第33話 ……あれ?
狭間の端。そこには何もなかった。
「落ちないで下さいよ。私では助けられませんから」
「え? あぁ、はい」
端っこはこうなっていたのか。プツンと裁断されたかのように狭間の道は途切れていた。恐る恐る覗き込んだ下に見えたのは真っ黒な何か。何かが波立っているように見える。
「これは何ですか?」
「これは所謂"海"という奴ですよ」
「これが……海?」
「この海は全ての世界の受け皿。この世界に生を授かったものはすべてここへ戻ってくるように出来ています。もちろん、魔術師も最終的にはここへ返ることになります」
母なる海……か。それは故郷の海とはだいぶかけ離れていた。普通、海は青い。だが、ここには青空というものがない。変わりにあるのは黒い空と赤い月。海は黒一色で底は見えない。時折、世界から漏れ出た光が波に反射して光るくらいで、下の空間は闇そのもののように思えた。……怖い。けれど、目を離せなかった。相槌を返しながらもっとよく見ようと体を前へ倒したときだった。
「あ……」
「あ……」
海の真上の道、ぎりぎりのところはなぜかびしょ濡れで、つるんと見事に足をすべらせ、伸ばした腕は空を切り、自分は真っ逆さまに下へ落ちていった。
「あぁぁああああああああ"ーーーーーー!」
死んだ、と思った。
海は深く自分の体を包み込む。
暖かい――
不思議なことに海の中は暖かかった。
ゆっくりと瞼を開いていくとそこはまるで別世界だった。
上から見ていたときは一面が黒一色だったのに。中は透明。透き通っていた。不思議に思って上を仰ぎ見たが、水中から見た外も透けて見えた。そして、その先にいたのは先ほどまで一緒にいた彼。
「千里さん!千里さーん!」
こぽこぽと水中で泡がなる音が聞こえる中、彼の声も聞こえた。両手両足を動かして水面へと顔を出す。
「千里さん!」
水面よりも程5m程上のところにオーイルさんがいるのが見えた。
「ご無事で!」
……ご無事で? ご無事? ……あ。
あれ、自分は……あれ?
「獣人化できたのですね!」
「……あれ?」
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