第32話 亀裂
今回の任務はそう難しくない。
以前に晴との任務で訪れた世界と世界の狭間に入り、その中の空間に異常がないかどうか確認して回るというものだった。簡単に言ってしまえば見回りをするということだ。
「この分だとすんなり終わりそうですね」
「どうですかね。見回りと言ってもここは狭間の世界。突発的な事象が起こることもありますから、気は抜かないように」
「突発的な……?」
「あぁ、そうでしたね。千里さんはまだ見たことがないとマキシムが言っておりました。ご説明致します」
「はい、是非」
壁と壁の間に出来た細く長い狭間の道。そこを一列に並んで歩きながら、オーイルさんは教えてくれた。
「千里さんの国では確か……地震や津波、日照りに寒波といった災害があったと思います」
「えぇ、頻繁にあります」
「それらの災害はすべてこの狭間の世界が発端となっております」
「狭間が災害を引き起こしていると?」
「まぁ、簡単に言ってしまえばそうですね。狭間、世界と世界の境目は互いの世界にある素がぶつかり合ってしまうため、どうしてもそういった事象が起きやすくなってしまうのです。そこで、我々世界のような組織が各々狭間を巡り、事前に事態が大きくなるのを防いでおります」
「……なるほど」
「例えば、何十年に一度の大雪、大地震……そう言った記録があると思います。それらは巡回の際に見逃した、または災害になってしまう前に防ぎきれなかったものです」
「自分たちが見逃せば国が滅ぶほどの事態になりかねないということですか!」
「そうですね。実際に、かつて疫病と言う災害で滅んだ国がありました。でもだからと言って、巡回の回数を増やしてもすべてを完全に防ぎきることはできません」
「どうしてですか?」
「事象の発端、兆しの感知というのは、熟練の魔術師でも難易度が高いのです。そのため、大抵の魔術師はある程度大きくなったところで消滅させる措置を取ります」
なんとなく分かってきた。ふむふむと頷くと、だいぶ歩いたのでそろそろ1つぐらいあってもおかしくないのですが、とオーイルさんが辺りを見回した。それを真似て自分も辺りを見回す。
「兆しって、光っていたりします?」
「……はい?」
壁の内側、つまり狭間の空間の中に見慣れない光が見える。
「それはどこにありますか?」
「え? そこにありますよ?」
光を放っている地面を指差すとその指の先を見つめたオーイルさんが首を捻る。
「……光なんて見えませんね」
そう言って、オーイルさんがこちらに顔を向けたその時。
グラリ、と大地が揺れた。
一瞬だったけれど、立っていられなくなる程の大きな揺れ。地震だ。バランスを崩した体を地に着けて体勢を低く保つ。すぐに二発目が来る。地震はよく経験していた。慣れたものだ。だが次の揺れは来ない。
「大丈夫でしたか?」
同じく地に伏せていたオーイルさんが上体を起こしながら言った。
「はい。大丈夫です」
「見つかりましたね。今揺れが起こったこの場所が災害の始点、兆点です」
オーイルさんの言葉に耳を傾けながら先ほど光を放っていた地面を見た。
「オーイルさん。そこ、すごい、明るい」
まるで光の柱が立っているようだった。上を見上げればその先は空高く、雲を突き抜けている。
「……私には大地に亀裂が走っているようにしか見えないのですが」
こんなことってあるんだろうか。光の柱に圧倒されながらオーイルさんを見た。
「とにかく、大事になる前に亀裂を塞いでしまいましょう」
オーイルさんは懐から札を取り出した。それを手に持って光の柱の中へ入っていく。数秒後、こちらに戻って来た彼が呪文を唱えると呆気なくそれは消滅した。
「消えた……」
あまりにあっけなさすぎて、少し拍子抜けだ。
「こんなものですよ」
消えた光の柱があったところを呆然と見つめていたらオーイルさんが言った。「では、行きましょうか」と歩き出した彼の後ろについて行く。
壁の端から端まで約2時間。途中何箇所か兆点を見つけて処理してそれぐらいの時間だった。5,6キロというぐらいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます