかかる。なにより、力仕事を全部任せて残りはホールなり調理なりに集中していられるのが大きい。

「ああ、今日は出てきてるよ――土曜日まで香港に行ってたんだ。今日は溜まってた事務処理と倉庫整理だね。昼までかかるって言ってたけど、でもそろそろ終わっててもいい頃合いだと思うけど」 スイス人の父方の祖父から三代にわたって受け継いだロレックスのクロノグラフに視線を落として、ジョーディはそう答えた。

 視線を転じて、バックヤードへの入口へと投げる――まだ作業中なのか、アルカードはホールに出てきていない。

 ここしばらくの事務仕事が溜まっているから忙しいのだろう――女子大生ふたりは講義の無い時間帯なのか少し早めに来店しているが、もう少しすると近くにある市役所や会社の職員がやってきてにわかに忙しくなる。

 もしかすると、そのときに引っ込まなくても済む様に、今のうちに食事でもとっているのかもしれない――そんなことを胸中でつぶやいたとき、アルカードがホールに顔を出した。

 まだ十一時過ぎで昼食の時間帯には少し早いためにテーブルがひとつしか埋まっていないことを確認すると、こちらに視線を向け――ふたりが手を振っているのに気づいてかすかに笑みを見せる。彼はそのままホールに出ると、献立表を手にとってこちらに歩いてきた。

「やあ、こんにちは」

「こんにちは。お久しぶりですね」

「はは、ここしばらく留守にしてたからね」

 アルカードはそう言って笑うと、メニューを開いてテーブルに置いた。

「ふたりだけ?」

「あとからふたり来るそうだ」 ジョーディの言葉に、アルカードは小さくうなずいた。

「香港に行ったんですよね? どうでした?」

「うーん、予定が過密で観光とかして回る暇は無かったなぁ――もう一日二日あればね」 土日だったんだし、回ればよかったかな? そんなことを言いながら、彼はわずかに首をかしげた。

 店の奥のほうから、明るい笑い声が聞こえてきている。

「なんだか賑やかだな」

 ジョーディの言葉に、アルカードがそちらに視線を向けてうなずいた。

「ああ、凛ちゃんと蘭ちゃんが来てる」

 そう答えてから、アルカードはそれは誰だろうという表情を見せている女子大生ふたりに向かって説明した。

「オーナーご夫婦のお孫さんだよ」 アルカードがそう答えたとき、舌足らずな声で彼の名を呼びながら、幼い少女が顔を出した。

 混血の結果本来の人種的な特徴はとどめていない、金髪に緑がかった青い目の少女だ。

「こっちだよ、凛ちゃん」 アルカードがそう声をかけると、少女は携帯電話を手にこちらに向かって走ってきた。アルカードの前で足を止め、手にした携帯電話を差し出して、

「アルカード、電話代わって」

 アルカードはかがみこんで携帯電話を受け取ると、少女と視線を合わせて、

「誰から?」

「池上のおじちゃん」

 その遣り取りが微笑ましかったのかくすくす笑っているふたりを見上げてから、少女はぺこりとお辞儀をして店の奥に引き返して行った。

「あ、電話切れてる」

 アルカードは液晶画面を見下ろして、そんなことをつぶやいた――『閉じたときの動作』設定が終話になっているのだろう。

「ジョーディ、ちょっとかけ直してくる」

「わかった」

 じゃあまたあとでね、と女子大生たちに笑いかけてから、アルカードはバックヤードに向かって歩いて行った。

 

   †

 

「あ、アルカード」 アルカードが事務所の扉を開けて入って来たのを見て、ふたりの少女と向かい合わせにテーブルについていたアンが顔を上げる。どうやらふたりの宿題を見ていたらしく、テーブルの上には問題集が拡げられていた。

 凛はまたテーブルについて算数の問題集を前に難しい顔をしている。凛よりふたつ年上の蘭は、国語の書き取りに苦心している様だった。

「ごめん、止めたんだけど出ていっちゃって」

「ああ」 アンの言葉に気にしてないという様にかぶりを振ってから、アルカードはパソコンを置いた机の椅子に腰を下ろした――携帯電話を開き、通話履歴の一番上にある『池上亮次』という名前を選んで発信ボタンを押す。

「はい、池上モータースです」 よく工場の設備を借りに顔を出している整備工場の社長が、一コールで電話に出た。

 聞き慣れた低い声に、わずかに口元を緩める――それからアルカードは名乗りを上げた。

「池上さん? アルカード・ドラゴスですが」

「おう、どうした? 凛ちゃんが出てから電話切れちまったが」

「すみません、電話閉じたから通話が切れちゃったんですよ。どうしました?」

「そうそう、すまねえな、仕事中に。ちょっと時間あるか?」

「ええ、少しくらいなら」

「あのな、おまえさんが前に乗ってたコルベットなんだけどな」

「はい?」 数ヶ月前に対向車が突っ込んでくる事故で全損し廃車になった一九七一年型のシボレー・コルベットのことを思い出して、アルカードは眉をひそめた。

「ほれ、おまえさんスペアのエンジンを持ってただろ? LT1のやつを。あれ、まだ持ってるか?」

「ええ、使いもしないまま物置の中に放り込んでありますけど」

「それなんだけどな、さっき知り合いのショップの社長から電話がきてよ。客が七一年型をレストアしてるらしいんだが、程度のいいエンジンが無くて困ってるんだそうだ。うちの客――おまえさんのことだけどよ――が一台持ってるって話したら、紹介してくれないかって言い出してな。先方に紹介していいか聞こうと思ってよ」

「なるほど――かまわないですよ。紹介してください」 その言葉に、池上が安心したのかほっと息をつくのが聞こえた。

「ありがてえ。じゃあとりあえず、おまえさんのほうにも番号教えとくよ。〇八〇――」

 池上の行った番号をそらで暗記し、アルカードはひとつ注文をつけた。

「電話は十八時半くらいにしてほしいと伝えてもらえませんか? ちょっと今すぐは厳しいので」

「わかった、そう伝える。悪かったな、仕事中に」

「いえ、別に。それじゃ、よろしくお願いします」

「こっちこそ。じゃあすまん、切るわ」

「はい」 アルカードはそう言ってから――池上がこちらが切るのを待っているのだろう、一向に電話を切ろうとしないので――、終話ボタンを押して通話を切った。

 さすがは池上さん。自分から電話を切らないという作法をきっちり守るか。

 感心しつつ携帯電話をたたんだとき再び電話が鳴り始め、アルカードは携帯電話を開いた。

 『神田』とだけ簡潔に表示された名前を目にして、通話ボタンを押す。

「俺だ」

「ドラゴス師ですか? 私です。今お時間は大丈夫でしょうか?」 穏やかな落ち着いた声音で、電話の相手はそう言ってきた。

 相手はセバスティアン神田――赤坂の在東京ローマ法王庁大使館に勤務する、聖堂騎士団渉外局の責任者だ。ローマ生まれの日本とイタリアのハーフで――国籍は日本に無いので日系イタリア人と言うべきか――、六年前まで彼の数代前の前任者であった父親の後を引き継いで日本国内におけるアルカードの補佐役を務めている。

「ああ、神田セバ――大丈夫だ。どうした?」

「装備品が大使館に到着しました」

「早いな」

「『クトゥルク』に対する対処を急がねばならない関係上、可能な限り急いでもらいました。ご自宅にお持ちしたいのですが、いつごろがよろしいでしょう?」

「そうだな――」 答えて、アルカードは腕時計に視線を落とした。

「俺は今日は十八時で仕事が終わる。そのあとでかまわないか?」

「承知いたしました」

「それと、例の件は?」

「電話では話せませんので、直接お会いしたときに」

「わかった。それでいい。よろしく頼む」

 それで会話を締め括り、アルカードは携帯電話を机の上に置いて立ち上がった。

 仕事に戻ろうと事務所の扉に向かったアルカードに、アンが声をかけてくる。

「わたしも出たほうがいい?」

「否、いい。まだもうしばらく余裕がある」

 そう答えて、アルカードは軽く首を回し、子供たちに手を振ってから事務所を出た。

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