第31話 任務

 晴と言う女の子はとても前向きだ。


 翌日も見舞いに来てくれた晴。昨日は立ち入ったことを聞いてしまったんじゃないのかと気まずく思い、目を合わせることができなかった。そんな自分を見て彼女は「申し訳ないと思うなら早く完治して一緒に任務に参加しなさい!」と言う。助け舟を求めるつもりでその隣を見たけれど、そこに立っていたアイさんが「そろそろ俺も手に負えなくなってきた」とため息を吐き出していた。


 あはは……病み上がりの体で晴と一緒の任務に行って大丈夫なんだろうか。あとでマキシムに聞いてみよう。とにかく、その場は笑って誤魔化してなんとか切り抜けることができた。どちらかと言えば晴の視線よりもアイさんがこちらを見る視線の方が痛々しく感じたのは気のせいだろうか。


 さっそく、その後に来たマキシムに復帰早々いきなり晴とペアを組んで任務に行くのは危険じゃないですかとさりげなくアピールする。


「確かにそうですね……」


 鶴の一声ならず、獅子の一声で決定した。



 完治後、初めての任務。そして、そのための作戦会議。今回はマキシム抜きでパートナーと二人きりで行う。


「ちょっとなんでペアの相手がオーイルなの!」


 入念な任務の作戦会議中に押し入ってきた晴が不満そうに頬を膨らましながら言った。


「晴、そんないくら自分と組みたいからって……」

「は?勘違いしないで。私が組みたいのはオーイルの方!」

「……え?」


 ビシッと人差し指を伸ばして言った晴。それにすまし顔で見ていたオーイルさんがにっこりと笑って返した。


「千里ずるい! 私なんてまだオーイルと任務行ったことないのに! ず、る、いぃ!」


 晴がこんなにも駄々をこねるとは。顔を真っ赤にしているところから本気だと見て取れる。まさか、晴の奴、オーイルのことが好き、なのか?


「晴さん。ごめんなさい。今回の任務はマキシムから直々に頼まれたものなもので」

「……そうなんですか」


 しょんぼりと肩を落とした晴。もし獣化していたなら、耳と尻尾が垂れ下がっていたことだろう。


「任務へはまた別の機会に行こう。マキシムに言っておくよ。だから今日のところは千里さんと二人にしてもらってもいいかな?」

「え! 本当ですか! やった。ありがとうございます! すぐに出てきます!」


 途端に元気を取り戻した晴がるんるんとステップを踏みながら扉の方へ歩いて行き、「お邪魔しました」と深いお辞儀の後に部屋から出て行った。


 残された二人の男の口から漏れたのはため息だった。


「晴、いつもこうなんですか?」

「えぇ、まぁ。困ったものです」

「嫌なんですか?晴、いい子じゃないですか」


「もちろん晴さんのことは普通に好きですよ。明るくていい子だと思います。……でも、私からすれば、晴さんはあくまでいい"子"なんですよ」


「……それどういう?」

「なんせ私はもう300年近くここにいますから、彼女のことは可愛い子供にしか思えないんです」

「あぁ、なるほど」


 そういうことか、とようやく理解した。思い返してみれば、以前にマキシムがあの4人の中じゃオーイルさんが飛び抜けて年寄りだって聞いた気がする。もう少し別の言い方だったかもしれないが。


「話を任務の方へ戻しましょうか」

「そうですね。時間もあまりありませんし」

「では」

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