間章 幼馴染
「もう大丈夫なのか?」
「八代、あまり無理はしない方がいいよ」
第二視聴覚室に入るなり、二人が同時に声をかけてくる。
「寝不足でぶっ倒れただけだ。大げさなんだよ」
さすがにバアルと戦った翌日。俺はぶっ倒れてしばらく起き上がることが出来なかった。
日曜日を挟んだものの学校は三日ぐらい休むこととなった。
久しぶりに登校したらクラスメイトは薄情なもので、「今度はどこに行っていたんだ?」と仮病だと信じて疑わない迎え方をしてくれた。
サボってどこかに出かけていたと思われているらしい。
確かに飛輪の任務で時折休むとき、そんな言い訳をしていたが怪我をしているんだから少しはいたわって欲しいものだ。
傷口を指さして無言で主張したら「遠間は今度は○○校をしめてきた」という謎の風評があがった。
失礼な連中だ。人をヤンキーなんかと一緒にしないでもらいたい。
ま、薄情なクラスの連中はともかくとして、二人はちょっと心配しすぎだ。
学校が終わった後もうちに見舞いに来ている。
月雲なんか昨日も二時間おきぐらいにメールを送ってきていた。
「さすがにあれほど強力な悪魔と単独で戦った者はいない。後でどんな後遺症があるか心配なんだよ。面倒くさがるな」
へいへい。まあ、こいつはこんな言い方だが本当に心配してくれているのはよくわかる。俺としてもあまり強くはいえなかった。
「やっぱり……あいつはシンヤを狙って俺んちに来たのか?」
「それは間違いないだろう。でなければ手負いの状態で、霊的結界の強いお前の家に乗り込んだりはしない。……逆に言うならあの日お前が彼女を連れて帰らなければ、彼女は危なかった事になる」
「ああ、親父から聞いたよそれは」
そのおかげで守ることが出来た、そうだ。怪我させちまったことを俺が気にしていると思っての慰めでは一応無かったわけだ。
「でも気になるよね……」
形のいい顎に指を当てながら、月雲がきりだしてくる。
「黄泉坂さんの能力って結局どういうのなんだろう? アレを倒して消えたりはしていないんでしょ?」
「みたいだな。絶賛調査中だとよ」
ダイダラボッチの封印が解けた頃に深夜の能力が発現している。
関連性がありそうなもんだが、奴を倒したってのに消えていないってことは偶然同じ時期だっただけか?
もっともこればりは俺たちにはどうしようもないんだが。
俺たちに出来るのは与えられた情報の中で自分の仕事をするだけだ。
「八代の話では生きていることが条件で、危険を冒してでも手に入れようとしたのだろう? そこまでして彼女の力を得たいとはな。それに結界の中にいたにも関わらずいる場所を見つけ出すとは」
「清十郎、ダイダラボッチが何かしての能力なら、本能みたいなもんでわかるのかもしれねえぞ」
「それにしては別の鬼に狙われているのは気がかりだな。それにしても本能か……」
「何か思いついたのか?」
「思いついたと言うほどではないが……悪魔が本能的に求め、居場所すら特定し、集まる。バアルですら直接傷つけたがらない。まるで悪魔の女王だなと」
女王、ねえ。ま、確かにわがままで偉そうな所とか姫様みたいではあるけど。
「それに直接ゲートが彼女を狙って開いたのも気になる」
「偶然……で片付けられないよな」
清十郎が無言で頷く。思わずため息を吐いた。解っていることなんてほとんどねえや。
「俺らに出来ることは結局、シンヤをそのときまで守ることだけか」
「……八代、今日も黄泉坂さん送って学校にきたの?」
「ん? ああそうだぜ。元々それが仕事だし、俺につきあって学校を休ませたみたいだしな」
授業なんか受けなくても、テストでいい点は取れるそうだし、元々不登校気味だったがね。
「黄泉坂さん、八代に甘えすぎじゃ無いの? そんなんじゃ八代が持たないよ」
「月雲、だから俺は大丈夫だって……」
「大丈夫じゃ無いでしょ!」
あれ、月雲さんひょっとして怒っている?
「鬼に狙われているのはあの子なんだよ。閉じこもってろとは言わないけど、もっと協力してくれていいと思うの。連中がどれだけ怖いかもうわかっているんでしょ? それなのに今も八代に頼りっぱなしで……八代もう少しで死んじゃうとこだったんだよ?」
俺じゃなくて、怒りの矛先は深夜か。
「あのときわたし達八代を信じて準備をしていたけど、それだって本当にもしと思って気が気じゃ無かったんだから……。結果的に助かったけど、それだって運が相当良かったんだよ? あの子がもっと最初から協力的だったら他にも対応とか……できて……」
「いい、ありがとう月雲」
涙目で訴えなくてもお前の気持ちはわかるさ。
俺だって月雲が危険な眼にあわされたら怒る。大切な、幼なじみだからな。
「さすがに婆亜留級に狙われるのは誰しも想定外だった。俺たち飛輪全てのミスだといえる。八代がよくやったと褒められこそすれ、彼女を責めるのは筋違いだ」
「でも……」
「いや、月雲。確かに結果論かも知れない。だけど考えてみろよ? 最初の予定通り月雲が護衛をしていたらどうなっていた? 俺だってお前になるべく危険な眼にあって欲しくない。だから、俺で良かったんだ」
月雲は涙目のまま頷く。
「だけど……今なら他の人だって手が空いているし、八代でなくても……」
鬼と戦う以上、俺たちに危険は避けられない。それは月雲にもわかっている。
だけどそれと感情的になるかどうかは別物だ。
俺たちはそんな風に覚悟を決めて達観できるほどの領域に達していないし、きっと仲間の死を簡単に受け入れるようになったら駄目だと思う。
「前のはイレギュラーだがそれ以外で八代が今回の仕事で不足があることはない。それに知っての通り能力者は何が原因で目覚めるかわからん。心が不安定になるのがまずいのは知っているだろう? 八代の話ではあまり心が落ち着いている娘ではないようだから特にな。八代が一番安心できるのなら八代に任せるのが一番いい」
「俺を信じろよ。それにさ、俺に何かあったら二人はすぐ駆けつけてくれるんだろ? それとも月雲は助けに来てくれないのか?」
「そ、そんなわけないでしょ」
「そうか、信じているぜ月雲。清十郎もな」
そうだ。二人が絶対助けてくれると信じているから俺だって無茶が出来る。
だからさ、泣くな。
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