第28話 ある朝のこと

 ある朝のこと。それは晴が住んでいた邸宅で起こった。晴がいつも通り目を覚まして、二階から階へ降りたときの感じた異変。それは本当になんとなくだったらしい。


 朝食の席についた。そこにはいつも通り食事を運んでくるメイドに執事。側には父と母。それに妹に弟、兄に姉。晴は五人兄弟の三番目だった。


 妹と弟はいつも通り無邪気に笑っていた。でも、兄と姉たちの笑顔はどこかぎこちなくて。不安になって父と母を見たら、二人とも目を合わせてくれなかった。何かがおかしい。そう感じた。


 朝食を取り終えて、席を離れて自分の部屋に戻る。学校に行く準備をして家を出た。振り返って見た我が家。二階にいくつかるある大きな窓のうちのひとつ。そこに見える影。そこは晴の部屋だった。見えた影は二人分あって、なんとなく、それは父と母のものだと分かった。


 私はもうここへ返って来られない――


 晴はそう悟ったそうだ。晴の家は裏社会を牛耳っている組織のひとつであり、それと同時に代々魔術師を産む家系だった。幾重にも重ねられた契約。複雑な思惑が絡み合い抜け出すことのでいない深い深い沼。代々魔術師を排出する家は一生、その呪縛から解かれることはない。……一族全員の死を除いて。


 お家は組織と契約を交わす。その契約条件の中のひとつに組織への奉公があった。人員が足りなくなった際に出されるおふれ。それが届いたお家は一族から誰かひとりを排出しなければならない。その対価ととして、組織はその家に力を与える。富に権力、そして運。それは一般的な社会ではそうそう手に入るものではない。


 だから、組織から一族としの契約を持ちかけられたお家は大抵二つ返事で返事を返すのだ。「喜んで!」と。そして後悔する。後になって、一族としての死を選ぶお家の数を聞いてそこが二度と抜け出すことができない底なし沼であったことを知る。


 晴の家もそうだった。


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