第41話 交代
目覚めた時、そこは戦場に変わっていた。飛び交う閃光。そこは確かにラビッシュによって運び込まれたあの裁きの天秤の本部。だが建物の至る所がぼろぼろに崩れ落ちており、当初の面影は残っていない。
目を凝らして見てようやく見えたのは二つの影。ひとつは恐らくラビッシュのものだろう。もうひとつは誰だ……?影と影がぶつかり合って波動を生む。そこに立つのは仮面の男、ラビッシュと獅子の頭、マキシムだった。
「マキシム!」
声を上げて彼の名を呼んだら彼が後ろに飛び退いてこちらを見た。
「千里さん! 少しそこで待っていて下さい。すぐに終わらせます」
そう言って術を唱えだしたマキシム。ペンを片手にいくつもの魔術陣が出現していった。その大魔術はかなりの魔力を浪費するもの。もうすでにかなりの魔力を消費しているように見えるマキシムが使えば命に関わるものだ。慌ててやめろ! と声を上げたけれど、それを止められる者はそこにはいない。
「いいねぇ」
肩を揺らしながら同じく後ろに飛び退いたラビッシュが迎え打つように構える。その両手にあるのは大剣。あれは……!
アデッジの言葉が脳裏に蘇る。ラビッシュは魔剣の魔力を使っている。つまり、魔力の容量が倍はあるということだ。そんなの、今の状態のマキシムじゃ……!
マキシムが魔術陣を発動して、手に握りしめていた剣が刀に姿を返る。その刀は一直線にアデッジに向かって突き進んだ。キーーン、という耳鳴りと共に聞こえたカタン、カタン、という金属音。マキシムの刀が宙を舞って床の上へ転がった。そして、マキシムの体が後ろにはじけ飛ぶ。白い埃がもやもやと立ち上り、視界を邪魔した。
ようやく晴れてきたその埃の方へラビッシュの足がゆっくりと動いていく。いつの間にか、彼の顔にあった仮面は姿を消していて、そこに現れていたのは……
「エイ、ド……?」
意識の中で出会ったあの彼女の顔だった。
埃が姿を消して、そこに現れたのは壁に張り付けにされたマキシムの姿。うぅ、と彼の口からうめき声があがる。かろうじて彼は息をしていた。腹に突き刺さった魔剣。その力はマキシムの体にかけられた強力な呪縛を打ち破るほどのものだった。
「……エイド」
マキシムが小さな声で彼女の名を呼ぶ。
「さすがのお前も妹の顔を前にすれば剣が鈍るか」
声までもが彼女のものだった。
「かつてのアデッジも俺を刺せなかった。相変わらず、お前たちは甘い……」
ラビッシュがマキシムの顔の前に右手を前に突き出して、にんまりと笑う。
「ようやく、お前ともおさらばできるな」
マキシムが死ぬ。助けないと、でも今の自分じゃあそんなことできない。なにもかもが足りない。でも、彼女ならきっと!
意識の中に潜り込んで横に首を振る彼女の手を強く引っ張る。今は違う。さっきまでの自分とは違うから。今度はマキシムを、友人を助けるために自分は……それでも嫌がる彼女を引っ張り出す。
「そんなことをしたら千里さんの体がどうなるか……!」
「きっと大丈夫。だって自分には助けてくれる仲間がいるから。だから、今はその仲間を助けたい。エイドさん、力を貸して下さい」
「っ、」
選手交代だ。エイドさんをひっぱりあげた代わりに今度は自分の意識が奥へ奥へと沈んでいく。無責任かもしれない。でも……あとは任せます、エイドさん。
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