第1話 夢見る少年

「あ! やっと起きた。おはよ」

目を開けると知らない女の子がいた。

「……誰?」

「寝ぼけてるの? 大丈夫ですかー おーい」

女の子は俺の顔の前で手を振っている。


どうも状況が飲み込めない。

この子は誰? ここはどこ?

俺は誰? とはさすがにならなかったけど、やっぱりわからないことが多かった。


「ホントにおかしくなっちゃったの?」

俺がずっと黙っていると、心配そうな顔でその子は俺の顔をのぞきこんだ。


そうして目があっても、この子が誰だかはわからない。

「しょうがないなー、私はスズハです。幼馴染やらせてもらってます。よろしくお願いします。……これでいい?」

「え、あぁ、うん」

そうなんだろうか、この子は幼馴染で…… そうだよな、うん、そんな気がしてきた。

スズハ、耳にしっくりくる、聞きなれた名前のはずだ。


「まったく…… じゃあ早く学校行こ、遅刻するよ。下で待ってるから、早くしてね」

スズハはそう言って部屋から出て行った。


学校…… 行くんだよな、そう、学校。

いつも通りの毎日だ、クローゼットを開けたら制服がかかってて、靴下はタンス、スクールバックに荷物を入れたら、イヤホンを持って外に出る。

外に出たらスズハが待ってて、一緒に学校に行く。

さっきまでの俺は何を寝ぼけてたんだろう。



「だけどさ、毎日歩いて学校通うのめんどくさいよな。もう少し近いといいんだけどな」

「えー、私はキョウヤと歩くの楽しいけどなー キョウヤは楽しくないの?」

すっかり目も覚めて軽口を叩く俺に、スズハは少し笑いながら答えた。

「そんなことないよ、ただなんとなく近いといいなって思っただけ」

「そう、ならよかった。でも、そんなに近くしたいんだったら、すればいいじゃん」


「何言ってんの? 時々変なこと言うよ——」


——パチッ


俺の言葉を遮ってスズハが指を鳴らした。


「……えっ」

いったいどうなってるんだ?

何が起きた?

気づくと目の前には学校があった。


「どうしたの?」

スズハは本当に不思議そうに、何に驚いているのかわからないといった感じで聞いてきた。

「どうしたって…… おかしいだろ、なんで急に学校が……」

「だって、近い方がいいんでしょ?」


わけがわからない、どうなってるんだ?

「ねぇ、早くなか入ろうよ、寒いしさ」

そう言ってスズハは俺の手を引いて、昇降口まで向かった。

「だけど、十一月って結構寒いよね。あったかくしちゃおっか」

「ちょっと待って、そんなこともできるの? なんで?」

もう頭が追いつかない、なんなんだいったい。


「なんでって言われても…… それが当たり前でしょ?」

「は?」

「だから、近くしたかったら近くできるし、あったかくしたかったらあったかくできるのが当たり前じゃん。何言ってるの? 今更」


「そっちこそ何言ってるんだ、そんなことできるわけ——」

話終わる前に俺の体を衝撃が襲った。

なんだこれ、落ち……る?

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