第27話 晴の過去

「そこで千里はね。眠っていたの。まるでお姫様みたいに、とても……とてもね綺麗だった」


 マキシムから話を聞いたあと、数時間もしたら晴とアイが任務から返って来て、病室を訪ねてくれた。軽い挨拶を交わす。晴はベッド脇に据えられた丸椅子に座って背筋を伸ばして揃えた太股の上に拳を握りしめた両手を置いた。アイさんは扉の前に立ったままだった。


「千里。ごめんね」

「なんで晴が謝る?」

「だって、私があんな風に取り乱しちゃったから、千里が責任感じちゃったんでしょ」


 まぁ確かに。それはあるかもしれない。でも、選んだのは自分なのだから。


「千里の病室を出て、任務の前にアイのところに行ったんだ。そしたら、アイが目を覚ましていて。嬉しかった。奇跡が起こったって思った。すぐに一緒にいたオッチオと千里の病室に行ったんだよ。でも、そこに千里はいなかった。……いっぱい探したよ」

「心配かけてごめん」

「ううん」


 黙り込んでしまった晴はまた泣いてしまうんじゃないかって思った。彼女は強がりなだけで、本当は弱い女の子だった。任務中、戦闘の最中じゃあんな前線に出ているけれど、本当はきっと、怖くて仕方がないじゃないかって。それでも彼女は魔術師であり続けている。


「晴は……」

「うん?」

「どうして魔術師になったんだ」


 なんとなく気になった。自分以外の魔術師がどんな過去を持っているのか。


 彼女は俯いていた顔を上げて驚いたという風にほんの少しの間目を見開いて、自分を見た。そして、すぐに目を伏せて淡々と話し出す。彼女の昔話。彼女が魔術師になった理由。


「私の家はお金持ちだったの。そのお金はいわゆる表のお金じゃなくて、裏のお金で。でも、そんなこと私は知らなかった」


 さっきこちらを見た彼女の目がとても切なげに寄せられていた意味が分かった。今更だけど、聞いたことを後悔した。

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