第34話 組織
その後、オーイルさんの魔術で引き上げてもらって、今はへとへとの状態でなんとか世界の本部に戻ってきていた。
「どうぞ」
獅子の容姿からは想像できない程丁寧な対応、マキシムにはいつも痛み入る。入差し出された湯気立ち上る湯のみ。有難く引き寄せて両手で包むようにして持つ。ふーふーと軽く冷ました後に疲れきった体の中に流し込めば、ほっ、と声が出た。
「こちらも」
ふわふわの白いタオル。両肩にかけてくれた彼に一言「ありがとうございます」と言えば、「お疲れ様でした」と優しい声が返ってきた。
「海に落ちたと聞きましたが、寒くはないですか?」
「……はい。不思議と寒くはないです」
「中はどんな様子でしたか?」
「え、と。暖かくて、とても綺麗で透き通っていました」
どうしてマキシムはそんなことを聞くのだろうか。
「そうですか。無事で本当に良かったです」
普段ならマキシムは話をするときでも立ったままの状態なのだが、なぜか今回彼は自分の前にある椅子に座った。こちらを見る獅子の目がいつもよりも鋭く見えた気がした。
「もし、千里さんが水の獣人でなかったら、貴方は海に返っていたかもしれません」
「は、い?」
よくよく話を聞いていけば分かってきた真実。
マキシムに言われて気づいたのだが、そう言えば自分はあの海の中で呼吸が出来ていた。自分自身が何かしたわけでもないのに。それは自分が”鯉”の獣人だからできたことだったらしい。魔術師の素質があるとマキシムにスカウトされて、晴がパートナーに決まったと知らされたあの朝。同時に知らされたのが自分が”鯉男”になったということ。晴なら虎、アイなら鷲、オーイルなら鶏……といったようにそれぞれに決められた獣がおり、その力が備わっているということだった。
つまり、自分は鯉のように水中で呼吸をすることができるというわけだ。
「それって……使い道がなさすぎません? どうせならもっと使える獣がよかったです」
「どの獣が一番、というわけではありませんよ。それぞれ利点と欠点がありますから。普通、陸に生きる獣は水中で呼吸はできません。だから、あの海に落ちたらもう戻れないのです。でも、千里さんは海へ出入りすることができます」
「……そんなにいいことですか?」
「海はすべての世界の受け皿。つまり、すべての世界と繋がっている。海を使えるものはそこから世界の狭間へ移動することができます」
「なるほど。それは便利かもしれませんね」
「現に、我々世界の組織とは別の組織が海の中にあります。それが”竜宮”。千里さんのような獣人だけが入れる組織です」
「組織まであるんですか! 彼らは狭間すべてに行けるんですよね?じゃあもう彼らに任せてしまった方が……」
「残念ながらそれは難しいです」
「どうしてですか?」
ふ――……息を吐き出したマキシムが言う。
「そろそろお伝えしてもいい時期、ですね」
重々しく口を開いて話してくれた。
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