Genocider from the Dark 27
反面緻密な魔力制御の出来ないアルカードの魔力戦技能はバケツ一杯の水をぶちまけて床の上に置いたコップに水を入れる様な、きわめて効率の悪いものだ。バケツからコップに水を移そうとしてコップの上でバケツを逆さにすればコップに入ったぶん以外の水は無駄になってしまう様に、実際に攻撃に使われる魔力よりもただ拡散して散っていく魔力のほうがはるかに多い――吸血鬼は生身の人間よりも霊体に対する依存度が高い生き物だから、魔力の枯渇はそのまま死に直結する。
そのため実際に衝撃波を構成する魔力容量よりもはるかに多くの魔力を浪費する魔力戦技能は、アルカードにとってはかなり使いどころの限られる技術だった。
だがその一撃と引き換えに十人の敵を一度に始末出来るのならば、まあ無駄というわけでもなかろう。口元をゆがめたまま、角度がよかったために難を逃れたらしい
今の一撃で死なずに済んだという意味では、まあ幸運だったといえるだろう――もっとも、だからと言ってそれが真に幸運とは限らないのも事実だったが。
少なくとも、彼らが死なずに済んだのは別に幸運ではない――たとえこの場から逃げ仰せたところで、地下通路でも無い限り脱出は不可能だ。晴天の昼間に
一歩踏み出すと、甲冑の脚甲が音を立てた。その足音を聞いて、それまで立ちすくんでいた
「動くな、こいつがどうな――」
繰り言を最後まで言い終えるより早く、短い連射に頭蓋を粉砕された
「……なにか言ったか?」
返答などあろうはずもない――床の上で塵の山になった
それで最後の手下が死に――最後に残ったのは
その表情にはもはや、アルカードに対する殺意は感じられない――その瞳は恐怖に染まり、膝はがくがくと震えている。当然と言えば当然か、他はともかく最後の一撃は彼らとアルカードの決定的な戦闘力の差を如実に示している。
そろそろ終わりか――
胸中でつぶやいて、アルカードは
そろそろママのおっぱいが恋しくなってきてるんじゃないのか、小僧?
皮肉な笑みを口元に刻んで、アルカードは
そしておまえの人生は――
「そしておまえの人生は――」
ラジカセから流れる歌詞に合わせてそのフレーズを口にしながら、懐に左手を突っ込んでX-FIVE自動拳銃を引き抜く。
それを目にして――とうとう
そこで終わりを迎えるのさ――
「ここで終わりを迎えるのさ――」
アルカードがトリガーを引くと、自動拳銃が二度火を噴いた。
相手の動きを予測して放った
だが、彼は容赦しなかった――
照準線上に標的を捉え、口元をゆがめてトリガーを二度絞る。
解き放たれた
着弾の衝撃で
扉の横の椅子の上に置いてあったラジカセが倒れ込んできた
「
「
あまり怯えられても困るんだがな――苦笑してそうつぶやくと、アルカードは
「よう、あんたが
「奴らの仲間はほかにいるのか?」
「否、あんたが殺したぶんだけだ。あ、それと
「そいつは
「奴らに噛まれたか?」
アルカードがそう尋ねると、
「ああ」
「どっち側だ?」
「あんたが触ってる側の首だ」 アルカードはその言葉に小さくうなずいて、そのまま手を引っ込めた。
「なら問題無い」
その言葉に、
ひとつは死亡した被害者が蘇生し吸血鬼化して他者の血を吸い、完全な
この場合は吸血被害者が死亡する前に加害者の吸血鬼が死んでいるから、どの条件にも当てはまらない。だが、目の前にいる
面倒だったので説明は省略し――説明したところでなにが解決するわけでなし、そもそもここにいる吸血鬼が全滅している以上、その作業自体が確認程度の意味しか無かったのだ――、アルカードはとりあえず致命傷になる様な重傷や大量出血が無いことに小さく安堵の息を吐いた。
脇腹のあたりに手が触れると、
「肋が何本か折れてるな――だが内臓を傷つける様な折れ方はしてない。右腕もだ。ナイフで切られた跡は――後遺症は無いが傷は残るな」
どちらかというと、
首筋に指先を這わせて噛み痕を確認しつつ、片手で無線機の電源を入れる。
「
「――はい、こちら
「
送信ボタンから指を離し――床の上に転がっていたプラスティック製の柄のついたパン切り庖丁を目にして、アルカードは小さく舌打ちした。
それがパンだろうが人間の肉だろうが、同じことだ――パン切り庖丁で斬られた傷は、中世ヨーロッパで使われていた刀剣フランベルジュと似た様な破壊状態を呈する。傷口が不規則に荒らされるために出血の止まりが悪く治りも悪く、結果感染症や
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