Genocider from the Dark 7

 前がつっかえていたために足が止まっている寄せ肉フレッシュゴーレムたちに向かって間合いを詰め、横薙ぎに剣を振るう――迎撃態勢の整っていなかった寄せ肉フレッシュゴーレムたちがその一撃で斬り斃され、三体ぶんの腕や頭、内臓が床に向かって撒き散らされた。だが、それらは床に落ちるより早く消失し――残る寄せ肉フレッシュゴーレムはこれで十体。

Aaaaaalieeeeeeeeee――アァァァァァァラァィィィィィィィィィィ――ッ!」

 声をあげて、さらに前へ――ようやく迎撃態勢を整えた寄せ肉フレッシュゴーレム三体が扇形に展開して、こちらに向かって雑多な武装を振り翳している。その背後で、四体の寄せ肉フレッシュゴーレムが跳躍するのが見えた。

 彼が繰り出したやや角度の浅い袈裟掛けの一撃と――

 寄せ肉フレッシュゴーレムの一体が迎撃のために繰り出した長剣の一撃が衝突する。

 次の瞬間には寄せ肉フレッシュゴーレムの長剣は熱したナイフをバターに入れた様にほとんど抵抗も無く切断され、続いて斬撃の軌道に巻き込まれた寄せ肉フレッシュゴーレムの首が斜めに刎ね飛ばされた。寄せ肉フレッシュゴーレムたちが手にしていた手斧の刃や戦鎚の長柄、長剣の刀身などがことごとく半ばから切断されて、重い音とともに床の上に落下する。

 その一撃は殺到してきた寄せ肉フレッシュゴーレムの左端の一体の首を刎ね飛ばしたあと、そのまま中央の寄せ肉フレッシュゴーレムの腕を巻き込みながら胸郭を斜めに斬り裂き、右端にいた一体の胴体を輪切りにした。上下に分断された肉体と、その攻撃の軌道に巻き込まれた腕の破片が地面に落下する。そしてそれよりも早く、彼は跳躍した四体の迎撃のために剣を振るった。

 剣を振り抜いたままの体勢では、切り返して迎撃するのは難しい――斬り返しをあきらめ、そのまま一回転してその場で上方を薙ぎ払う。三体の寄せ肉フレッシュゴーレムが胴体を切断され、残る一体は胴体まで鋒が届かなかったために片足を切断するにとどまった。

 胴体の切断面から血と内臓が撒き散らされ、びちゃびちゃと音を立てて床に降り注ぐ。そしてそれらはじきに塵と化して痕跡も残さぬまま失せて消え、寄せ肉フレッシュゴーレムたちの体も塵と化して崩れながら床に落下するよりも早く消滅した。

 片足を切断された寄せ肉フレッシュゴーレムが床に倒れ込み、立ち上がろうとしてもがいている――彼は塵灰滅の剣Asher Dustの鋒をその脳天に突き立てると、そのまま刃を斬り廻して股下まで分断した。真っぷたつにされて消滅していく寄せ肉フレッシュゴーレムを見送って、残った三体の寄せ肉フレッシュゴーレムに視線を向ける。

 三体の寄せ肉フレッシュゴーレムたちは、すでにこちらに向かって床を蹴っている。一体は正面から、もう一体は左手から側面に廻り込み、もう一体は跳躍している。

 正面、上、左――攻撃の順番を簡単に組み立てると、彼は前に出た。

Aaaalieeeaaaaaaaaa――アァァァァラァィィヤァァァァァァァァァァ――ッ!」

 正面から接近してきた寄せ肉フレッシュゴーレムが、一対の腕に持った長剣と手斧を同時に振り下ろしてくる――手にした塵灰滅の剣Asher Dustの柄を強く握り込むと、刀身が発する絶叫がさらに激しくなった。

Aaaaalalalalalalieアァァァァァラララララララァィッ!」 咆哮とともに、剣を振るう――塵灰滅の剣Asher Dustの物撃ちと衝突した長剣の物撃ちが火花とともに切断され、斬り飛ばされた鋒が宙を跳ね回って壁に突き刺さった。

 塵灰滅の剣Asher Dustの鋒がそのまま寄せ肉フレッシュゴーレムの頭蓋を斜めに割って入り、頭部の上半分を削り取る。筺体に憑依していた低級霊が霊体構造ストラクチャを破壊されて消滅し、物理構造を維持出来なくなった肉体が崩壊して塵に変わった。

 それを見届けもせずに、振り返る――側面に廻り込んだ寄せ肉フレッシュゴーレムが、思ったよりも機敏な動きで左手の一本で保持した長剣を突き出してきている。

 即座に判断を下して、彼は突き込まれてきた長剣の鋒を左腕の手甲で払いのけた。

 寄せ肉フレッシュゴーレムが突き込んできた長剣の物撃ちと、彼が左腕に装着した手甲の装甲板から張り出した出縁フランジが音を立てて衝突した――そのまま上体を捩り込んで突き出されてきた長剣の軌道を変え、長剣の鋒を体の外側にそらす。

 寄せ肉フレッシュゴーレムの腕の外側を滑らせる様にして左手を伸ばし、寄せ肉フレッシュゴーレムの衣装の左肩を掴む。踏み出しながら左手を引きつけると、寄せ肉フレッシュゴーレムは彼らとは比べ物にならない膂力に引きずられて体勢を崩して前方につんのめり、体勢を立て直そうと踏鞴を踏んだ。

 体勢を崩した寄せ肉フレッシュゴーレムの体を、衣装ごと引きつけて体の外側に放り出す――寄せ肉フレッシュゴーレムを放り出したときの体勢のまま上体をねじり込んで右手一本で繰り出した塵灰滅の剣Asher Dustの物撃ちが、バランスを崩して転倒寸前の状態に追い込まれた寄せ肉フレッシュゴーレムの背中に風斬り音とともに襲いかかった。

 塵灰滅の剣Asher Dustは無防備になった背中から、脊椎を叩き折りながら寄せ肉フレッシュゴーレムの体に斬り込んだ――皮膚を裂き筋肉を断ち心臓を叩き割り骨という骨を片端からへし折り、両肺を切断して二対の上腕を半ばから輪切りにしながら胸側に抜ける。

 輪切りにされた胴体が断面に沿ってずるりと滑って床に落下し、斬り飛ばされた四本の腕と衣装の切れ端と手にした武器の破片がその上に落下した。最後に棒立ちになっていた胸から下が、血だまりの上にバタンと音を立てて倒れ込み――そしてそれよりも早く塵と化して消滅する。

 残るは一体――彼は振り返りもせずに、頭上に向かって塵灰滅の剣Asher Dustの鋒を突き出した。不可視の長剣の鋒が、背後の壁を蹴って頭上から襲いかかってきていた寄せ肉フレッシュゴーレムの腹部を貫く。自重で柄元まで喰い込んだ寄せ肉フレッシュゴーレムの体を、彼は塵灰滅の剣Asher Dustごと振り回して頭から壁に叩きつけた。

 ぐしゃりと音を立てて寄せ肉フレッシュゴーレムの頭部が床に叩きつけたトマトの様に粉砕され、斬り進んだ塵灰滅の剣Asher Dustの刀身が腹部の傷口から上体を真っぷたつに切断する。

 そのまま消失してゆく寄せ肉フレッシュゴーレムにはそれ以上視線も向けず、彼は手にした塵灰滅の剣Asher Dustを水平に振り抜いて血を振り払った。ヴンという重い風斬り音とともに、振り払われた血が壁にこびりつく。

「さてと――待たせて悪かったな、クロウリーよ」

 彼は肩越しにそんな言葉をかけながら、損傷の治癒が進まないらしく床の上にうずくまったクロウリー・ネルソンに視線を向けた――クロウリーはいっこうに治る様子の無い傷口を手で押さえ、瞳に恐怖を湛えてこちらを見据えている。

 傷が癒える気配が無いのは、弾薬の素材のためだ――彼の使う特別誂えの九ミリ口径弾はヴァチカンの修道研究者たちが純銀やその合金を霊的に加工して作り上げた真稀銀ミスリルと呼ばれる特殊な銀合金を主素材に、アメリカで開発されたグレイザー・セイフティー・スラッグというフランビジリティーを模して作られている。

 真稀銀ミスリルを主素材にした弾殻メタルジャケットの内部には同じ素材で作った細かな散弾ペレットと水銀、それに彼の血液が封入されている。ホローポイント弾と同じ様に標的の体内に入り込んで展開マッシュルーミングすることで貫通性能を低下させ、弾頭が放出する運動エネルギーと弾頭の破片、散弾ペレットを撒き散らし、それによって殺傷能力を高めるフランビジリティーの一種だ。

 封入された散弾ペレットと水銀は銃弾の運動エネルギーを効率よく周囲に伝播させる働きをするが、弾殻メタルジャケット自体は加工の程度によってふたつのパーツに分かれている。弾頭先端部附近は変形して周囲に展開し内容物を放出するが、弾頭の後ろ半分は非常に堅く出来ており変形しない。

 弾殻メタルジャケットの先端附近は潰れる際に外側に展開して弾頭直径よりも外部に張り出し、弾頭が完全に停止する間の弾頭の運動と回転によって周囲の肉を切り刻む様に出来ているのだ。

 銃弾による損傷ダメージは、大きく分けて五種類――衝撃ショック拡張エキスパンション貫通ペネトレイション粉砕クラッシュ切断カット

 衝撃ショックは着弾そのものの衝撃で、銃弾が体内で停止することでより大きな衝撃が標的に伝達される。

 拡張エキスパンションとは着弾の際に放出されたエネルギーで肉体の組織が膨れ上がり、その際に筋肉組織や内臓、靭帯などを傷めることだ。硬質のゼラチンなどに銃弾を撃ち込むと、そのエネルギーでゼラチンが大きく膨れ上がって内部に空洞を形成するが、それと同じことが人体で起こるのだ。

 貫通ペネトレイションは筋肉や骨格を貫いて体内に銃弾が入り込み、また出ていくことだ――確実に出血量というダメージを蓄積していく半面、命中個所によっては敵の動きを止められないという問題点もある。貫通の過程で骨格を砕いたり、動脈を切断したりしないかぎり動きが止まらないのだ――フォークランド紛争中、イギリス軍兵士の装備するM16アサルトライフルから発射された初期の5.54mm×45mm弾を撃ち込まれたアルゼンチン兵がそのまま倒れず向かってきたという事例が存在する。

 粉砕クラッシュは体内に入り込んだ銃弾が変形もしくは展開したり、あるいは骨などに命中して体内で砕け散って鉛や弾殻メタルジャケットの破片を体内に撒き散らすことだ。これによって停止した弾頭は周囲の筋肉組織を傷つけ、命中個所によっては骨格や神経、動脈を損傷させる。また標的の体内で確実に停止し、最大限の運動エネルギーを放出する。

 切断カット弾殻メタルジャケット等の弾頭の構造物、あるいは弾頭そのものが神経や大血管等を切断することを指す――弾頭自体を両端が開放された筒状の構造にすることで、まるでクッキーの抜き型の様に筋肉組織を切断することに特化した銃弾も存在する。

 アルカードの銃弾は、水銀を充填しているために重い弾頭を高速で撃ち込む――運動エネルギーを極めて高効率に伝達して強烈な衝撃を与え、拡張ダメージを発生させ、内部で展開した弾頭の内容物が飛散して異物を撒き散らし、さらに展開したメタルジャケットで傷口周囲の組織を切断するのだ。

 このため普通の銃弾としても、彼の銃弾の殺傷力は非常に高い。

 さらに霊的に加工された真稀銀ミスリルはそれ自体が聖性を帯びており、が体内に入り込むだけでも吸血鬼にとってはダメージになる。彼の魔力を放出する媒体になるだけでなく、致命傷を与えることは無いが摘出しないかぎり吸血鬼の傷は治らない。

 手にした塵灰滅の剣Asher Dustの峰で軽く肩を叩きながら――彼はクロウリーに向かって足を踏み出した。

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