第7話 そろそろおはようの時間だ

「あれ、どうしたの? わすれもの?」

ドアを開けて出てきたスズハはやっぱりかわいくて、俺はそんなスズハが大好きで、だからやっぱり俺は言わなきゃいけない。


「起こしにきた」

キョトンとした顔のスズハに俺は続ける。

「ほら、いつもスズハに起こしてもらってるからさ、たまには俺が起こさなきゃなと思って」

「なに言ってるの? 私は起きてるよ?」


たぶんスズハは全部理解したんだと思う。

俺にはわかる。だって、さっきまでの俺の顔とまったく一緒だからさ。


「考えてみたらさ、おかしいんだよ。夢の中なのにさ、全然俺の思い通りにならないんだ。学校を近くしたのも、あったかくしたのも、花火を打ち上げたのも全部俺じゃなくてスズハだった。この夢の主人は俺じゃなくてスズハだ」


「ねえ、なに言ってるの。やめてよ、なに夢って? これは夢じゃないよ、一緒にプール入ったじゃん、花火したじゃん、海行ったじゃん……好きって……私のこと好きって言ったじゃん」


「それでも、これは夢なんだ。俺はスズハの夢にユメミヤによって入れられた。そうだろ? なあ、いるんだろ? 出てこいよユメミヤ」


「……どうも」

闇夜から現れたユメミヤは、いままでで一番不気味に感じられた。


「返して欲しいんだ、俺たちの現実を」

強い決意を持って、俺はユメミヤに向かって言った。

「待って! ……待ってよ。いいじゃん別に夢でも。楽しかったでしょ? だったら……」

スズハの顔はとても悲しそうで、そんな顔にさせてしまったのは俺なんだと思うと辛かった。

それでも俺は、今後スズハをこんな顔にさせないために言わなきゃいけない。


「それじゃダメなんだ、冬は寒くて、休日は二日だけですごい都合が悪い、だけど、そんな都合の悪い世界が真実なんだ。俺はそこにスズハと一緒に行きたい。一緒に過ごしたい。現実に戻ったら、必ずスズハに会いに行く。絶対に見つけ出す。だから、一緒に戻ろう。現実に」


スズハは泣いた。泣いて、泣いて、そしてそのあと小さな声で「……うん」と言ってくれた。


「……話はつきましたか?」

ずっと黙っていたユメミヤが声を出した。

「ああ、俺たちは現実に戻る」

「……わかりました。……返しましょう、現実を」

ユメミヤはやけにあっさり、現実を返すことを了承した。


「……では、目をつむってください」

俺もスズハもそれに従う。

「……それでは、よい目覚めを」

意識が浮くような感覚がして、朦朧としてきた。

きっとこれが夢から覚めるってことなんだろう。

俺は絶対にスズハに会いに行く、もう一度そう誓った。


薄れゆく意識の中で「ごめんね」という声がかすかに聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る