Genocider from the Dark 26
そのまま左足を軸にして転身、アルカードは背後に向き直り――その転身動作とともに繰り出した低い軌道の斬撃が、戦闘に立って突っ込んできていた吸血鬼の足首を薙いだ。
踏鞴を踏むことすら出来ずに、吸血鬼が足元に滑り込む様にして転倒する。足元で膝をかかえ込む様にして悲鳴をあげている吸血鬼のことは無視して、アルカードは周囲に視線を走らせた。
正面から一体――左に二体、右に一体。
それだけ確認してから、アルカードは前に出た。
足元に倒れ込んでのたうちまわっている吸血鬼の体を爪先ですくい上げる様にして宙に蹴り上げ、そのまま掌で押し出す様にして突き飛ばす。
正面から突っ込んできた吸血鬼の動きが一瞬鈍ることだけ確認してから、アルカードは次の攻撃に移った。
あの吸血鬼がどんな選択をしようが、それはどうでもいい――突き飛ばされてきた仲間の体を受け止めるか、よけるか。そのどちらを選んでも、動きは鈍る――連中に仲間を心配する様な情があるとも思えないが、少なくとも行動の邪魔にはなるだろう。
接近は左の二体のほうが早い――そのうち一体が繰り出してきたナイフの刃を、アルカードはわずかに頭をそらして躱した。はたから見れば、わずかに頭が揺れた程度にしか見えなかっただろう――同時に右手で抜き放ち据銃した自動拳銃が火を噴き、銃口をあてがった吸血鬼の右脇腹に銃弾を送り込んだ。
肋骨を粉砕しながら九ミリ口径弾が体内に入り込み、まだら色に髪を染めた吸血鬼が悲鳴をあげる――霊体武装を消すことで空いた左手でその顔を鷲掴みにして、アルカードは吸血鬼の体を右手から接近している吸血鬼のほうに向かって投げつけた――今度は受け止めるか躱すかなどと考えさせる余裕も与えまい。回避することも出来ず、右手から接近してきた吸血鬼が正面から突っ込んできた仲間の体の衝突に巻き込まれて、縺れ合う様にして転倒する。
「ぎゃああああっ!」 絶叫をあげながら、左から来ていた吸血鬼の二体目が掴みかかってくる。とにかく動きを止めてしまえば、まだ残っている仲間がとどめを刺してくれると思ったのか。
ヌルいんだよ、間抜けめ――
アルカードは唇をゆがめて笑いながら、伸ばされた手をかいくぐる様にして吸血鬼の内懐に飛び込んだ。そのまま左拳を吸血鬼の脇腹に押し当てて――
次の瞬間震脚の轟音とともに、吸血鬼の全身が破裂する――全身の皮膚が叩き込まれた衝撃波によって細かく裂けて血霞が舞った。内臓をミキサーにかけられたかの様に高速で振動させられて、吸血鬼の口から血と吐瀉物の混じった液体があふれ出す。衝撃で眼球が破裂し、両眼から涙の様に血が噴き出した。
全身の回転と発條を以て生み出した強烈な衝撃波を敵の肉体に叩き込む、ファイヤースパウンの魔術師の長セイルディア・グリーンウッドの白兵戦技術の奥義『
もはや人間の形状も保てないまま、全身の骨格と関節を破壊されて軟体動物の様になった吸血鬼の体が車に撥ねられたみたいに吹き飛ばされて壁に激突する――同時に送り込まれた魔力で
しっ――歯の間から息を吐き出しながら、アルカードは正面から近づいていた個体に向かって床を蹴った。彼は結局仲間を受け止める選択をしたらしく、動きが止まっている――そちらに向かって踏み込みながら、
絶叫をあげる不可視の曲刀を頭上に振り翳して、彼はそのまま踏み込んだ。仲間の体を受け止めたときに姿勢制御をしくじって尻餅を突いた吸血鬼に向かって、振り上げた曲刀を真直に振り下ろす。
足首を切断された吸血鬼の胴体を腰で上下に分断しながら、防御のつもりなのか交叉させて翳した吸血鬼の両腕を切断して――
シィィ――歯の間から息を吐き出しながら、唇をゆがめて笑う。手にした
今度の敵は三人、左右から同時に襲いかかってきている。
右手にひとり、左手にふたり――それだけ確認すると、アルカードは右側に向かって踏み出した。こちらに向かって駆けてきていたくすんだ金髪の
金髪の
いくつか内臓が破れたのか血の混じった胃液を吐き出しながら、
それでとりあえず金髪の
左方向から肉迫していたふたりのうち向かって右側のひとりは、こちらの動きに反応してそれより早く攻撃を入れようとしていたのだろう――体を前傾させていたために、両膝を切断された
もうひとりはこちらが方向転換した時点でいったん仕切り直そうと考えたのか、前進の勢いを止めかけていたために、尻餅をつく格好になっている。
進もうが退こうがたいして変わらない――死ぬのが早いか遅いかの違いだ。
唇をゆがめて、アルカードは前に出た。背中を容赦無く踏みつけにされた吸血鬼の口から、悲痛な悲鳴があがる――蹂躙による直接の損傷を免れた臓器に折れた背骨と肋骨が突き刺さって心臓や肺、その他の重要臓器を片端から傷つけたために、その悲鳴はすぐにごぼごぼという嗽の様な水音に変わった。
膝から下を切断した一撃から続く攻撃動作を止めないまま、
防御のつもりなのか翳した両腕が切断される様は、まるで熱したナイフでバターを切るかの様だった――その一撃はそのまま左肩から斜めに胴体に入り、鎖骨を叩き斬り左肺と心臓、右肺と消化器官の大部分を斬り裂いて右脇腹に抜けた。切断された腕と軌道に巻き込まれて切断された指数本が床に落下するより早く、悲鳴もあげられないまま
一瞥を呉れるいとまも惜しみ、アルカードは背後を振り返った――先ほど彼に横蹴りを喰らった
そちらはとりあえず無視して、アルカードは床の上に倒れた吸血鬼の背中に
そんな悲鳴は完全に無視して、アルカードは吸血鬼の抵抗を封じるために彼の背中に突き立てた
激痛で筋肉が収縮していた傷口から刃を無理矢理引き抜かれ、
染料がよくないのか、染色された髪が驚くほど簡単に音を立ててちぎれて指に絡みつく――頭のてっぺんが即席のハゲになった吸血鬼の体は続いて叩き込まれた血も涙も無い蹴りに吹き飛ばされるまま、間近まで肉薄していた仲間の体に激突した。
ぎゃぁぁぁっ!
イヤァァァァッ!
アぁぁぁぁアぁっ!
すさまじい悲鳴が頭の中に直接響く――ふたりの魔物たちが床に倒れ込むよりも早く、アルカードが繰り出した横薙ぎの一撃がふたりの胴体をまとめて上下に分断した。
いったん体勢を立て直すために床を蹴る――残る魔物たちと若干距離をとり、アルカードは壁を背にして身構えた。
残る吸血鬼は八人。動きを見せていない彼らの頭――ママのおっぱいでも飲んでいろと嘲弄した、態度のなっていないくそガキだ。
魔力の気配からすると、おそらく彼が
残る八人が散開し、一斉に金髪の吸血鬼に向かって襲い掛かる――
ふん、とアルカードは鼻で笑った。ことここにいたって、ようやく少しは知能を活用する気になったらしい――と言いたいところだが、一度にかかる人数が多すぎる。
彼は壁に近いところにいるから、吸血鬼たちは扇状に散開して襲いかかっていることになる――最終的には密集して、互いに足を引っ張り合うだけだ。勿論、それまで待つつもりは無いが。
壁を背にして
同時に隠匿が強制解除されて漆黒の刀身を持つ曲刀が虚空から溶け出す様にして姿を現し、バチバチと音を立てて青白い火花を纏わりつかせた刀身が大量の魔力を注ぎ込まれて強烈な激光を放つ。
うぎゃぁアあァぁッ!
ひぎぃィィぃいぃイっ!
ガァァァァッ!
「
次の瞬間――アルカードは
次の瞬間、魔力によって構築された刃状の衝撃波が室内を走り抜けた。
先ほど吸血鬼の一体を振り回してもうひとりの背中に投げつけたときに巻き添えを喰って薙ぎ倒された古びた丸テーブルの天板の一部が衝撃波に巻き込まれて寸断され、カランと音を立てて
轟音とともに建物が揺れ、天井から細かい埃がパラパラと降ってきた。衝撃波の軌道に沿って、壁に切れ目が走っていた。建物そのものを輪切りにしたのだ。
殺到してきていた
一番左端にいた年若い
残る
別の
物理的な大破壊と同時に
徐々に崩れつつある
厳密に分類すれば魔術の一種と取れなくもないのだが、魔術と呼べるほど精密な『式』を組んでいるわけでもない。
たいていの魔物ならば一撃のもとに霊体を消滅させるだけの対霊体殺傷能力を誇り、物理的にも建物のひとつふたつ輪切りにするほどの破壊力を有する。十分な破壊力で放つにはある程度チャージ時間が必要になるものの最大までチャージすると射程は二キロ近くにも及び、気温や気圧、湿度や風向きなどの物理的条件による影響を受けないために攻撃精度は極めて高い。
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