第2話 可愛い幼馴染が欲しいです

——ガタッ


下に落ちる感覚で思わずとびおきる。

ベッドの上で俺は全てを理解した。

「夢か……」

言葉の通り今までのは全部夢だったらしい。

なんでこんな夢をみたんだろう?

夢に理由を求めるなんて無駄か……

今、何時だろうか、近くに携帯が見当たらなかったので探そうと思って電気をつけた。

すると、目に飛び込んできたのは謎の男だった。


いや、ふざけてるんじゃなくてさ、本当に謎の男。

ほら、よく漫画とかで出てくるじゃん、長いコートを着てフードかぶってる正体不明のキャラクターみたいなの。

そいつが俺の部屋にいるんだ。

ほんとなんなんだこれ、まだ夢見てるのか?


そしたらもっと驚くよ、だってさ、そのフードの男が「……おはようございます」って不気味な声で言ったんだ。

本当に意味がわからないよ、なんで俺はこんな怪しい奴におはようって言われてるんだ?

これはいったいどういう状況なんだろうか。


「誰だ?」

正直怖かったけどさ、でもこのままってわけにもいかないから、俺は声を振り絞ってそう聞いたんだ。

するとフードの男は少し間を空けて話し始めた。


「……どうやら寝ぼけてるみたいですね、私はユメミヤです」

「ユメミヤ? ユメミヤって最近噂になってるあの?」

「……はい」


ユメミヤは都市伝説の一種だ、十年くらい前にできた噂で、最近になってまた流行り出したらしい。

ユメミヤにお願いすると、好きな夢をみれるというのが都市伝説の内容だったはずだ。


「なんでそのユメミヤがの俺の部屋にいるんだよ?」

「……よく思い出してください。……昨日何があったか」

昨日? 昨日は確か学校に行ってその帰りに……

帰り? 帰りに何があった? 何かあったはずだ。あれ、なんだっけ?


「……思い出せないみたいですね、まあ、しかたありません、少し助けましょう」

そう言うとユメミヤは俺の頭に手を伸ばして、かざした。

「おい、何すん——」


原理とかは一切わからないんだけどさ、その瞬間俺の頭にいろいろな記憶が蘇ったんだ。

まったくもって、わけがわからないけどね。


「……思い出したみたいですね」

ユメミヤはなおも不気味な声で、当然のようにそう言った。

確かに、俺がこいつとあったのは今が初めてじゃなかったみたいだ。

そう、話は昨日の放課後にさかのぼる。



「あー、暇、暇、暇すぎる」

学校が終わって帰り道、一緒に帰っていた明石がそう叫び始めた。

暇なのは同感だったんだけど、大きな声で叫んだ明石に俺は「うるさい」と抗議した。


「だってさ、暇だろ? もっとなんか楽しいことないわけ? 毎日毎日つまんねーよ」

「こんな田舎に楽しいことなんかないよ、あるのは田んぼくらいだろ」

そんなことを言っているうちに駅に着き、電車に乗り込んだ。


車内はわりかし空いていたけど、俺たちは壁にもたれかかって話を続けた。

すると突然、明石が聞きなれない名前を出した。


「あ、そうだ、お前ユメミヤって知ってる?」

「なにそれ?」

アカシによると、ユメミヤというのは好きな夢を見させてくれる怪人らしく、都市伝説の一種だといっていた。


その時はくだらないなとしか思わなかった。

こんな田舎だと噂が広まるのも早いんだろうなってさ。


そうして駅について、俺は明石と別れてバスに乗った。

バスの中は本当に暇でさ、さっきまでうるさい奴が横にいたのに急に静かになると、なんか足りない感じがするんだよな。

それもあってか、俺はユメミヤのことを考えていた。


「ユメミヤか、もし本当にいるなら、こんな田舎じゃなくて都会に住む高校生にしてほしいな。幼馴染も明石みたいな男じゃなくてかわいい女の子がいい」

俺はいつの間にか声に出していたらしい、こんな狭いバスのなかだ、絶対に誰か聞いてだろう。俺はもう恥ずかしくてバスを降りようと思って、降車ボタンを押そうとした。


そしたらさ、なんかおかしいんだ。

さっきまで確かに何人か人が乗っていたはずなのに、周りを見渡すとバスの中にはだれもいなかった。

不審に思って運転席も見てみると、運転手もいなくなってた。

無人で動いてたんだよこのバスは。


わけがわからなくてうろたえてると、後ろから突然声が聞こえた。

「……いいですよ、叶えましょう。……その『夢』を」

そいつはコートを着てフードを被ってて、いかにも謎の男という感じだった。


「誰だ?」

今思えばこの時も同じようなやり取りをしてたんだな。

もちろんこの時も正直怖かった。


「……ユメミヤです」

「ふざけるなよ、そんな格好で、頭おかしいんじゃないか」

フードを被ったコートの男は、どう見ても変質者にしか見えなかった。

「……心外ですね、せっかく『夢』を叶えてあげるといっているのに」

「できるわけないだろ、そんなこと」

「……できますよ、今日の夜、楽しみにしててください。……あなたの『夢』が叶いますから」

そう言ってユメミヤは消えた。


気づくとバスのなかには人がたくさんいた。

どうやら俺は眠っていたみたいだった。

そのあとはあんまりユメミヤのことは気にしないことにして、家に帰った。


それからのことはよく覚えていない、多分普通に過ごして普通に寝たはずだ。



「……それでどうでしたか? ……『夢』の夢は」

「本当なのか、お前、本当に好きな夢を見させることができるのか?」

到底信じられなかった。これが、何か科学的な機械で行われたことなら、まだ信じられた。

でも、こいつに科学的な要素は一つもない。


「……本当もなにも、実際に体験したでしょう。……まあ、実際には『見させる』ではなく『叶える』ですが……」

「どういう意味だ?」

「……現実ではな叶わない『夢』を夢の中で叶える、それが私の商売です。……いい商売でしょう?」


確かに需要があるならいいのかもしれない、だけど原理は? どうやってそんなことをやってるんだ?

「原理なんてありませんよ、ただ私はそういう存在というだけです」

疑問は声に出てたらしく、ユメミヤは答えた。

俺はもう一つの疑問も聞いた。


「さっき、商売って言ってたよな? ということは金をとるのか?」

「……確かに商売ですから、代価はいただきます。……ただ、今はお試し期間です、どうぞ『夢』を楽しんでください。……もしこれからも『夢』を続けたいと思ったなら、私を呼んでいただければ、そのときはさらに極上の『夢』をお届けします」

そう言うとユメミヤは、また、煙のように消えた。



ユメミヤがいなくなってから、俺はとりあえず学校に向かった。

それからずっと考えたんだけどさ、好きな夢が見れるって特にデメリットないんだよね。

いくら考えても思いつかないんだ。

代価っていうのは少し気になったけど、今はお試し期間だっていうし、わざわざ好きな夢を見ない理由もない。


だから、そのお試し期間というのが終わるまで、とりあえず夢を見続けることにした。

実はさ、少し楽しみだったんだよね、夢の続きを見るのがさ。

そんな期待を胸に秘めて、俺は眠りについた。

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